第16回日本薬局学会学術総会

講演情報

共催シンポジウム

共催シンポジウム1
「医薬品情報提供の個別最適化」

2022年11月6日(日) 14:50 〜 16:20 第1会場 (3階 メインホール)

座長(オーガナイザー):中村 敏明 (日本医薬品情報学会 理事・大阪医科薬科大学 薬学部 臨床薬学教育研究センター 教授), 副座長:西村 佳子 (総合メディカル(株) 学術情報部)

共催:日本医薬品情報学会

[CSY1-3] リスク・ベネフィットコミュニケーション
ーコンコーダンスに向けた医薬品情報とはー

山本 美智子1, 2 (1.熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系) 客員教授, 2.東京理科大学 薬学部)

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リスクコミュニケーションは、リスク分析の中で、リスクア評価、リスク管理と並ぶ3要件の一つであるが、その重要性が認識されてきたのは比較的最近のことである。2010 年の薬害肝炎事件検討委員会の最終提言おいて,「市販後安全対策として,情報収集体制の強化とリスクコミュニケーションの向上のための情報の積極的かつ円滑な提供ならびに患者・消費者の関与」が求められた。
リスクと同様にベネフィットを含むコミュニケーションも必要で、そのためには、「リスク・ベネフィットに関する情報を専門家内にとどめず患者を含む利害関係者間において共有し、患者が健康や安全性等のリスクやベネフィットに関し独立した判断ができるように意図されたコミュニケーション」が求められる。コミュニケーションは,情報や意見を双方向的に交換する相互作用的プロセスであり、患者にとって、自分の健康や安全に影響を及ぼすリスクと適切な対応方法を知り意思決定にとっても必要なことと言える。

また、改正薬剤師法第 25条の2では、「情報提供及び薬学的知見に基づいた指導義務」が課された。患者のヘルスリテラシーも考慮して情報提供を行う際,患者がそれをどう理解し実践できたのかその行動変容を把握した上で処方にフィードバックすることが、治療効果の向上につながる。

しかし一方で、医療への不満、特に,コミュニケーションや情報開示に対する不満が大きいことも指摘されている。 このような状況の中、従来のパターナリズムからインフォームド・コンセントさらに一歩進んで「医療従事者と患者がエビデンスに基づいた情報を共有した上で治療の決定」を行うシェアード・ディシジョン・メイキング(Shared Decision Making, SDM)の考えが注目されている。薬物治療に関しては、SDMのサブセットとしてコンコーダンス(Concordance)が提唱され、それは、「パートナーシップに基づき、患者と医療従事者間で治療についての情報を共有した上で話し合って治療を決定し、そこには専門家としての患者の知識および意見が十分に考慮される。」という考え方である(1996, 英国)。

 薬物治療では、薬剤師は大きな役割を担っている。患者が感じている不安や問題を引き出してそれに対応し、また、治療経過をモニタリングし,薬物治療が効果的に行われているか評価していく必要がある。コンコーダンスに向けた医薬品情報提供を実践するには、様々な知識はもちろんのこと、コミュニケーション能力も重要になってくる。コンコーダンスの本質は医療従事者と患者の関わりとされ、治療の改善に向けた幅広いアプローチであり、これからの薬物治療全体のあり方に対する考え方を示すものといえるであろう。