5:15 PM - 6:45 PM
[S03P-09] Gravity change due to glacier melting in Southeast Alaska: numerical modeling and resultant viscoelastic structure
1. 氷河融解に伴う固体地球の変形
温暖化による現代の氷河融解は海面上昇の要因の一つとして大きな関心ごとであり、これまで高度計・重力計・GNSSなどの測地観測によって、その変動が監視されてきた。しかし、これらの測地観測では様々な固体地球の応答が重畳して観測されるため、現代の氷河融解の寄与を測地観測データだけから定量的に把握するのは困難である。特に、氷河融解は地球表層での質量分布変化だけでなく固体地球の変形(GIA : Glacial Isostatic Adjustment)をも伴うため、様々な時空間スケールで海水準変動・地殻変動・重力場変動などを引き起こす。すなわち、現代の氷河融解量を正確に把握するには測地データの取得だけでは不十分であり、過去~現代の氷河融解に伴う固体地球変動を数値的にモデル化するなどの工夫が必要である。また、GIAの大きさは上部マントルの粘性率などの地下構造パラメータにも強く依存する。このことはGIAモデリングによって対象地域の地下構造を把握できることを意味しており、この点からGIA変動は地殻ダイナミクス研究においても非常に興味深い研究対象と言える。
2. アラスカ南東部のGIAモデリングに関する先行研究
本研究の対象地域であるアラスカ南東部は現在約16 km3/yrの氷河が融解しており(Larsen et al., 2007)、氷河融解の更なる加速の可能性も指摘されている(Arendt et al., 2002)。当地域では2000年代以降から稠密なGNSS網が整備され、最大約3 cm/yrの地表隆起が観測されてきた(Larsen et al., 2004)。この観測結果を用いて、Larsen et al. (2005)やSato et al. (2012)などの先行研究は、地球内部モデルに基づく荷重グリーン関数と過去~現在の氷河融解分布の時空間的な畳み込み積分によって当地域のGIA変動を数値的に計算し、その結果地殻変動データを精度良く再現することができた。一方で、当地域では2006年より絶対重力計による観測が繰り返し行われており、-2~-5 microGal/yrの絶対重力変化が観測されてきた(Sun et al., 2010; 風間ほか, 2015)。しかしながら、これらの先行研究では重力変化を定量的に再現するような数値モデルは十分に構築されておらず、モデルと観測に乖離が存在するままであった。そもそも重力変化は質量分布の変化を意味しており、特に氷河域での観測では現代の氷河融解を直接的に把握できるという利点がある。すなわち、アラスカ南東部で観測された絶対重力変化を精度良く再現することで、現代の氷河融解をはじめとした諸変動をより正確に理解できると期待される。
3. アラスカ南東部重力変化の数値的モデリング
そこで本研究は、当地域の重力場変動を説明しうるGIA数値モデルの構築を行った。当地域のGIA効果は「現代の氷河融解の寄与」、「過去のグローバルな氷河融解の寄与」、「過去のローカルな氷河融解の寄与」の3つに分けられる。まず、現代の氷河融解の寄与は、地球内部構造1066A(Gilbert and Dziwonski, 1975)から得られる弾性荷重グリーン関数(Matsumoto et al., 2001)と、アラスカ南東部における現代氷河融解モデルUAF07(Larsen et al., 2007)およびUAF05(Arendt et al., 2002)を空間的に畳み込み積分することで推定した。次に、過去のグローバルな氷河融解の寄与は、地球内部構造VM5a(Peltier et al., 2015)を用いて粘弾性荷重グリーン関数を作成し(Peltier et al., 1974; Spada et al., 2008)、それを氷河融解史モデルICE-6G(Peltier et al., 2015)と時空間的に畳み込み積分することで推定した。最後に、過去のローカルな氷河融解の寄与を計算する際には、まず先行研究で推定されている地下構造(Sato et al., 2012)のうち「リソスフェアの厚さ」と「上部マントルの粘性率」の2つを可変パラメータとし、この2つのパラメータの任意の組み合わせによって100個の地下構造モデルを作成した。その後、各地下構造モデルを用いて粘弾性荷重グリーン関数を作成し(Peltier et al., 1974; Spada et al., 2008)、それをLarsen et al. (2004,2005)の氷河融解史モデルと時空間的に畳み込み積分することで当地域の重力変化を推定した。このような計算を100個全ての地下構造モデルに対して実行し、重力変化の推定値と観測値の残差が最小になるような地下構造モデルを最適モデルとして採用した。
以上の方法によって推定された重力変化速度(g_cal)は、絶対重力計で観測された重力変化速度(g_obs)と残差RMS0.326 micorGal/yrで一致しており、先行研究(Sato et al., 2012)の結果(g_Sato(2012), RMS=1.265 microGal/yr)と比べて残差RMSが7割以上減少した(下図参照)。また、本研究で推定された地下構造パラメータのうち、上部マントルの粘性率は先行研究と同じ値(1.0*E+21 [Pa s])であったものの、リソスフェアの厚さは60 km→56 kmと、従来の推定値よりも更にリソスフェアが薄い可能性が示唆された。今後は当地域のテクトニクスも踏まえ、更なるモデルの向上と議論を進めていきたい。
