第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-04] 一般演題(脳卒中①)

2022年7月3日(日) 12:35 〜 13:20 会場7 (12階 1202会議室)

座長:三好 卓宏(医真会八尾総合病院)

12:35 〜 12:45

[O-04-1] 残存する固有感覚を考慮した装具療法により歩行能力が改善した重症被殻出血の一例

成原 徹1, 渡辺 広希1, 山本 洋司1,2, 恵飛須 俊彦2,3 (1.関西電力病院リハビリテーション部, 2.関西電力医学研究所リハビリテーション医学研究部, 3.関西電力病院リハビリテーション科)

キーワード:皮質網様体路、固有感覚入力

【症例紹介】
30歳代男性。現病歴は自宅で倒れているところを家族が発見し他院へ救急搬送、頭部CTにて右被殻出血と診断され保存的加療となった。発症時の頭部CT画像より、高吸収域は右被殻から内包および視床の一部、放線冠、上縦束へ進展、脳室穿破はなし、CT分類 Ⅴ、推定出血量 41mlであった。第43病日に回復期リハビリテーション病棟へ入棟した。

【評価とリーズニング】
入棟時の理学療法評価として、NIHSS 12点、MAS 足関節背屈1、Foot clonus 偽陽性、FMA Lower motor 8点、Sensation 0点、MMT(R/L) 股関節屈曲4/2、膝関節伸展5/2、足関節背屈4/0、 FBS 13点であった。尚、下腿三頭筋が伸張した感覚および股関節への荷重感覚が残存していた。歩行能力は長下肢装具(KAFO)を装着し重度介助、FIM 43点(運動/認知:27点/16点)であった。皮質網様体路は主に体幹および両上下肢近位筋を支配しており、これらの筋力の30~40%を占めている。近年、拡散テンソルトラクトグラフィーを用いた研究において、障害側の皮質網様体路の残存および非障害側の皮質網様体路の繊維量が脳卒中患者の歩行能力に関連すると報告されている。本症例は遠位筋と比較して近位筋の機能が維持されていた点から、皮質網様体路の機能は残存していることが推測され、歩行能力の改善が見込めると考えた。また表在覚および運動位置覚は脱失していたが、筋が伸張した感覚および股関節への荷重感覚が残存していた。これらの固有感覚入力はCPGの賦活に重要であり、CPGが活動することで歩行における四肢の運動を誘発し歩行開始および歩行制御の起点となる。そのためKAFOを用いた歩行練習を実施するにあたり、残存している固有感覚を刺激することを意識した。

【介入と結果】
KAFOを用いた2動作前型での歩行練習ならびに起立練習、非麻痺側での片脚立位練習、階段昇降練習等を実施した。歩行練習はリズミカルかつ速い速度で強く踵接地するように介助した。装具の設定として、立脚後期で腸腰筋および下腿三頭筋を伸張するため足関節継手を背屈誘導、底屈0°制限とした。尚、装具は第81病日に膝関節継手のロックを解除し、28日間の移行期間を経て第109病日に短下肢装具(AFO)に変更した。退院時の理学療法評価として、NIHSS 10点、MAS 足関節背屈1+、Foot clonus 陽性、FMA Lower motor 18点、Sensation 0点、MMT(R/L) 股関節屈曲5/2、膝関節伸展5/2、足関節背屈5/1 、FBS 44点であった。歩行はAFOとT字杖にて見守りであり、快適歩行速度 0.75m/s、6MD 380m、PCI 0.51bts/m、FIM 99点(運動/認知:70点/29点)であった。第166病日に自宅退院となり、退院後は屋内および屋外歩行が自立となった。

【結論】
近位筋の機能が保たれた重症被殻出血症例において、固有感覚入力を考慮した装具療法を実施することは歩行能力の改善に有用である。