日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S16. 地盤構造・地盤震動

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2021年10月15日(金) 15:30 〜 17:00 P9会場 (P会場)

15:30 〜 17:00

[S16P-01] 国道4号線沿いのDAS観測により捉えられた移動車両が励起する表面波を直接利用した浅部S波速度構造の推定

〇矢武 克啓1、中原 恒1、江本 賢太郎1、西村 太志1 (1.東北大学大学院理学研究科 地球物理学専攻 固体地球物理学講座)

Distributed Acoustic Sensing (DAS) は,光ファイバーケーブルに入射したレーザーパルスの後方散乱波を利用することで,光ファイバーケーブルに沿った軸歪(速度)を測定する技術である.光ファイバーケーブルを多チャンネルの軸歪計として利用できるため,超稠密な地震波観測手法として近年急速に導入が進んでいる.DASで記録される常時微動を用いた地震波干渉法により浅部速度構造を求める研究が近年多数報告されている.しかしながら,多くの光ファイバーケーブルは道路直下に埋設されているため,DAS記録には自動車による道路交通振動が含まれ地震波干渉法の適用を困難にする.我々はこれまでに,複数の移動する自動車によって励起された表面波の分散曲線を求める手法を開発した(Yabu et al., IAGA-IASPEI 2021).本研究では,国道4号線沿いにおけるDAS観測記録にこの手法を適用して分散曲線を求め,浅部S波速度構造を推定した.

 使用したデータは,宮城県仙台市から大崎市古川にかけての国道4号線直下に埋設されている光ファイバーケーブルを使用したDAS記録(江本・他,2020地震学会)である.測定期間は2020年1月10日から2月10日の1か月間,チャンネル間隔とゲージ長はともに 5 m,チャンネル数は 9854 (測線長約 49 km),サンプリング周波数は 500 Hz である.

 DAS記録には自動車による振動が頻繁に記録されている.レコードセクションを見ると,1台の自動車は,道路上の凹凸により1, 2秒ごとに表面波を励起し,前後数百mにわたって伝播していく様子がわかる.まず,自動車が励起する表面波の伝播が明瞭に見えている 250 mの区間を抽出し,自動車が通過する時刻を基準にそれぞれのチャンネルから1秒間の時間窓の記録を目視で選ぶ.各チャンネルの記録にトレンド除去やテーパリングなどの前処理を行った後,Multichannel Analysis of Surface Waves (MASW) [Park et al., 1999] を用いて表面波の分散スペクトルを計算した.移動する車両の平均速度に合わせて使用するチャンネルと時間窓を変えながらこの操作を行い,さらにこれを複数の車両に対して同様の操作を行って100 mのセクション 毎に平均することで分散曲線のS/Nを向上させた.S波速度構造の推定の際には,Vs = 1100 m/s より深い構造はJ-SHIS(防災科学技術研究所, 2021)のデータを用い,より浅部は試行錯誤的に構造を仮定しながら,得られたレイリー波の複数のモードの分散曲線を説明できる構造を決定した.モードが見えにくい場合には,隣接するセクションの分散スペクトルも参考にした.

 解析の結果,移動する車両に沿って時空間平均をとることで,空間分解能は低下するものの,5 kmにわたり空間的に連続的な分散曲線が得られた.レイリー波の基本モードと思われる曲線が卓越する場所だけでなく,例えば図のように,高次モードがよりはっきりとみえるセクションも観測された.このセクションではJ-SHISの速度構造に比べて浅層でより遅いS波速度が求められた.

 本研究は,移動する車両を活かし,道路に沿って連続的に分散曲線を求め,速度構造を推定した.分散曲線の空間平均を取ることによりS/N比を高めることができ,また,速度構造を求める際には隣接セクションの情報も参照できるが,速度が不連続に急速に変化する場所では明瞭な分散曲線が得られない可能性がある.しかしながら,本研究の手法によりそのような場所やS/N比が極端に小さい場所を除き,空間的に連続して速度構造を得ることが可能になる.

謝辞
本研究は国土交通省所有の光ファイバーケーブルを使用した.DAS観測では,仙台河川国道事務所,東北大学大学院理学研究科の山本希氏,寒河江皓大氏,Gugi Ganefianto氏の協力を得た.