温暖化による現代の氷河融解は海面上昇の要因の一つとして大きな関心ごとであり、これまで高度計・重力計・GNSSなどの測地観測によって、その変動が監視されてきた。しかし、これらの測地観測では様々な固体地球の応答が重畳して観測されるため、現代の氷河融解の寄与を測地観測データだけから定量的に把握するのは困難である。特に、氷河融解は地球表層での質量分布変化だけでなく固体地球の変形(GIA : Glacial Isostatic Adjustment)をも伴うため、様々な時空間スケールで海水準変動・地殻変動・重力場変動などを引き起こす。すなわち、現代の氷河融解量を正確に把握するには測地データの取得だけでは不十分であり、過去~現代の氷河融解に伴う固体地球変動を数値的にモデル化するなどの工夫が必要である。また、GIAの大きさは上部マントルの粘性率などの地下構造パラメータにも強く依存する。このことはGIAモデリングによって対象地域の地下構造を把握できることを意味しており、この点からGIA変動は地殻ダイナミクス研究においても非常に興味深い研究対象と言える。
2. アラスカ南東部のGIAモデリングに関する先行研究
本研究の対象地域であるアラスカ南東部は現在約16 km3/yrの氷河が融解しており(Larsen et al., 2007)、氷河融解の更なる加速の可能性も指摘されている(Arendt et al., 2002)。当地域では2000年代以降から稠密なGNSS網が整備され、最大約3 cm/yrの地表隆起が観測されてきた(Larsen et al., 2004)。この観測結果を用いて、Larsen et al. (2005)やSato et al. (2012)などの先行研究は、地球内部モデルに基づく荷重グリーン関数と過去~現在の氷河融解分布の時空間的な畳み込み積分によって当地域のGIA変動を数値的に計算し、その結果地殻変動データを精度良く再現することができた。一方で、当地域では2006年より絶対重力計による観測が繰り返し行われており、-2~-5 microGal/yrの絶対重力変化が観測されてきた(Sun et al., 2010; 風間ほか, 2015)。しかしながら、これらの先行研究では重力変化を定量的に再現するような数値モデルは十分に構築されておらず、モデルと観測に乖離が存在するままであった。そもそも重力変化は質量分布の変化を意味しており、特に氷河域での観測では現代の氷河融解を直接的に把握できるという利点がある。すなわち、アラスカ南東部で観測された絶対重力変化を精度良く再現することで、現代の氷河融解をはじめとした諸変動をより正確に理解できると期待される。
3. アラスカ南東部重力変化の数値的モデリング
そこで本研究は、当地域の重力場変動を説明しうるGIA数値モデルの構築を行った。当地域のGIA効果は「現代の氷河融解の寄与」、「過去のグローバルな氷河融解の寄与」、「過去のローカルな氷河融解の寄与」の3つに分けられる。まず、現代の氷河融解の寄与は、地球内部構造1066A(Gilbert and Dziwonski, 1975)から得られる弾性荷重グリーン関数(Matsumoto et al., 2001)と、アラスカ南東部における現代氷河融解モデルUAF07(Larsen et al., 2007)およびUAF05(Arendt et al., 2002)を空間的に畳み込み積分することで推定した。次に、過去のグローバルな氷河融解の寄与は、地球内部構造VM5a(Peltier et al., 2015)を用いて粘弾性荷重グリーン関数を作成し(Peltier et al., 1974; Spada et al., 2008)、それを氷河融解史モデルICE-6G(Peltier et al., 2015)と時空間的に畳み込み積分することで推定した。最後に、過去のローカルな氷河融解の寄与を計算する際には、まず先行研究で推定されている地下構造(Sato et al., 2012)のうち「リソスフェアの厚さ」と「上部マントルの粘性率」の2つを可変パラメータとし、この2つのパラメータの任意の組み合わせによって100個の地下構造モデルを作成した。その後、各地下構造モデルを用いて粘弾性荷重グリーン関数を作成し(Peltier et al., 1974; Spada et al., 2008)、それをLarsen et al. (2004,2005)の氷河融解史モデルと時空間的に畳み込み積分することで当地域の重力変化を推定した。このような計算を100個全ての地下構造モデルに対して実行し、重力変化の推定値と観測値の残差が最小になるような地下構造モデルを最適モデルとして採用した。
以上の方法によって推定された重力変化速度(g_cal)は、絶対重力計で観測された重力変化速度(g_obs)と残差RMS0.326 micorGal/yrで一致しており、先行研究(Sato et al., 2012)の結果(g_Sato(2012), RMS=1.265 microGal/yr)と比べて残差RMSが7割以上減少した(下図参照)。また、本研究で推定された地下構造パラメータのうち、上部マントルの粘性率は先行研究と同じ値(1.0*E+21 [Pa s])であったものの、リソスフェアの厚さは60 km→56 kmと、従来の推定値よりも更にリソスフェアが薄い可能性が示唆された。今後は当地域のテクトニクスも踏まえ、更なるモデルの向上と議論を進めていきたい。