日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S10. 活断層・歴史地震

AM-2

2021年10月16日(土) 11:00 〜 12:15 C会場 (C会場)

座長:石村 大輔(東京都立大学)、白濱 吉起(産業技術総合研究所)

11:15 〜 11:30

[S10-02] 琵琶湖西岸断層帯南部と黄檗断層の連動性に関する検討

〇小松原 琢1、西山 昭仁2 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門平野地質研究グループ、2.京都大学防災研究所)

1 はじめに
 奈良盆地東縁断層帯北部・黄檗断層は,琵琶湖西岸断層帯南部の比叡断層と,直線状の谷を介して約2.5kmの間隔で近接している.これらが連動するか否かは,奈良盆地東縁断層帯の活動性評価に当たって重要な項目の1つである.演者らは,地形・地質学と歴史学および考古学の面から,これらの断層が最新活動時に連動したか否か検討した.

2 琵琶湖西岸断層帯南部・堅田断層および比叡断層の最新活動
 琵琶湖西岸断層帯南部の堅田断層のジオスライサー調査(Kaneda et al., 2008)は,この断層が14C年代測定(暦年補正年代値)より西暦1060年~1260年に最新活動を行ったことを示した.堅田断層対岸の守山市赤野井湾遺跡では,考古学的調査により鎌倉時代初頭ごろに湖岸が沈水したことが明らかにされている(濱,1998).
 一方,堅田断層の最新活動の年代幅中の,1185年元暦(二年)京都地震では,京都盆地北東部の左京・白河および東山で大きな被害が生じたほか,比叡山延暦寺や比叡山東麓の日吉大社で建物倒壊が生じた(西山,2000).このような地震被害分布から,西山(2000)は元暦京都地震の震源を琵琶湖西岸南部周辺と推定した.上記期間内に京都に大きな被害をもたらした地震は,この元暦京都地震以外に確認できない.
 以上から,堅田断層・比叡断層を含む琵琶湖西岸断層帯南部は,1185年に最新活動を起こした可能性が高く,年代幅をとって見積もったとしても11世紀中期~13世紀中期に活動したことは確実である.

3 黄檗断層の最新活動の上限年代
 京都市山科区大宅地区では,黄檗断層による変位を受けていない谷底低地の堆積物の14C年代から,西暦600年以降には断層変位が生じていない可能性が高いことが示された.また黄檗断層直上の大宅廃寺遺跡からは縄文時代晩期(滋賀里Ⅴ期:紀元前5世紀ごろ)の甕棺が完全復元可能な状態で出土していること(京都市埋蔵文化財研究所,1988),同じく断層直上の醍醐古墳群では7世紀前半の古墳の石室から高坏などの安定性の良くない遺物が完全な形でかつ直立した状態で見いだされていること(京都市埋蔵文化財研究所,1987)から,歴史時代に黄檗断層が活動した可能性は極めて低いと考えられる.
 一方,西山(2000)は元暦京都地震による,黄檗断層直上・直近の建造物被害状況について,①平等院の損傷は軽微とみられること,②醍醐寺とその近傍の東安寺では築地塀や門の倒壊の記録はあるものの,堂塔の倒壊の記録は見つかっていないこと,を報告している.中でも平等院や醍醐寺五重塔は現存しており,11世紀中期以降に黄檗断層が活動していないことを強く支持する.
 以上から,黄檗断層の最新活動は西暦600年以前と考えられ,少なくとも琵琶湖西岸断層帯南部の最新活動時に両断層は連動しなかったと考えられる.

 謝辞
 京都市埋蔵文化財研究所の内田好昭管理課長および京都府埋蔵文化財調査研究センターの小池寛調査課長より遺跡発掘調査に関して多くのご教示をいただきました.本研究は 文部科学省委託事業「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」 としておこないました.

 文献
・濱修(1998)赤野井湾遺跡発掘調査報告書第4分冊,314-324.
・ Keneda et al., (2008) Jour. Geophys. Res., B5, 113, B05401.
・京都市埋蔵文化財研究所(1987)醍醐1号墳調査概要報.29p.
・京都市埋蔵文化財研究所(1988)昭和60年度京都市埋蔵文化財調査概要.103-108.
・西山昭仁(2000)歴史地震,16,163-184.