[JG05] 学力向上を支える学級集団の育成
キーワード:学級集団, 学力向上
【企画趣旨】
「学級」を一つの単位として集団指導する日本の学校現場では,子どもの学習は個人的な過程であるとともに,「学級」の影響を強く受ける社会的なものである。学級集団が教育環境として児童相互が互いに建設的に切磋琢磨するような状態と,相互に傷つけあい互いに防衛的になっている状態とでは,子どもの学習意欲や友人関係形成意欲,学級活動意欲に大きな差が生じる可能性は否定できない。したがって,学級での一斉学習指導も,学級集団の状況という環境要因によって,大きな差が生まれていることが明らかなのである。実際に河村・武蔵(2008a,b)は220学級を対象にして学級集団の状態を独立変数として取り上げ,児童生徒間に一定のルールと良好な人間関係であるリレーションが同時に確立している「満足型学級」では,リレーションの確立が不十分な「かたさのある学級(管理型学級)」,ルールの確立が不十分な「ゆるみのある学級(なれあい型学級)」と比較して,有意にいじめの発生数が少なく,かつ,児童生徒の学習の定着率が高いことを明らかにしている。
本シンポジウムでは,学校現場に介入に入っている先生方に「学級集団の育成と学力向上」について報告してもらい,効果的な教育実践のあり方とは,について検討したい。シンポジストの先生方に話題提供をしてもらい,それを受けてフロアの皆様がグループごとに意見を交換しあい,その結果を全体で検討する,という参加者ができるだけ多く発言できるような構成的な展開を考えている。
【話題提供】
1.中学校における学力向上と学級集団づくり
本校では,「意欲的に学ぶ集団づくりと授業改善」をテーマに校内研究に取り組んできた。具体的には,「学級集団づくり」を基盤として,学力向上を目指していくものである。理由は,河村・武蔵(2008a,b)による先行研究から,学級集団が良好であると生徒の本来持っている能力以上に学力が向上し,定着することがわかっているからである。
また,本校の管轄である甲州市教育委員会は,「確かな学力育成プロジェクト」を立ち上げており,早稲田大学河村茂雄研究室のサポートを受けて,市内全小中学校において取り組んでいる。
まず,「学級集団づくり」として,hyper-QUを活用した学級集団分析(K-13法簡易版)を実施し,学級の状況を客観的に把握する。学級の状況に合った学級集団づくりを行う上での具体的な方策として,ソーシャルスキルトレーニング(以下:SST)や構成的グループエンカウンター(以下:SGE )を全校で,意図的・定期的に実施していくものである。「グルグルSGE トキドキSST」と名付け,生徒の人間関係や集団生活の形成に必要とされる「対人スキル」の育成をねらいとした。次に「授業改善」として,学級集団にあった授業法の展開が必要と捉え,「構成スキル」「展開スキル」といった「授業スキル」の育成をねらいとした。生徒個々への対応として,「Q-U式座席表」を作成し,生徒の所属群ごとに言葉がけを変えていく取り組みを全教科で行った。生徒の人間関係の充実は言語活動の充実にもつながると考えられ,以上の取り組みについて紹介したい。
(藤原祐喜)
2.高校における学力向上と学級集団づくり
高校,とりわけ大学進学を中心とする学校では,教員一人ひとりの個人的,あるいは学年主導型で大学合格のための入試問題解法力の向上等,教員の教科指導力向上に力を入れた取組が行われていることが多い。そのため,近年,予備校教師型のスーパーティーチャーを高く評価する傾向も見られるようになってきている。また,正規の授業及び課外授業時間数増を行ったり,生徒に課す宿題増を行う等,教員が決めた学習計画に沿って生徒が学習している学校が増加しているように思う。これは生徒は本来自主的には学習しないという性悪説に立った考えだと言える。