日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

[S03]PM-2

2019年9月16日(月) 14:45 〜 15:45 C会場 (総合研究8号館NSホール)

座長:福島 洋(東北大学災害科学国際研究所)、渡邉 俊一(海上保安庁海洋情報部)

15:30 〜 15:45

[S03-13] GNSS-A海底地殻変動観測一次処理データフォーマットの作成と活用

*渡邉 俊一1、石川 直史1、横田 裕輔2、中村 優斗1 (1. 海上保安庁海洋情報部、2. 東京大学生産技術研究所)

GNSS-A技術を用いた海底測地観測は,海上保安庁や大学等,複数の機関で実施されている。各機関で得られたGNSS-Aデータはそれぞれ独自のフォーマットで収集され,独自のルーチンで処理・解析される。他方で,GNSS-A解析において必要となるデータは原則として観測手法によらない。そのため,もし互換性のあるGNSS-Aのデータフォーマットが作成されれば,複数の観測主体のデータを直接比較したり,それぞれの解析ストラテジで処理したりするといった連携が可能になる。さらに,データフォーマットが定まれば,GNSS観測のRINEXのように,GNSS-A観測を実施していない研究者もGNSS-A解析を直接行うことが容易になり,研究の裾野が広がることも期待される。そこで,本研究ではまず,GNSS-Aの解析において必要となるデータセットを以下のように整理した。

2019年現在において,海上保安庁の実施する海底地殻変動観測で測量船において取得される生データは,(1)音響波形データ(200 kHzサンプリング),(2)動揺計測データ(10-20 Hzサンプリング),(3)GNSSのRINEXデータ(2 Hzサンプリング),(4)音速測定用XBT/CTDデータ(1 m層の水温・塩分濃度プロファイルデータ)である(図中ピンク背景)。海底局位置の解析(以下,局位置解析)においては,まずこれらの生データから,各ショットに関するデータを抽出する必要がある。具体的には,現行の局位置解析において必要なデータとして,ショットごとに,ショットID(海底局番号),ショット発信時及び受信時の,時刻,トランスデューサ位置及び測量船の姿勢(それぞれ3成分),並びに音波往復走時に加え,そのショットが含まれる観測セット番号(一般にはフラグとして扱う変数)の17パラメータを抽出する(図中緑背景)。なお,ここで時刻が必要になるのは音速補正を時間の連続関数としてモデル化しているため,及び固体地球潮汐の効果を補正するためであり,測量船の姿勢が必要になるのはGNSSアンテナ・トランスデューサ間の測定誤差(トランスデューサ位置バイアス)を推定するためである。また,ショット発信時刻と受信時刻に加えて往復走時が必要なのは,海底局において設定される返答シグナルの発射ディレイが,海底局ごとに異なるためである。

これらショットごとのデータセットをCSV等にまとめたファイルを,GNSS-A一次処理データフォーマットとして定義できる。実際の解析においては,これらショットデータに加え,音速プロファイルデータ及び初期局位置データ等の広い意味での先験情報が必要になる(図中薄緑背景)。ただし,前者は実測値に限らずモデルによっては統計値でも代用可能であり,後者については本質的にショットデータから抽出可能であるため,データセットとしての重要性は低く,あくまで解析の再現性を担保するための情報に過ぎないともいえる。そのため,これらはショットデータとは別ファイルとして与えるようにしている。

今回作成したデータセットは観測の生データからかなりの容量が圧縮されたものであり,データ読み込みの高速化の点や,将来のデータ交換時にも有利に働く。他方で,データセットにおいて捨象される情報,中でも特に重要と思われるのはGNSS解析が一次処理に含まれておりその手法が観測者に依存してしまうこと,をどう扱うべきかについては,今後議論する必要があると考える。

本発表では,上記データセットについて,海上保安庁で収集されるデータを基に紹介する。また,作成したデータセットに合わせて,局位置解析プログラムを全面的に改修・簡略化し,容易にモデルを変更することを可能としたので,当プログラムにおいて試みた複数の音速モデルによる結果も示し,その内容についても議論する。