第34回大阪府理学療法学術大会

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Olal session

事前公開

[O-06] 一般演題(運動器④)

Sun. Jul 3, 2022 1:20 PM - 2:05 PM 会場4 (10階 1009会議室)

座長:東山 学史(大阪回生病院)

1:20 PM - 1:30 PM

[O-06-1] 人工股関節置換術後患者の心理面に着目した理学療法がQOL向上に有効であった症例

福元 栞奈, 村川 佳太 (社会医療法人愛仁会 高槻病院リハビリテーションセンター)

Keywords:人工股関節置換術後、運動恐怖感

【症例紹介】
 人工股関節全置換術(以下THA)ではQOLを低下させる要因である遷延性術後痛が約10~28%に生じ、精神・心理的因子は明らかな危険因子である。疼痛への恐怖感は回避行動を引き起こし、筋力や身体活動が低下しさらなる痛みの悪化につながる。今回、人工股関節置換術後患者の運動恐怖感に対し心理面を考慮した理学療法が有効であった症例を報告する。
 50代女性(専業主婦)が3年前より左股関節痛を自覚、左変形性股関節症と診断されX-1日手術目的で当院へ入院した。術前は何とか家事はこなせていたが動くのがおっくうであり、股関節が痛くなるのが怖く外出は最低限という生活をされていた。
【評価とリーズニング】
 術前QOLの評価(日本整形外科学会股関節疾患評価質問票:以下JHEQ)は13点、歩行速度0.65m/秒、VAS54mmの歩行時痛を認めた。術前評価時に「術後痛みで動けない」「脱臼する」などの発言が目立ち、運動恐怖感の評価(日本語版Tampa Scale for Kinesiophobia:以下TSK)を行ったところ47点であり、疼痛誘発や脱臼に対する恐怖感から運動や行動を制限する傾向にあると考えられた。
【介入と結果】
 術後の経過について術前にオリエンテーションを実施した。X日左THA施行し、X+1日より4点支持歩行器で離床開始した。歩行補助具を使用することで歩行による疼痛が軽減されることも共有し、病棟内での活動を促進した。恐怖感を抱いている動作へは積極的な曝露を行い、恐れていることは起こらないことを実感できるように介入した。また、疼痛や炎症の経過を説明し順調に回復過程であることを本人と共有した。退院時のX+13日には杖歩行安定し歩行速度0.90m/秒、VAS4mmと術前より改善しているが、TSK45点と運動恐怖感が依然強く、退院後に遷延性術後痛の発生リスクがあると判断した。そのため、退院後の生活を想定した上で、過度に不安に思わなくてもよい点については十分に説明を行なった。また、筋力増強運動や脱臼肢位等は、退院後もご自身で確認できるようにパンフレットで指導した。X+4ヵ月にはTSK34点、JHEQ50点、歩行速度1.16m/秒、VAS3mm、X+6ヶ月にはTSK 32点、JHEQ 52点、歩行速度1.19m/秒、VAS2mmであり、運動恐怖感は退院時よりも軽減し遷延性術後痛の発症なく経過した。
【結論】
 THAでは関節面の除痛は得られるが、手術に至るまでに経験された精神・心理的因子を含む疼痛や恐怖感は術後も持続する。本症例の背景には3年間にわたる慢性的な股関節痛の痛み体験があり、「痛みに対する恐怖感→回避・警戒心→不活動・能力障害→痛み体験」の悪循環に陥り、術前から運動や疼痛に対する恐怖感が強い傾向にあったと考える。そのため、手術に至るまでの背景や、心理面を考慮した理学療法を行なったことが、退院後の遷延性術後痛の発症を予防し、QOLの向上に繋がったと考える。