日本地震学会2021年度秋季大会

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一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

PM-1

2021年10月16日(土) 13:30 〜 14:15 A会場 (A会場)

座長:高野 智也(弘前大学)

13:30 〜 13:45

[S01-06] 脈動P波の震源カタログ: 波浪モデルWAVEWATCH III との比較

〇西田 究1、髙木 涼太2 (1.東京大学地震研究所、2.東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター)

■はじめに
地動の脈動の存在自体は1940年代から知られている。励起源が海洋波浪であることは既に確立されており、その励起の特徴から約 0.07 Hz の卓越周期を持つPrimary microseisms と約0.15 Hzの卓越周期をもつ secondary microseimsである。Secondary microseismsは海洋波浪のちょうど倍の卓越周波数を持ち、海洋波浪の非線形効果が励起に大きく寄与している事が知られている (LonguetHiggens, 1950)。ともに海洋波浪が励起源のため表面波が卓越しているが、脈動の遠地実体波も観測される。
■解析手法
脈動の起源メカニズムを系統的に理解するためには理解するためには、脈動P波の重心位置のカタログ化は情報は重要である。本研究では、beamforming法の自然な拡張として、slowness ベクトルと波面の曲率の両方の情報を抽出できる新しい手法 (auto-focusing法)を適用した。
■解析
2004年から2018年までに防災科学技術研究所が運用によって展開されているHi-net (速度計 鉛直成分約750 点) を解析した。機器応答は時間領域 で補正し (Maeda et al., 2011)、収録機器起源のコヒーレントなノイズは予め差し引いた (Takagi et al., 2015)。解析には、これら広帯域化した速度計記録を用いた。時系列を512秒ごとに切り出し、地震の影響を取り除いたセグメントは解析から除外した。遠地の地震はglobal CMTカタログ (Ekström et al., 2012) を用い除外し、近地の地震は平均自乗振幅の時間変化の大きさから判断し除外した。さらに、観測点ごとの平均自乗振幅の大きさに閾値を設定し、局所的なノイズの影響を受けているとして解析から除外した。選択したデータを用い、0.1-0.25Hzの帯域でcentroid single force (CSF) を推定した。解析はP波、PP波、PKP波、PKIKP波を対象とた。また3次元構造の補正を、3次元波線追跡プログラムLLNL (Simmons et al., 2012)用いて行った。
■WaveWatch IIIに基づくcentroid カタログの推定
より定量的に理論を検証するため、海洋波浪モデル (WAVEWATCHIII) を使ってP波の理論的な予想値と比較した (c.f., Nishida and Takagi, 2016)。海洋波浪による励起はArdhuin et al. (2011)に従い計算し、波線理論によるP波のGreen関数は Farra et al. (2016)に従った。
■解析結果とWaveWatch IIIの比較
Centroidの時空間分布を比較したところ、Hi-netによる解析結果とWAVEWATCH III は大局的に調和的であった。Centroidは北半球の冬の期間、主に北西太平洋・北大西洋に分布していた。南半球の冬の期間には、主に南太平洋・南極海に分布していた (図参照)。
本研究では、P波、PP波 , コアフェイズを解析したが、PP波の検出数はWAVEWATCH III に比べて優位に少なかった。また、PP波によって決定したCSFの大きさも優位に小さいことが分かった。これは、PP波が浅部の不均質構造の影響をより強く受けるために、3次元構造の影響を補正しきれなかった事が原因だと考えられる。
解析結果とモデルの間の最も大きな違いは、オーストラリア北部 (カーペンタリア湾)のP波脈動である。毎年夏に顕著な脈動活動が観測されている。この違いは、WAVEWATCHIIIがLonguet-Higginsメカニズムで重要となってくる海岸での波浪の反射を上手くモデリングできていない事に起因しているかもしれない。ただカーペンタリア湾は閉じた湾であるために、海洋波浪活動があまり活発でないことが知られている。また水深も約50mと浅いために、Longuet-Higginsメカニズムとは違った非線形効果を考える必要があるかもしれない。