The 2021 SSJ Fall Meeting

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Room D

Regular session » S06. Crustal structure

AM-1

Thu. Oct 14, 2021 9:00 AM - 10:30 AM ROOM D (ROOM D)

chairperson:Ayako Nakanishi(JAMSTEC)

10:00 AM - 10:15 AM

[S06-05] A New PHS slab Model beneath the Tokyo Metropolitan Area Based on 3-D P-wave

〇Motoko ISHISE1, Aitaro Kato1, Shin'ichi Sakai1, Shigeki Nakagawa1, Naoshi Hirata2 (1.Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 2.National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)

■はじめに
 首都圏とその周辺域では,伊豆弧のオホーツク/北米プレートへの衝突,相模トラフからのフィリピン海プレート東端部の沈み込み,日本海溝からの太平洋プレートの沈み込み,そして相模トラフから沈み込んだフィリピン海スラブ東端部と日本海溝から沈み込んだ太平洋スラブの相互作用(近接〜接触)といった,地球上まれに見る多様なテクトニクスが展開されている.この一帯では非常に活発で多様な地震活動が見られ,歴史的に様々なタイプの大地震に見舞われてきていることが知られている.また,近い将来においても,プレートの沈み込みに伴うM7程度の地震の発生確率が非常に高いとされている(地震調査委員会,2014).  このようなテクトニクスと地震活動を解明すべく,1980年代から地震活動と3次元地震波速度構造解析研究が精力的に進められ,複数の構造モデルが提案されてきている(中村・島崎,1981;野口,1985;笠原,1985;Ishida, 1992;Nakajima et al., 2009; 酒井,2012など).しかし,既往研究が示すフィリピン海スラブ上面の形状・深さ,およびフィリピン海スラブの北東端の位置と形状は,モデルによって大きく異なっている.そこで本研究では,これまで注目されてこなかった「地震波異方性」の観点から,首都圏下のプレート構造を求めその解釈を行う.

■データと解析方法
 解析に使用した地震は,2010年〜2013年に関東地方で発生したM3以上の1877地震であり,これらの地震の初動P波到達時刻をデータとした異方性トモグラフィー解析(Ishise et al., 2015)を実施した.観測点は,高感度地震観測網および首都圏に密に配備された首都圏地震観測網(MeSO-net)であり,観測点数はそれぞれ294点と296点で,合計500点である.なお,到達時刻は,防災科研で作成されたマニュアルピックの初動P波到達時刻データ(441,170個)を使用した.

■等方性構造の特徴
 異方性を考慮したトモグラフィー解析で得られた等方性構造の特徴は,概して既往の等方性トモグラフィー研究(例えばNakajima et al., 2009)によるものと調和的であった.一方で,MeSO-netのデータを用いたことで浅部の構造の分解能が格段に向上し,これまでは明らかでなかった構造を検出することができた.例えば,深さ20km以浅において,東西方向に伸びるいくつかの帯状の構造が得られた.これらは,関東平野の下に存在すると推定されている古い付加体の分布とよく対応している.帯状構造の深さ変化を追跡することで,付加体の深部構造についての知見が得られると期待される.

■異方性構造の解釈
 得られた異方性の方向の特徴から,大陸地殻の異方性(R1),海洋性地殻の異方性(R2),スラブマントルの低速度異常領域の異方性(R3),大陸マントルの異方性(R4),スラブマントルの高速度異常領域の異方性(H)を定義した(Ishise et al., 2021 JGR).
 R1,R2,R3,R4,Hの異方性の方向は,それぞれWNW-ESE,NW-SE,NS,WNW-ESE, NSで特徴付けられ,これらは大陸プレートの縁辺部に形成された付加体の走向方向,相模トラフの走向,地震メカニズムで卓越した断層面の走向,太平洋プレートの沈み込み方向,地震メカニズムで卓越した断層面の走向と一致しており,R1は付加体の層構造,R2はプレートbendingによる亀裂の配列,R3とHはスラブマントル内の弱面の配列,マントル物質の結晶格子選択配向に起因した異方性であると推定される.

■首都圏下のフィリピン海スラブについての新たな知見
 上記の解釈を用いることで,フィリピン海プレートの構造について次の新たな知見が得られた.

(1)北緯35.7-36度付近で東西方向に伸びる一連の低速度異常領域は,これまでは蛇紋岩化したマントルウェッジ(Kamiya and Kobayashi, 2000)や大陸地殻とマントルウェッジ(Nakajima et al., 2009)と解釈されてきた.しかし,本研究で得られた異方性構造から,この低速度異常領域は,大陸プレート,フィリピン海プレートの海洋性地殻,大陸プレートのマントルで構成されていることがわかった.
 その結果フィリピン海プレートの北東端は,既往研究(Uchida et al., 2009)による北東端と比べて南側に位置する可能性が示された.

(2)房総半島に分布する南北方向に伸びた深さ20km以深の低速度異常領域は,これまでは大陸プレートの地殻深部構造として解釈されてきた.しかし,本研究で得られた異方性構造から,スラブマントル内の低速度異常領域であることが新たに示された.
 その結果,フィリピン海プレートの上面深さが既往のモデルと比べ浅くなった.