第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-09] 一般演題(神経筋・脊髄①)

2022年7月3日(日) 14:10 〜 15:10 会場4 (10階 1009会議室)

座長:加藤 直樹(大阪大学医学部附属病院)

14:50 〜 15:00

[O-09-5] 労作時呼吸困難感と易疲労性に着目した多発性筋炎の一症例

嶋津 鮎美, 浦 慎太郎, 富 謙伸, 本田 憲胤, 大洞 佳代子 (北野病院リハビリテーション科)

キーワード:多発性筋炎、労作時呼吸困難感

【症例紹介】左尾状核出血の加療目的でX日に入院された70代女性。身長143cm、体重41.3kg、BMI20.2kg/m。入院前から歩行時に息切れを認めていた。入院加療中に原因不明な首下がり、CK7968U/ml、LDH1902U/Lと筋原性酵素の上昇を認め精査された。X+16日に多発性筋炎の診断にてステロイド療法(PSL40mg/day)が開始され、X+47日に免疫ブログリン療法が施行された。今回、多発性筋炎による筋力低下に加え呼吸困難感、易疲労性を認めた症例について報告する。
【評価とリーズニング】X+1日から理学療法が開始された。転科・転棟に伴いX+21日から担当変更となった。開始当初は易疲労性、両下肢脱力感が著明であった。筋力はMMTで頸部筋2、体幹筋2、股関節周囲筋2と筋力低下を認め、握力は右9.0kg、左8.3kg、HHDを用いた膝伸展筋力は右0.09kgf/kg、左0.09kgf/kgであった。起立動作は座面高51cmから軽介助を要した。歩行は10m軽介助下で可能であり、SpO2の低下はないが、呼吸数は24回/分から40回/分に上昇し、修正Borgスケール:呼吸困難感/下肢疲労感(以下C/L)は2/3から9/7に増加した。担当変更時FIMは76/126点であった。多発性筋炎による筋力低下が不良姿勢、呼吸筋の筋力低下をまねき1回換気量が低下し、分時換気量維持のために呼吸数で代償することで呼吸困難感が増大したと考えられる。その結果、労作時呼吸困難感と易疲労性に繋がっていると考えた。
【介入と結果】理学療法は歩行器歩行、トイレ動作自立を目標とし筋力増強、基本動作中心に2カ月間介入を行った。運動負荷は修正Borgスケールを指標とし筋痛や疲労感を確認しつつ負荷量を設定した。2か月地点でCK値は167 U/mlまで減少した。起立動作は座面高45cmから自立となった。歩行は歩行器にて20m可能となり、歩行後の呼吸数は32回/分に減少し、修正Borgスケールは5/4であった。筋力はMMT頸部筋2、体幹筋2、股関節周囲筋2と変化なく、握力は右10.1kg、左7.5kg、膝伸展筋力は右0.13kgf/kg、左0.10kgf/kgとなった。また、基本動作の介助量が軽減しFIM91/126点に向上した。
【結論】2020年の多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドラインにおいて、治療開始早期からの介入開始は筋力回復、日常生活動作の改善に有効であるが、最適な負荷は明らかでないと報告されている。本症例は、労作時呼吸困難感は改善しADL向上につながったが、筋力低下は残存した。多発性筋炎の治療後は筋力の回復に先行してCK値の低下を認めると報告されており、今後継続して運動療法を行うことが重要であると考える。