日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S03. 地殻変動・GNSS・重力

AM-1

2021年10月15日(金) 09:00 〜 10:30 D会場 (D会場)

座長:富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、中村 優斗(海上保安庁海洋情報部)

09:15 〜 09:30

[S03-06] 2020年12月から2021年1月にかけて発生した熊野灘におけるスロースリップイベントの時空間発展

〇飯沼 卓史1、荒木 英一郎1、縣 亮一郎1、山本 揚二郎1、木村 俊則1、町田 祐弥1、有吉 慶介1、市村 強2、堀 高峰1、小平 秀一1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.東京大学地震研究所)

1.はじめに
2020年12月から2021年1月にかけて、紀伊半島南東沖のプレート境界においてスロースリップイベントが発生した。南海トラフからフィリピン海プレートが沈み込むこの領域においては、直上の海底ではDONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquake and Tsunamis、地震・津波観測監視システム)が運用されるとともに、IODP(International Ocean Discovery Program、国際深海科学掘削計画)の一部として構築された、LTBMS(Long-Term Borehole Monitoring System、長期孔内観測システム)によって、地震及び地殻変動の観測が行われている。LTBMSの備える間隙水圧計や地震計により、陸上の観測では十分に検出できなかった、南海トラフ近傍のプレート境界浅部で発生するスロースリップイベントが捉えられるようになってきており、今回のイベントに際しては、3つの孔内観測点(C0002、C0006及びC0010における間隙水圧変化や傾斜変動が観測された。さらに、同海域に設置された別の傾斜計(BMS1)やDONETの海底水圧計によっても、スロースリップイベントによると考えられる地殻変動が記録されている。本講演では、これらのデータを用いて、プレート境界面におけるすべり分布の時空間発展を推定した結果について紹介する。

2.解析手法
海底地殻変動データをもとにスロースリップイベントの時空間発展を把握するためには、プレート境界でのすべりと海底面及び海底下における地殻変動を結びつけるグリーン関数が必要である。今回の解析対象のように、変動源であるプレート境界と観測点との距離が近く、また、構造的な不均質が著しい場合には、それらの影響を正しく取り込んだグリーン関数を用いることが、精確なすべり分布の推定には不可欠である。さらに、特に傾斜変動には海底地形の効果も大きく表れると考えられるため、これらの情報を取り込んだ有限要素法モデルを構築して、プレート境界に配置した単位すべりによる各観測点での応答を計算し、これをグリーン関数として用いて解析を実施することとした。 解析には、3か所(C0006、C0010及びBMS1)での傾斜観測データ、LTBMS3点(C0002、C0006及びC0010)での間隙水圧観測データ、並びに、11点のDONET観測点での海底水圧データを用いた。海底水圧データに関しては、複数観測点からなるノードごとに基準点を選定し、それ以外の観測点の水圧データと基準点の水圧データとの差分をとることで、相対的な上下変位を見積ったうえで解析に使用した。観測期間全体を、観測データに見られる特徴によって9つの区間に分割し、それぞれの区間における傾斜・ひずみ・変位速度データをもとに、すべり速度の分布を推定した。 すべりの空間分布及び時間変化が滑らかになるように拘束をかけ、重みをABICによって最適化する逆解析手法を用いてすべりの時空間発展を推定したが、観測項目ごと及び観測点ごとのデータの重みづけなどに任意性が残ること、また、正断層型のすべりが顕著に求まることなどから、逆解析によって得られた結果を1次的なものとし、同時期に発生していた超低周波地震の震源分布も参考にしつつ順解析を2次的に実施して、最終的なすべり分布を得た。

3.結果
推定されたすべり分布からは、プレート境界の深い側から始まったスロースリップイベントが、深い側でのすべりを継続的に発生させつつ領域を浅い側へと広げ、南海トラフごく近傍(もしくは海底にまで)すべりが到達した様子が見て取れる。また、トラフ軸近傍にすべりが到達したのちも、同領域では2週間程度にわたってすべりが継続していたと考えられることも分かった。 今後、プレート境界面以外でのすべりの可能性や、グリーン関数を計算するためのプレート境界面上のノード位置の影響等について検討し、得られた最終的な結果に基づいて発表を行う見込みである。