日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

C会場

特別セッション » S22. 地震学における機械学習の可能性

[S22]AM-2

2019年9月18日(水) 10:45 〜 12:00 C会場 (総合研究8号館NSホール)

座長:久保 久彦(防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)

11:45 〜 12:00

[S22-09] 機械学習を用いた関東地方の地震動評価モデルの検討

*小穴 温子1、石井 透1、和田 健介1 (1. 清水建設)

日々蓄積されていく地震動観測記録が最大限に活用され随時更新される地震動予測モデルの構築を目指し、その予備的な検討として、関東地方において過去に得られた地震動観測記録を用いて、機械学習による地震動評価モデルの作成を試みた。
検討には、防災科学技術研究所のK-NETのうち関東地方に展開された強震観測点138地点(図1)で得られた地表記録を用いた。具体的には、気象庁の震度データベースで1996年~2019年1月15日に最大震度が4以上でかつ東京都千代田区で震度2以上となった地震のうち、関東地方で震度が記録された地点数が非常に少ない地震を除いた上で、地震規模と震源位置が偏り過ぎないように代表的な地震を選んだ。選択した地震は、関東地方を中心に一部遠方にまで広がっている(図2)。これらの地表記録のうち、加速度三成分合成振幅最大値が1 cm/s2以上の観測点での水平二成分の波形データを選択し、データに含まれるノイズや別地震を判別して、検討に用いることが適切な波形を取捨選択した結果、総計11488波形となった。選択したデータの震源距離X[km]とモーメントマグニチュードMWの分布を図3に示す。
地震動評価モデルの目的変数は、最大加速度PGA[cm/s2]と複数の周期T[s]における減衰定数5%の擬似速度応答スペクトルpSv[cm/s]および速度応答継続時間スペクトルTSv[s](石井, 2012)とした。なお、PGApSvは振幅の大きなデータが少なく、絶対値のままではデータの分布形状が偏っていたため、機械学習ではそれぞれの常用対数を与えることにした。地震動評価モデルの特徴量(説明変数)は、モーメントマグニチュードMW、震源深さH[km]、震源距離X[km]、震央方位Λ[degree]、地震基盤面深さD28[m](J-SHISで公開されている深部地盤モデルの第28層の下面深さ)、表層30m平均S波速度AVS30[m/s]の6種類とした。Λは真北を0°として時計回りに定めたが、真北を境に不連続量となるので、sinΛとcosΛのペアを与えた。機械学習手法には、勾配ブースティングと決定木を組み合わせた勾配ブースティング木を用いた。
ある特定の特徴量のみをランダムに並べ替え、その他の特徴量を元のままとしたときの目的変数の評価精度の変化の度合いにより、目的変数に対する各特徴量の影響度を調べた(図4)。MWの影響度は周期と共に増大し、Xの影響度やTSvに対するHの影響度は周期と共に減少した。AVS30の影響度は周期1秒で相対的にやや大きめ、D28の影響度は周期1秒以上で大きめ、Λの影響度は相対的には周期1秒以下で大きめとなった。目的変数の観測値と評価値の分布の例を図5に示す。評価値/観測値の比の平均はほぼ1、その常用対数標準偏差は地震動の振幅では0.2弱程度、応答継続時間では0.1程度で、評価値の大半は観測値の倍半分以内に収まり、全体として良くモデル化された。
作成した地震動評価モデルを用いて、MWに応じたPGAの距離減衰特性を検討した例を図6(a)に示す。特徴量の与条件は、茨城方面を震源とする地震をSIT006秩父で観測する場合等を考慮して設定し、プレート境界地震による岩盤サイトでの揺れを想定した。参考として、Morikawa and Fujiwara(2013)の距離減衰式(MW6とMW6.5)の平均も重ね描いた。MWXに応じたPGAの傾向は、大局的には既往の距離減衰式と同様にモデル化されていると言える。ただし、MW5やMW6の場合に比べてMW6.5の場合は、X<60 kmの傾きが小さく、ステップ関数状になっている。MW6.5ではX<60 kmの学習データが少なかった(図3)ため、十分な信頼性が確保できていない可能性がある。ΛによるpSv(T=1秒)の距離減衰特性の検討例を図6(b)に示す。ここでは、都心からみて北東・南・南西方向(Λ=45, 160, 230°)のプレート境界地震および北西方向(Λ=320°)の内陸地震を念頭に置いた。これら4ケースを比べると、同じMWXでもΛによって振幅の大きさに差が生じている。プレート境界地震を想定した3ケースでは南方向が最も小さく、北東方向と南西方向の大小関係は50 km程度を境に入れ替わっている。また、北西方向は距離減衰の傾きが相対的に小さい。X<100 kmでは顕著に振幅が小さいが、X>150 kmでは南方向を上回っている。このような違いは、震源特性の地域性や伝播経路特性の違いがモデルに反映された結果と考えられ、Λを考慮することによって、既往式よりも細かな地域特性を考慮した地震動評価モデルを作成できる可能性を示唆している。一方で、データの偏りがモデルに影響を及ぼしている可能性もあるため、今後さらなる検討が必要である。