事例紹介校においても,このような取組により教育評価指標のひとつである進学実績に一定の向上がみられたが,学力向上の要因が学習意欲,友人関係意欲,学習活動意欲と相関するという先行研究結果によるならば,その基盤となる学級集団を育成することによりさらなる学力向上が期待できると考え,教科指導では,授業改善アンケートを実施するなどして生徒の学習意欲を喚起する授業をおこなうことを目指してきた。同時に,Q-Uを活用して,学級集団や最新の時点での生徒一人ひとりの心理状態をアセスメントして,ソーシャルスキルトレーニングや個人面談を行い,学校活共同体の基盤である学級の経営に力を入れたところ,ほとんど全ての学級が満足型になり,どの成績層においても大学進学実績の向上がみられた。また同時に不登校生徒数も減少した。何より,教員集団がQ-Uという共通のツールで話し合うことができるようになったため,学校全体での取組が行いやすくなり,教員の親和性も高くなった。事例紹介校が取り組んだ学級集団作りと学力向上についての相関を紹介し,理想とする学級づくりの大切さを示したい。
(水谷明弘)
3.高知県における学力向上と学級・学校経営
高知県の学力は,文部科学省が発表した2013年度全国学力・学習状況調査の結果において,基礎知識を問う「A問題」で小学生の算数が全国9位,国語が10位と初めてベスト10入りした。本シンポジウムでは,今回の全国学力学習状況調査の結果で成果のみられた小学校の取り組みを分析し,成果に結びついたと考えられる要因について事例を通して紹介したい。通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする子ども生徒に関する全国実態調査(文部科学省,2003)によると,学習面に特異な困難を示すLD(学習障害)様の子ども生徒の割合が4.5%にも上るというものであった。また,特別支援教育を推進するための制度の在り方について(文部科学省,2005)では,通常の学級に在籍するLD等の子ども生徒に対する適切な指導及び必要な支援が喫緊の課題であることを指摘している。様々なニーズのある子どもが在籍する学級において,すべての子どもの教育的ニーズに応えるためには,確かなアセスメントが必要である。ここで紹介するA小学校では,学級・学校経営の中にユニバーサルデザインの考えを取り入れ「特別支援教育を根底においた基礎学力の向上」をめざしている。河村(1998)が開発した学級集団分析尺度Q-Uの他,森田-愛媛式読み書き調査(改訂版)(2005),MIM-PM(Multilayer Instruction Model? ProgressMonitoring;海津他,2008)の3つの結果を受け学級経営方針を立て,個別の支援が必要な児童には個別の指導計画を立て,支援方法を考えている。
(鹿嶋真弓)
4.県市町教育委員会の分析から見る学力向上と学級集団の育成との関連
近年,学力向上を目的として,早稲田大学河村茂雄研究室には,県や市町の多くの教育委員会からサポートの依頼が殺到している。河村研究室はカウンセリングやグループアプローチ,学級経営の研究を主に行っている。授業や学力に関する研究の専門ではないが,「授業は学級のすべての子どもたちが参加する集団活動である」ととらえ,河村(1998)が開発した学級集団分析尺度「Q-U:QUESTIONNAIRE-UTILITIES」(小・中・高・大学用) を活用し,学級集団の状態と学力の定着度,学級内の子どもたちの学習意欲の分布状態を分析し,学級集団のコンサルテーションなどを行ってきた。
本シンポジウムでは河村・武蔵(2008a,b)の研究をさらに発展させ,学習意欲や学習の定着度についての詳細な分析を紹介したい。具体的には,例えば「かたさのある学級(管理学級)」では,生活規律・学習規律を重んじられ,ほとんどの子どもが教師の説明を静かに聞くなど指示に従って整然と学習を進めているが,「できる子」と「できない子」が固定し,学力の差異が広がっている可能性が認められたこと,さらには学習意欲が他の学級類型よりも有意に低かったことなどである。このように学級集団の質的な検討と学習意欲・学力向上との関連などについてデータを元に示す予定である。 (武蔵由佳)
