日本地震学会2021年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

AM-2

2021年10月14日(木) 11:00 〜 12:15 A会場 (A会場)

座長:伊藤 恵理(京都大学防災研究所)、森川 信之(防災科学技術研究所)

11:30 〜 11:45

[S15-03] 成層構造における直達S波の透過率を考慮した地震動距離減衰特性の検討

〇池浦 友則1 (1.鹿島技術研究所)

【1. はじめに】内陸地震の震源近傍では震源から放射されそのまま上昇伝播して観測点に到達する直達S波が最大の入射成分となる可能性がある.ただし,直達S波は,三次元の幾何減衰効果,Q値減衰効果の他に成層構造中の透過率の影響により震源深さhの数倍程度以上の震央距離Δで消失する.実際に,直達SH波の透過率は,例えば我が国の陸域の平均的な速度構造モデルであるJMA2001[上野他(2002)]では,Δ=3h~4h付近で0となる[池浦(2019)].一方,この付近から遠方では,直達S波以外の,震源から様々な射出角で放射され反射・屈折・散乱を経て観測点に到達したS波群のみで地震動が構成され,強震動の主体となる波動成分は距離レンジで異なる.そこで,本研究では直達S波とそれ以外の間接的なS波群の距離減衰特性の違いを考慮して地震動の距離減衰モデルを設定し,近畿~中国地方における内陸地震の地震動への適用を試みた.
【2. 内陸地震による地震動の距離減衰モデル】震源距離rにおける周波数fの地震動振幅A(f)を直達S波の振幅DS(f)と間接的なS波群の振幅IS(f)のベクトル和で表し,DS(f)とIS(f)をそれぞれ以下のように表す.
・A(f) = {DS2(f)+ IS2(f)} 0.5 …(1)
・DS(f) = S(f)×r −1 CTR(h, Δ) exp[−bDS(f) r] ×G(f) …(2)
・IS(f) = S(f) CIS×r −0.5 exp[−bIS(f)r] ×G(f) …(3)
ただし,S(f)とG(f)はそれぞれ震源特性とサイト特性,CTR(h, Δ)はJMA2001を仮定した場合の直達S波の透過率,CISは間接的なS波群の生成効率,bDS(f)とbIS(f)はそれぞれ直達S波と間接的なS波群のQ値効果による距離減衰係数である.
 なお,(3)式で表される間接的なS波群としては,震源から様々な射出角で放出され地殻内にトラップされて伝播する様々なS波成分の混在状態を想定している.その場合,波動エネルギーの拡散は三次元的な実体波よりもむしろ二次元的な表面波に近づくので幾何減衰効果をr −0.5とした.また,そのQ値減衰効果も直達S波とは区別して距離減衰係数bIS(f)を考えた.さらに,そういったS波群の起源となる震源特性は明らかでないため,震源スペクトルに乗じる係数としてS波群の生成効率CISを設けた.
 以上のモデルを観測データに当てはめる際には,個々の観測地震動を各々の地点の相対サイトファクターで割り算して得られる基盤換算地震動 [例えば,池浦(2018)]を用いることで,G(f)を未知数から除外することができる.その場合,残る未知数は各地震の震源特性S(f)とS波群の生成効率CIS,および直達S波と間接的なS波群の距離減衰係数bDS(f),bIS(f)である.これらの推定は,対数をとって線形化する方式が適用できず,非線形最適化問題となる.ここでは微分を用いない共役勾配法(PARTAN)[コワリック・オズボーン (1970)]を適用する.
【3. 近畿~中国地方の6地震への適用結果】本研究では,近畿~中国地方の内陸地震の基盤換算地震動[池浦(2018)]を用いて上記のモデルの有効性を調べることとし,表1の地震のΔ≦10hの地点を対象に上記の距離減衰モデルを当てはめた.震央と観測地点の分布は図1のとおりである.また,上記のモデルを当てはめた結果を検討するにあたり,従来法による結果として,同じデータで地震層別回帰分析を行い,震源特性の地震項と距離減衰係数を参照することとした.
 まず,地震項から#6) 2018/06/18大阪府北部の地震(M6.1)を基準とした各地震の震源スペクトル比を求め,従来法の結果(LSQ)と比較して図2に示す.小規模地震の低周波数側でやや違いが見られるものの従来法とほぼ同じ結果が得られている.また,図3では距離減衰項から一律にS波速度3.5kmを仮定して求めたQ値を比較している.これによると,従来法のQ値(QLSQ)は1.3Hzで発散気味であり,同じ周波数で直達S波のQ値(QDS)は発散している.しかし,それを除けば,Q値の大小関係は,概ね従来法(QLSQ)>間接的なS波群(QIS)>直達S波(QDS)である.図4はS波群の生成効率CISの評価結果であり,全周波数帯域で0.1をやや下回る程度の結果であるが,数値としては,地震項とのトレードオフがあるため,決定精度に課題を残している.図5では,全データにわたって求めた誤差の対数標準偏差σにつき,その倍率exp[σ]で従来法による結果と比較している.本検討のモデル(DS+IS)による誤差のばらつきは,従来法(LSQ)のそれと大差ない.最後に図6では震源距離30km以内のデータで観測/計算の倍率を比較した.本研究のモデル(DS+IS)はばらつきの幅は従来法(LSQ)と大差ないものの,平均値が全帯域で概ね1倍であり,従来法に比べて良い推定となっている.
【4. まとめ】直達S波と間接的なS波群について異なる距離減衰特性を仮定し,両者の和で観測地震動を説明する距離減衰モデルを設定した.また,それを近畿~中国地方の内陸地震に適用し,震源近傍における地震動の再現性が従来法に比べて向上する結果を得た.今後も改良を加えつつ,他地域での検討を試みる.
【参考文献】池浦(2018)日本地震工学シンポジウム,池浦(2019)日本地震学会2019年秋季大会,コワリック・オズボーン(1970)非線形最適化問題(培風館),上野他(2002)験震時報.