日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S02. 地震計測・処理システム

PM-1

2021年10月15日(金) 13:30 〜 14:15 D会場 (D会場)

座長:片上 智史(鉄道総合技術研究所)

14:00 〜 14:15

[S02-07] 豊橋沖海底ケーブルを用いた長期間DAS観測

〇木村 俊則1、荒木 英一郎1、横引 貴史1、山岡 耕春2、辻 修平2、渡辺 俊樹2 (1.海洋研究開発機構 海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター、2.名古屋大学大学院 環境学研究科附属 地震火山研究センター)

1. はじめに
光ファイバ分散型音響センシング (DAS: Distributed Acoustic Sensing) は光ファイバ内に光パルスを連続的に送信し,ファイバ内にランダムに分布する散乱点からの後方散乱光を観測・処理することにより光ファイバ上の数m間隔での分散歪を連続的に観測する。DASは主に資源探査分野での稠密構造探査・モニタリングなどを対象として技術開発が進められてきたが、近年は自然地震観測等,地球科学分野への適用も進み,従来型の地震計では実現不可能であった超稠密地震観測の可能性を示す研究成果が多数報告されている。DASによる観測は光ファイバに光源および処理装置を接続するのみで実現できるため,既存の光ファイバを利用することで観測コストを従来の手法と比較して大幅に低減することができる。特に,海底等の受振装置を設置することが困難な海域観測ではこのメリットは大きい。また,固定された光ファイバの利用により繰り返し探査・モニタリングが容易に実現できる。一方で,DASをこれらの地震観測・モニタリングの観測に適用するためには,精度等の観測性能を明らかにする必要があるが,現状観測例・議論は十分でない。

2. データ観測
本研究では,愛知県豊橋沖の海底ケーブルを用いDASの長期観測を行い,観測された地震記録,常時微動記録などを利用してDASの観測データ・観測性能の議論を行う。2021年5月1日~7月11日にJAMSTEC所有の豊橋沖ケーブルにAPsensing社製のDAS収録装置 (N5226A R50) を接続し,2か月以上の連続データの観測に成功した。陸側から23kmまでのケーブル区間を観測区間に設定し,ゲージ長40m, 空間サンプリング間隔5m, 時間サンプリング間隔 2ms での観測を行った。観測開始時に複数のゲージ長 (5-40m) の試験観測を短時間実施し,最適な観測パラメータを決定した。観測装置一式は陸上のケーブル局舎に設置し,収録データは大容量NASに保存された。また,データQC,処理を円滑に行うため,観測と並行して時間・空間サンプルをそれぞれ 10ms, 50m にダウンサンプルするデシメーション処理をリアルタイムで実施した。

3. データ確認・処理
観測された時系列データには,常時微動,近地・遠地地震記録などの信号が確認された。観測データの時系列を目視で確認すると,常時微動成分は陸側の振幅が沖側と比較して相対的に強いことが分かった。定量的な議論のために常時微動成分のパワースペクトル密度 (PSD) を計算したところ,複数の明瞭なピークが確認された。0.08-0.1 Hz付近,および0.4-0.5 Hz 付近に明瞭なピークが確認された。複数のケーブル距離で観測されたデータのPSDを確認したところ,低周波数側0.08-0.1 Hzのピークは陸側から沖側にかけて振幅が減少することが分かった。一方,0.4-0.5 Hz のピークはケーブル距離が変化してもそれほど振幅が変化しないことが確認された。これらのシグナルの由来を議論するために,F-Kスペクトルを算出しそれぞれの波群の見かけ速度を確認した。F-Kスペクトルの計算の結果,低周波数側のシグナルは,傾き10-20 m/s程度の傾きで伝わる波群,高周波数側のシグナルは300-500 m/s程度で伝わる波群であることが分かった。これらはそれぞれ海洋波浪の伝播速度,表面波の伝播速度に対応していることから,前者は海洋波浪の伝播自体により励起される圧力変動由来のシグナル,後者は脈動セカンダリ成分由来の表面波・境界波であると考えられる。地震記録としても,震央距離数km~3500 km, マグニチュード2~7程度までの複数の近地・遠地地震が観測された。例えば2021年5月3日7時57分に岐阜県で発生したM2.4の近地地震,5月22日3時4分に中華人民共和国青海省で発生したM7.3の遠地地震についても,明瞭にとらえられていることを確認した。

4. さいごに
本研究では豊橋沖海底ケーブルを利用した長期間のDAS観測および観測データの初期解析を行った。初期解析の結果,海底ケーブルによるDAS観測では波浪伝播,脈動由来の信号が明瞭に観測されること,広範囲での近地・遠地地震が観測されることを確認した。今後,陸上の観測点に設置された地震計の比較などにより,観測性能の定量的な評価を行う予定である。また,将来的なDAS観測と定常震源を組み合わせた地震波速度構造モニタリング実現に向けた取り組みとして,付近に設置されたACROSSによる信号抽出の取り組みを今後行う予定である。