日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

緊急セッション » S24. 2019年6月18日山形県沖の地震

S24P

2019年9月17日(火) 17:00 〜 18:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

緊急セッションであるS24のポスターは3日間掲示出来ます。

17:00 〜 18:30

[S24P-10] 経験的グリーン関数法による2019年山形県沖の地震の地震動シミュレーションと強震動生成域の推定

*染井 一寛1、宮腰 研1、郭 雨佳1 (1. 一般財団法人地域地盤環境研究所)

2019年6月18日22時22分(日本時間)に山形県沖でMJMA 6.7(Mw 6.4)の内陸地殻内地震(以降,2019年山形県沖の地震とする)が発生し,新潟県村上市で震度6強,山形県鶴岡市で震度6弱の地震動が観測された.また,国立研究開発法人防災科学技術研究所の強震観測網K-NET,KiK-netのうち震源に近い(震源距離17 km)K-NET温海(YMT004)でも最大加速度633 cm/s2(3成分最大値)が観測され,このような大きな強震動記録の生成要因を調べることは重要である.そこで本研究では,2019年山形県沖の地震による強震動生成について主として震源の観点から実態を把握するために,震源近傍を含む周辺の観測点での地震動シミュレーションを行い,観測記録を広帯域に再現し得る震源モデルの推定を試みた.

本研究では,経験的グリーン関数法(Irikura, 1986)を用いた広帯域地震動シミュレーション(0.2-10 Hz)を実施した.経験的グリーン関数(要素地震)は,2019年7月11日16時4分に発生したMw 4.1の余震を採用した.本研究の震源モデルは,できる限り単純なモデルで広帯域地震動を再現するために,正方形の強震動生成域(SMGA; Miyake et al., 2003)を1枚仮定し,背景領域からの寄与は無いものとした.また,F-netから公開されているモーメントテンソル(MT)解の幾何形状とDouble-Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)によって再決定した余震分布を参考にして,南東傾斜の逆断層面を設定し,SMGAの破壊開始点は再決定された本震震源位置(深さ13.38 km)に固定した.経験的グリーン関数法による波形合成に必要な要素地震の重ね合わせ数Nと,本震と要素地震の応力降下量比Cの値は,本震と要素地震のコーナー周波数をSource Spectral Ratio Fitting Method(三宅・他, 1999)によって推定した.SMGA内の相対的な破壊開始点,破壊速度,SMGAの大きさ,ライズタイムといった未知パラメタは,震源に近いKiK-net(地中記録)の4地点3成分の記録を用いて,加速度エンベロープと変位波形について,観測と合成の残差が最小となる組み合わせをグリッドサーチによって決定した.

推定されたSMGAは面積が64 km2,ライズタイムは0.4秒,応力降下量は10.7 MPaとなり,過去の内陸地殻内地震と比べた場合,平均的な値となった.SMGA内の破壊伝播方向は,主として北東側に向かって進行し,破壊速度は2.6 km/sと推定された. SMGAの地震モーメントは2.24×1018 Nm(Mw6.2)で,これはF-netのMT解で公開されている地震モーメント4.41×1018 Nm(Mw6.3)の54.5 %となった.得られたSMGAモデルを用いて,震源域周辺(震央距離約60 km以内)のK-NET,KiK-netの強震観測点,及び国立研究開発法人防災科学技術研究所広帯域地震観測網F-net(強震記録)の観測点の計18地点の強震記録3成分を対象としてフォワード地震動シミュレーション(0.2-10 Hz)を行った.その結果,推定されたSMGAモデルから生成される合成地震動記録は観測地震動記録を概ね再現することができた.一方で,震源に近い一部の観測点(例えば,YMT004)に注目すると,観測速度波形や観測変位波形にパルス状の波形パケットが2回見えるのに対して,合成波形は1回のパルスのみを再現している.ここでは1枚のSMGAが震源から破壊開始する仮定でモデリングを行ったが,他地点の観測波形の特徴を精査し,複数のSMGAの必要性やそれらの破壊開始点位置について今後検討する予定である.


謝辞:国立研究開発法人防災科学技術研究所強震観測網K-NET,KiK-net,広帯域地震観測網F-netの強震記録,F-netのMT解,及び気象庁一元化震源カタログの震源情報,一元化処理検測値をそれぞれ使用しました.記して感謝いたします.