日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S06. 地殻構造

P

2021年10月14日(木) 15:30 〜 17:00 P2会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S06P-08] 南海トラフ西部周辺におけるランダム速度不均質構造

〇高橋 努1、尾鼻 浩一郎1、石原 靖1、三浦 誠一1、小平 秀一1、金田 義行2 (1.海洋研究開発機構、2.香川大学)

数Hz以上の地震波は,伝播距離の増大とともに波形が崩れ複雑な波群を示す.これはランダムな不均質構造による多重散乱として解釈され,波群の継続時間などを用いて速度不均質のパワースペクトル密度などを推定する研究が進められている.S波の初動到達から最大振幅到達までの時間差(ピーク遅延)は内部減衰の影響を受けにくく,ランダム不均質構造を推定するのに適していると考えられている.本研究では四国沖からトカラ列島周辺までの領域を対象とし,陸上観測点と海底地震計で得られた地震波形記録を用いてランダム速度不均質の三次元構造を推定した.解析に用いた地震数は492で,防災科学技術研究所のHi-net及びF-net,海洋研究開発機構が島嶼部に設置した臨時陸上観測点,265台の海底地震計の計485点で得られた約38000経路の波形記録を使用した.速度波形の水平動2成分からRMSエンベロープを合成し,4-8Hz, 8-16Hz, 16-32Hzにおけるピーク遅延を測定した.ランダムな速度不均質のパワースペクトル密度はvon Karman型を仮定し,スペクトルの勾配を規定するパラメータ(κ)とパワースペクトル密度の振幅を規定するパラメータを未知数とした.構造推定にはreversible jump MCMC(Green 1995)を用い,未知数の数と空間配置を変えながら最適解を探索した.散乱の周波数依存性を考慮するため,同一波線の異なる周波数間の残差が相関をもつよう,尤度関数の共分散行列の非対角成分の一部を非ゼロとした.
解析の結果,地殻内の非火山地域ではκが0.8程度と推定され,速度不均質のパワースペクトル密度は波数15km−1で10−8 ~ 10−7 km3 と比較的弱い不均質性が推定された.別府から島原の火山列や桜島付近の火山群の下は周囲に比べて不均質性が強く,深さ0-30kmではκ は約0.5,波数15km−1でのパワースペクトル密度は約10−6km3と推定された.これらの火山の下では,深さとともにκが減少し,パワースペクトル密度が大きくなる傾向が見られた.沈み込んだ九州パラオ海嶺付近では顕著な不均質性の変化は見られなかったが,九州パラオ海嶺付近に設置された海底地震計では16-32HzのS波が明瞭に観測されない傾向が見られた.これは散乱の影響を強く受けたために最大振幅がノイズレベルを下回った可能性を示唆し,高周波数域での多数の欠測により不均質性を過小評価した可能性が考えられる.
種子島・トカラ列島の東側では,波数15km−1でのパワースペクトル密度が火山地域の地殻内と同程度の媒質が深さ0-20kmに分布していることがわかった.この領域ではκが0.5以上であり,スペクトルの特徴は火山域とは大きく異なる.この領域のプレート境界10-20kmと推定されており(Yamamoto et al. 2020),主に上盤側の構造を反映していると考えられる.また中国地方西部の深さ20-40kmに火山周辺と類似した不均質性の強い領域が推定された.同様の構造は九州東部の深さ20-30kmにも分布する.これらの不均質性の強い構造の成因などは現時点では不明であり,今後他の領域での解析事例を増やすなどして解釈を進める必要がある.