「学級」を一つの単位として集団指導する日本の学校現場では,子どもの学習は個人的な過程であるとともに,「学級」の影響を強く受ける社会的なものである。学級集団が教育環境として児童相互が互いに建設的に切磋琢磨するような状態と,相互に傷つけあい互いに防衛的になっている状態とでは,子どもの学習意欲や友人関係形成意欲,学級活動意欲に大きな差が生じる可能性は否定できない。したがって,学級での一斉学習指導も,学級集団の状況という環境要因によって,大きな差が生まれていることが明らかなのである。実際に河村・武蔵(2008a,b)は220学級を対象にして学級集団の状態を独立変数として取り上げ,児童生徒間に一定のルールと良好な人間関係であるリレーションが同時に確立している「満足型学級」では,リレーションの確立が不十分な「かたさのある学級(管理型学級)」,ルールの確立が不十分な「ゆるみのある学級(なれあい型学級)」と比較して,有意にいじめの発生数が少なく,かつ,児童生徒の学習の定着率が高いことを明らかにしている。
本シンポジウムでは,学校現場に介入に入っている先生方に「学級集団の育成と学力向上」について報告してもらい,効果的な教育実践のあり方とは,について検討したい。シンポジストの先生方に話題提供をしてもらい,それを受けてフロアの皆様がグループごとに意見を交換しあい,その結果を全体で検討する,という参加者ができるだけ多く発言できるような構成的な展開を考えている。
【話題提供】
1.中学校における学力向上と学級集団づくり
本校では,「意欲的に学ぶ集団づくりと授業改善」をテーマに校内研究に取り組んできた。具体的には,「学級集団づくり」を基盤として,学力向上を目指していくものである。理由は,河村・武蔵(2008a,b)による先行研究から,学級集団が良好であると生徒の本来持っている能力以上に学力が向上し,定着することがわかっているからである。
また,本校の管轄である甲州市教育委員会は,「確かな学力育成プロジェクト」を立ち上げており,早稲田大学河村茂雄研究室のサポートを受けて,市内全小中学校において取り組んでいる。
まず,「学級集団づくり」として,hyper-QUを活用した学級集団分析(K-13法簡易版)を実施し,学級の状況を客観的に把握する。学級の状況に合った学級集団づくりを行う上での具体的な方策として,ソーシャルスキルトレーニング(以下:SST)や構成的グループエンカウンター(以下:SGE )を全校で,意図的・定期的に実施していくものである。「グルグルSGE トキドキSST」と名付け,生徒の人間関係や集団生活の形成に必要とされる「対人スキル」の育成をねらいとした。次に「授業改善」として,学級集団にあった授業法の展開が必要と捉え,「構成スキル」「展開スキル」といった「授業スキル」の育成をねらいとした。生徒個々への対応として,「Q-U式座席表」を作成し,生徒の所属群ごとに言葉がけを変えていく取り組みを全教科で行った。生徒の人間関係の充実は言語活動の充実にもつながると考えられ,以上の取り組みについて紹介したい。
(藤原祐喜)
2.高校における学力向上と学級集団づくり
高校,とりわけ大学進学を中心とする学校では,教員一人ひとりの個人的,あるいは学年主導型で大学合格のための入試問題解法力の向上等,教員の教科指導力向上に力を入れた取組が行われていることが多い。そのため,近年,予備校教師型のスーパーティーチャーを高く評価する傾向も見られるようになってきている。また,正規の授業及び課外授業時間数増を行ったり,生徒に課す宿題増を行う等,教員が決めた学習計画に沿って生徒が学習している学校が増加しているように思う。これは生徒は本来自主的には学習しないという性悪説に立った考えだと言える。事例紹介校においても,このような取組により教育評価指標のひとつである進学実績に一定の向上がみられたが,学力向上の要因が学習意欲,友人関係意欲,学習活動意欲と相関するという先行研究結果によるならば,その基盤となる学級集団を育成することによりさらなる学力向上が期待できると考え,教科指導では,授業改善アンケートを実施するなどして生徒の学習意欲を喚起する授業をおこなうことを目指してきた。