日本地震学会2021年度秋季大会

講演情報

記念講演

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AM-1

2021年10月16日(土) 09:00 〜 10:30 A会場 (A会場)

座長:安藤 亮輔(東京大学)

09:59 〜 10:19

[S20-03] [招待講演] 地震・地殻変動多点連続観測データに基づく地球内部広帯域変動現象の研究

〇髙木 涼太1 (1.東北大学大学院理学研究科)

はじめに
近年の高密度地震・地殻変動観測網における連続観測データは,新たな解析手法の開発や発展を促し,また新現象の発見につながるなど,地震学の発展の基礎となっている.筆者は,地球内部構造の時空間変化やプレート境界における非地震性すべりなどの地球内部における変動現象の解明のため,多点連続観測データに基づく解析手法の開発や高度化,およびそれらを大量の実データへ適用した研究を行ってきた.講演では,これまでの研究で得られた知見に加えて研究の背景や経緯についても紹介したい.

地震波干渉法の高度化と地球内部構造の時空間変化に関する研究
地震波干渉法は,多点連続観測データを有効利用し地球内部構造の時空間変化を明らかにするための有力なツールである.地震波干渉法の利点は地球内部構造の時間変化の検出である.筆者らは,地震波干渉法を用いて2008年岩手・宮城内陸地震と2011年東北地方太平洋沖地震よる地震波速度低下を検出するとともに,地震波速度変化の空間分布や強震動と相関から速度低下の原因として強震動の寄与が大きいことを示した(Takagi & Okada 2012; Takagi et al. 2012).地震波干渉法のもう一つの利点は構造解析周波数の広帯域化であるが,短周期地震計を用いた稠密観測では観測記録に含まれるコヒーレントな機器ノイズが解析上の問題となる.筆者らは,ノイズの精査と理論的な考察に基づき機器ノイズの効果的な除去手法の開発し,地震波干渉法の適用範囲を拡大させることに成功した(Takagi et al. 2015; 2021).さらに,筆者らによる波動理論に基づく実体波と表面波の分離手法の開発(Takagi et al. 2014)や脈動の指向性推定手法の開発(Takagi et al. 2018)も,地震波干渉法をさらに発展させ,今後の地球内部構造の時空間変化のさらなる理解につながると期待される.

スロースリップイベント活動様式に関する研究
スロー地震は,地震・地殻変動の多点連続観測による最大の発見の一つである.筆者らは,地殻変動データの観察から,スロー地震の中でも数ヶ月から数年程度と最も時間スケールの長い長期的スロースリップイベント(長期的SSE)が四国中部の微動発生域と固着域の間の領域において繰り返し発生すること示した(Takagi et al. 2016).また,長期的SSEを系統的に検出する新たな手法を開発し,南海トラフにおける詳細な長期的SSE活動様式を明らかにした(Takagi et al. 2019).これまで一部の領域でのみ検出されていた長期的SSEが普遍的な現象であることを示すとともに,長期的SSEと固着分布の空間相関性および長期的SSEの大規模移動現象を発見した.これらは巨大地震と長期的SSEとの関連性を示唆する結果である.また,長期的SSEの活動は,隣接領域で発生する深部低周波微動や繰り返し地震活動の時間変化を理解する上でも重要である(Takagi et al. 2016; Uchida et al. 2020).

おわりに
多点観測ではシグナルの空間的相関性を用いることで普通では見えない微小なシグナルを捉えることが可能になる.また,観測研究の最先端では必然的にノイズとの戦いになることも多いため,大量の観測データを上手く,有効に,効率的に使う手法が必要である.S-net等の海域における新たな観測網やDASに代表される新技術を用いた観測,超多点稠密観測等の発展が進む中で,観測データのもつ情報を可能な限り引き出し,地球内部の様々な変動現象の解明に貢献できるような研究を今後も行なっていきたいと考えている.

謝辞
防災科学技術研究所,国土地理院,気象庁,東北大学のデータを用いました.観測網の構築・維持・管理に関わる皆様に記して感謝致します.