日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

P

2021年10月14日(木) 15:30 〜 17:00 P3会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S09P-18] 沈み込み帯の超巨大地震のalong-dipセグメントの要因

〇蓬田 清1 (1.北海道大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門・地球惑星ダイナミクス分野)

沈み込み帯プレート境界のmegathrust地震に対して、海溝軸に沿っての断層面のセグメントの区分け(along-strike segmentation)は詳細な議論が長くなされてきた(e.g., Lay et al., 1982)。しかし、2011年東北沖地震では、全く異なった海溝軸に直角方向のセグメントの区分け(along-dip segmentation)が本質的な役割を担っていたことが多くの研究で明らかになった。超巨大地震の典型例と考えられてきた1960年チリ地震や2004年スマトラ地震では、この方向のセグメントは実質的に単一であり、だからこそalong-dip segmentationはそれまで考慮されてこなかった(along-dip single segmentatiom、以下single seg.と呼ぶ)。2011年東北沖地震では深い側のセグメントと浅い側のセグメントの破壊様式・発生前後での挙動のコントラスが明らかとなり(along-dip double segmentation, double seg.)、1964年アラスカ地震でも実はそのような特徴が内在していたことが判明した(Yomogida et al, 2011; Koyama et al., 2012)。

 Double seg.の地震が発生する沈み込み帯は、海溝軸と陸側の海岸線にある程度の距離が必要で、海溝側の浅いセグメントは通常時の地震活動がほぼ皆無に対して、深いセグメントでは活発な活動と対照的である。さらに、double seg.の沈み込み帯では、海溝軸方向の隣接したセグメント間(along-strike)で発生様式や大地震時での滑り量が劇的に異なる点は、従来型のsingle seg.のmegathrust地震の概念とは異なっている(e.g., Feymueller et al., 2008)。例えば、東北沖地震の宮城沖では100mに迫る大滑り量のセグメントに対して、両側の三陸沖と福島沖では突然小さくなった。この海溝軸方向のセグメント毎の大きな変動は、沈み込むプレートの年代(温度構造)といった従来考えられてきた不均質性では説明がつかない。また、海山などの存在では、セグメント境界を規定する可能性のみで、セグメント境界をまたいでの差異の要因にはならない。

 沈み込むプレートの探査が飛躍的に進み、例えば、東北沖で沈み込む前の太平洋プレート浅部に大きな構造の違いが最近発見された(e.g., Fujie et al., 2020)。東北沖地震での大滑り領域の沖合の太平洋プレートでの均質で厚いチャート層に対して、その北側ではpetit hot spotsによりチャート層が岩脈などで著しく乱されている。このプレート浅部の微細構造の違いが数百年以上にわたる歪み蓄積の有無を決して、通常の地震活動や東北沖地震での滑り量の違いをもたらしたとするFujie et al. (2020)の案は自然である。しかし、浅いセグメントのみならず、深いセグメントでも宮城沖と三陸沖では通常の地震活動で大きな差があり、それだけがプレート境界での地震発生・活動様式を支配する要因に限らない。

 沈み込むプレート浅部の構造のコントラストは、東北沖に限らず一般的に存在する。多くの沈み込み帯はsingle. seg.であり、セグメント間の劇的な相異は顕著でない。Double seg.は比較的古いプレートが沈み込み、プレート境界のカップリングが古典的な視点(2011年以前に日本海溝はそう思われていた)では弱い。古典的な視点でカップリングが強いsingle seg.の沈み込み帯(e.g., チリ、南海トラフ)では、沈み込むプレート浅部の不均質性の効果は限定的であろう。弱いプレート境界でのカップリングの沈み込み帯で、かつdouble seg.の浅いセグメントのみ、すなわち弱い背景応力場でかつ比較的低温のプレート境界面であるからこそ、沈み込むプレート浅部の微細構造が長期の歪み蓄積に本質的な役割をもたらすと考える。日本近海では千島海溝の南部がある。南海トラフのようなsingle seg.の沈み込み帯では、このような不均質性は大まかなセグメント区分けを規定するだけで、セグメント間の大きな違いはもたらさないと考える。