日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

AM-1

2021年10月15日(金) 09:00 〜 10:00 A会場 (A会場)

座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、長坂 陽介(港湾空港技術研究所)

09:15 〜 09:30

[S15-13] 青森県東方沖の地震があぶり出す東北日本と北海道の減衰構造の違い

〇筧 楽麿1 (1.神戸大・理)

青森県東方沖では震源の深いプレート境界地震が発生する。この研究では2015年6月8日(MW 6.1,深さ66.07 km,以下イベント1)と2021年7月26日(MW 5.2,深さ52.5 km,以下イベント2)の2つの青森県東方沖のプレート境界地震を取り上げ,その強震動の特徴を調べる。解析には防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録を使った。図(a)は,2つのイベントによる加速度振幅の最大値(PGA)の空間分布を示す。東北日本では,大きな加速度振幅は島弧の前弧側のみで見られ,背弧側での加速度振幅は小さい。これはKakehi (2015)が指摘しているように,東北日本弧の2次元的な減衰構造,すなわち前弧側は高Q値の媒質,背弧側は低Q値の媒質(火山フロント直下は特にQ値が小さい)から成るという減衰構造を反映し,高周波地震波の振幅が背弧側で急激に小さくなることによるものである。このような島弧の背弧側での高周波地震波の振幅の減衰は,北海道でも同じように見られる。ただし,北海道の場合,東北日本とは異なり,図(a)に見られるように前弧側においても高周波地震波の振幅が小さくなる領域が存在する。具体的には日高山脈の西側の領域がそうである。日高山脈では島弧と島弧が衝突しており,その領域は「日高衝突帯」と呼ばれ,地下速度構造が複雑であることが知られている。日高衝突帯では速度構造のみならず減衰構造も複雑で,衝突帯の西側には,前弧側であるにもかかわらずQ値の低い領域が存在することが先行研究によって明らかにされている(Kita et al. (2014),Nakamura And Shiina (2019))。この前弧側の低Q値領域の存在により,北海道では前弧側でも高周波地震波の振幅が小さい領域が生じ,東北日本とは異なり複雑な振幅分布を示す。図(c)はイベント1による加速度最大振幅(PGA)の距離減衰を示す。図は,図(b)に示す3本の直線アレイに着目し,各直線アレイをなす観測点のデータを黒丸で示している。北海道の前弧側を通るline01では,震源距離の小さい観測点も大きい観測点も振幅が同程度となる特異な傾向を示す。line01の震源距離が大きい観測点(道東の太平洋岸の観測点)は,白丸で示されるデータセット全体の中で振幅の大きい位置を占め,これは前弧側での減衰が小さいことに対応している。それに対し,line01の震源距離が小さい観測点は,まさに上述の日高衝突帯西側の領域に対応するのだが,データセット全体の中で振幅が小さいグループをなしており,これは低Q値の媒質によって地震波の振幅が減衰したことを強く示唆している。line02は北海道の前弧側から背弧側に延びる測線であるが,測線の前弧側が日高衝突帯西側に位置し,背弧側のみならず前弧側も低Q値の媒質により高周波地震波が減衰を受けるという測線である。実際,距離減衰の図を見ても,測線上の観測点の黒丸は白丸で示されるデータセット全体の中で振幅の最も小さいグループをなしている。一方,主として東北日本弧の前弧側を通るline03の場合,地震波は前弧側の高Q値の媒質中のみを伝播するので,振幅はほとんど減衰しない。それを反映して,距離減衰の図の測線上の観測点の黒丸は,データセット全体の中で振幅の大きいグループをなしている。