第34回大阪府理学療法学術大会

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Olal session

事前公開

[O-09] 一般演題(神経筋・脊髄①)

Sun. Jul 3, 2022 2:10 PM - 3:10 PM 会場4 (10階 1009会議室)

座長:加藤 直樹(大阪大学医学部附属病院)

2:20 PM - 2:30 PM

[O-09-2] 慢性疼痛および非器質性ジストニアを併存した脊髄不全麻痺患者に対する免荷式トレッドミル反復歩行の試み

安田 歩1, 二階堂 泰隆1, 浦上 英之1, 佐浦 隆一2 (1.大阪医科薬科大学病院リハビリテーション科, 2.大阪医科薬科大学医学部 総合医学講座 リハビリテーション医学教室)

Keywords:脊髄腫瘍、非器質性ジストニア

【症例紹介】症例は40代,女性,体格指数21.1 kg/m2,診断名は脊髄内胚細胞腫.原因不明の下肢運動麻痺・疼痛・ジストニアにより2年以上歩行困難であり,心理社会的な背景の関与が疑われていたが,今回Th11脊髄腫瘍が指摘され脊髄腫瘍摘出術を施行された.しかし,術後も術前と同様の下肢症状が残存していた.
【評価とリーズニング】
初期評価時(術後14日)は意識清明,病棟内ADLは車椅子にて自立していた.主訴は「足が痛くて自分のものじゃないみたい」,「また自分の脚で歩けるようになりたい」,破局的思考の評価指標であるPain Catastrophizing Scale(PCS)は36/52であり,自身の病状に対して固執する性格であった.安静時より,両下肢に発作的な激しい疼痛(Numeric Rating Scale;NRS:8)と下肢全体の屈曲・弛緩を繰り返すジストニアを認めた.身体機能は,筋力(MMT)が上肢・体幹5,屈筋群は股・膝関節2,足関節はジストニアにより評価困難,下肢伸筋群は全て1以下であり,深部腱反射は両側ともに消失していた.感覚機能は表在・深部感覚ともにL3以遠で消失し,Frankel分類はCであった.以上より症例は,脊髄腫瘍による不全麻痺に加え,慢性疼痛および非器質性ジストニアが併存する非典型的な障害像を呈していた.
【介入と結果】
脊髄不全麻痺患者に対する免荷式トレッドミル反復歩行は,歩行速度や耐久性の向上に寄与するとされている.また,破局的思考を持つ慢性疼痛患者には運動療法が有効であることも報告されている.そこで,長下肢装具装用下での免荷式トレッドミル反復歩行を4週間実施した.免荷量は全体重の約60%,時間は10分,速度は0.3km/hから開始し,漸増的に速度を上昇させた.なお,免荷式歩行器を使用した平地歩行では下肢の振り出しが困難であった.
4週間の反復歩行実施後,股関節屈曲筋力は右3:左4に改善,感覚機能は変化なかった.下肢痛は軽減(NRS:4)し,PCSは13/52と大幅に改善した.ジストニアも軽減し「自分の脚で支えている感じがする」と発言にも心理的変化がみられた.免荷式歩行は,トレッドミル上で1.2km/hで歩行可能,免荷式歩行器では自己にて下肢を振り出し,連続50mの歩行が可能となった.しかし,免荷なしでの実用的な歩行の再獲得には至らなかった.
【結論】
免荷式トレッドミル反復歩行での連続的な股関節伸展・屈曲運動や荷重感覚刺激が,股関節屈曲筋力,トレッドミル上での歩行速度,免荷式歩行器歩行時の歩行耐久性を改善させたと考えた.また,破局的思考の改善や発言の心理的変化が示すように,本人の希望に沿った運動療法の実施が心理面にも陽性に影響し,慢性疼痛および非器質性ジストニアの改善に繋がった可能性が考えられた.今回,入院中の治療では,実用的な歩行の獲得には至らなかったものの,短期間で歩行能力が改善したことから,長期的なリハビリテーション治療による運動機能改善の可能性が示唆された.