同時に,Q-Uを活用して,学級集団や最新の時点での生徒一人ひとりの心理状態をアセスメントして,ソーシャルスキルトレーニングや個人面談を行い,学校活共同体の基盤である学級の経営に力を入れたところ,ほとんど全ての学級が満足型になり,どの成績層においても大学進学実績の向上がみられた。また同時に不登校生徒数も減少した。何より,教員集団がQ-Uという共通のツールで話し合うことができるようになったため,学校全体での取組が行いやすくなり,教員の親和性も高くなった。事例紹介校が取り組んだ学級集団作りと学力向上についての相関を紹介し,理想とする学級づくりの大切さを示したい。
(水谷明弘)
3.高知県における学力向上と学級・学校経営
高知県の学力は,文部科学省が発表した2013年度全国学力・学習状況調査の結果において,基礎知識を問う「A問題」で小学生の算数が全国9位,国語が10位と初めてベスト10入りした。本シンポジウムでは,今回の全国学力学習状況調査の結果で成果のみられた小学校の取り組みを分析し,成果に結びついたと考えられる要因について事例を通して紹介したい。通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする子ども生徒に関する全国実態調査(文部科学省,2003)によると,学習面に特異な困難を示すLD(学習障害)様の子ども生徒の割合が4.5%にも上るというものであった。また,特別支援教育を推進するための制度の在り方について(文部科学省,2005)では,通常の学級に在籍するLD等の子ども生徒に対する適切な指導及び必要な支援が喫緊の課題であることを指摘している。様々なニーズのある子どもが在籍する学級において,すべての子どもの教育的ニーズに応えるためには,確かなアセスメントが必要である。ここで紹介するA小学校では,学級・学校経営の中にユニバーサルデザインの考えを取り入れ「特別支援教育を根底においた基礎学力の向上」をめざしている。河村(1998)が開発した学級集団分析尺度Q-Uの他,森田-愛媛式読み書き調査(改訂版)(2005),MIM-PM(Multilayer Instruction Model? ProgressMonitoring;海津他,2008)の3つの結果を受け学級経営方針を立て,個別の支援が必要な児童には個別の指導計画を立て,支援方法を考えている。
(鹿嶋真弓)
4.県市町教育委員会の分析から見る学力向上と学級集団の育成との関連
近年,学力向上を目的として,早稲田大学河村茂雄研究室には,県や市町の多くの教育委員会からサポートの依頼が殺到している。河村研究室はカウンセリングやグループアプローチ,学級経営の研究を主に行っている。授業や学力に関する研究の専門ではないが,「授業は学級のすべての子どもたちが参加する集団活動である」ととらえ,河村(1998)が開発した学級集団分析尺度「Q-U:QUESTIONNAIRE-UTILITIES」(小・中・高・大学用) を活用し,学級集団の状態と学力の定着度,学級内の子どもたちの学習意欲の分布状態を分析し,学級集団のコンサルテーションなどを行ってきた。
本シンポジウムでは河村・武蔵(2008a,b)の研究をさらに発展させ,学習意欲や学習の定着度についての詳細な分析を紹介したい。具体的には,例えば「かたさのある学級(管理学級)」では,生活規律・学習規律を重んじられ,ほとんどの子どもが教師の説明を静かに聞くなど指示に従って整然と学習を進めているが,「できる子」と「できない子」が固定し,学力の差異が広がっている可能性が認められたこと,さらには学習意欲が他の学級類型よりも有意に低かったことなどである。このように学級集団の質的な検討と学習意欲・学力向上との関連などについてデータを元に示す予定である。 (武蔵由佳)