[PA063] 母親の育児ストレスを規定する要因に関する日中韓蒙比較研究
母親の育児ストレスと成育歴,愛着,ソーシャルサポートとの関連
キーワード:母親, 育児ストレス, 文化比較
【目的】
筆者らのこれまでの研究では,育児ストレス因子として育児充実感,育児拘束感,夫との不一致,育児当惑感が見いだされ,それらは,母親の親からの非受容的養育→母親の回避的な愛着→育児拘束感→育児拘束感という関連が見出された。それらの因子は,母親の親との良好な関係,母親の父親の存在感,夫の協力・育児参加,友人や専門機関・医療機関・地域支援活動のサポートに規定され,特に母親の親との良好な関係が,夫の協力や親・友人からの情報,地域活動の負担感と関連し,それが,育児拘束感,育児当惑感に影響を与えていた。本研究では,日本と同じ文化ルーツを持つ,韓国,中国,モンゴルと比較し,日本の母親の育児ストレスの特性を成育歴,愛着,ソーシャルサポートとの関連に注目して検討することを目的とした。
【方法】
対象:3歳以下の子どもを持つ母親(表1)。
手続き:アンケート法。調査内容は,母親の属性(年齢,子ども数,家族数,就労),育児に関する項目62項目,母親の親の養育に関する関係18項目,愛着に関する項目18項目(詫摩・戸田ら,1988),育児サポート23項目。
【結果】
1.因子分析結果:それぞれの国の因子の構造が異なったので,ここでは全体を因子分析した(重み付けなし最小2乗法・プロマックス回転)。その結果,育児では,第一因子は育児充実感,第二因は育児当惑感,第三因子は育児拘束感,第四因子は仕事への逃避,第五因子は夫の育児参加の5因子,母親の親の養育態度では,第一因子は拒否的態度,第二因子は干渉的態度,第三因子は友達的態度の3因子,愛着では,第一因子は安定型,第二因子はアンビバレント型(以下アンビ型に略す),第三因子は回避型の3因子,ソーシャルサポートでは,第一因子に夫,第二因子に親,第三因子に近所,第四因子に専門機関,第五因子に自立した関係の5因子が見いだされた。国別の差異を見るために,重回帰分析と多重比較を行った。
2.因子間差異:各因子における国間の差異を多重比較した結果,日本(以下日)の母親は,他国に比べ,育児充実感が高い,育児拘束感が低い,仕事への逃避が高かった。また,母親の親の養育態度は,日は干渉的態度において一番低く,愛着では,日は安定型と回避型の得点が高かった。
3.母親の愛着との関連:育児充実感は,日はアンビ型が負の影響,中では安定型が正の影響,韓では安定型が正の影響及びアンビ型が負の影響を与えていた。育児当惑感は,いずれの国においてもアンビ型が正の影響を与えていた。育児拘束感は,中・韓においてアンビ型が正の影響を与え,蒙では,愛着のすべてのスタイルが正の影響を与えていた。仕事への逃避では,日本は影響がなく,中では安定型が,韓ではアンビ型が,蒙ではアンビ型と回避型が正の影響を与えていた。
4.母親の親の養育態度との関連:育児充実感については,日は関連がなく,中・韓・蒙では拒否的な養育態度が負の影響を与えていた。育児当惑感は日・中は影響がなく,韓・蒙は干渉的態度が正の影響を与えていた。また,育児拘束感では,韓において干渉的態度が正の影響を与えていた。仕事への逃避は,中では影響がなく,日・韓・蒙において干渉的態度が正の影響を与えていた。夫の参加では,日・中ともに影響がなく,韓・蒙で拒否的態度が負の影響を与えていた。
5.ソーシャルサポートとの関連:育児充実感では日・中・韓では夫の理解が,蒙では夫の理解と親の援助が正の影響を与えていた。育児当惑感は,日・韓では夫の理解,中では親の援助が負の影響を与えていた。育児拘束感は,日では夫の理解,中では親の援助,韓では夫の理解と親の援助が負の影響を与えていた。仕事への逃避は,日は夫の理解,中では近所が負の影響を与えていた。
【考察】
母親の育児ストレスは,他国に比べ,充実感があり,拘束感が低かった。愛着,親の養態度,ソーシャルサポートとの関連については,蒙を除き,概ね同様の関連を示した。
謝辞:分析では神戸松蔭女子学院大学卒業生長谷川由木氏の協力を得た。
筆者らのこれまでの研究では,育児ストレス因子として育児充実感,育児拘束感,夫との不一致,育児当惑感が見いだされ,それらは,母親の親からの非受容的養育→母親の回避的な愛着→育児拘束感→育児拘束感という関連が見出された。それらの因子は,母親の親との良好な関係,母親の父親の存在感,夫の協力・育児参加,友人や専門機関・医療機関・地域支援活動のサポートに規定され,特に母親の親との良好な関係が,夫の協力や親・友人からの情報,地域活動の負担感と関連し,それが,育児拘束感,育児当惑感に影響を与えていた。本研究では,日本と同じ文化ルーツを持つ,韓国,中国,モンゴルと比較し,日本の母親の育児ストレスの特性を成育歴,愛着,ソーシャルサポートとの関連に注目して検討することを目的とした。
【方法】
対象:3歳以下の子どもを持つ母親(表1)。
手続き:アンケート法。調査内容は,母親の属性(年齢,子ども数,家族数,就労),育児に関する項目62項目,母親の親の養育に関する関係18項目,愛着に関する項目18項目(詫摩・戸田ら,1988),育児サポート23項目。
【結果】
1.因子分析結果:それぞれの国の因子の構造が異なったので,ここでは全体を因子分析した(重み付けなし最小2乗法・プロマックス回転)。その結果,育児では,第一因子は育児充実感,第二因は育児当惑感,第三因子は育児拘束感,第四因子は仕事への逃避,第五因子は夫の育児参加の5因子,母親の親の養育態度では,第一因子は拒否的態度,第二因子は干渉的態度,第三因子は友達的態度の3因子,愛着では,第一因子は安定型,第二因子はアンビバレント型(以下アンビ型に略す),第三因子は回避型の3因子,ソーシャルサポートでは,第一因子に夫,第二因子に親,第三因子に近所,第四因子に専門機関,第五因子に自立した関係の5因子が見いだされた。国別の差異を見るために,重回帰分析と多重比較を行った。
2.因子間差異:各因子における国間の差異を多重比較した結果,日本(以下日)の母親は,他国に比べ,育児充実感が高い,育児拘束感が低い,仕事への逃避が高かった。また,母親の親の養育態度は,日は干渉的態度において一番低く,愛着では,日は安定型と回避型の得点が高かった。
3.母親の愛着との関連:育児充実感は,日はアンビ型が負の影響,中では安定型が正の影響,韓では安定型が正の影響及びアンビ型が負の影響を与えていた。育児当惑感は,いずれの国においてもアンビ型が正の影響を与えていた。育児拘束感は,中・韓においてアンビ型が正の影響を与え,蒙では,愛着のすべてのスタイルが正の影響を与えていた。仕事への逃避では,日本は影響がなく,中では安定型が,韓ではアンビ型が,蒙ではアンビ型と回避型が正の影響を与えていた。
4.母親の親の養育態度との関連:育児充実感については,日は関連がなく,中・韓・蒙では拒否的な養育態度が負の影響を与えていた。育児当惑感は日・中は影響がなく,韓・蒙は干渉的態度が正の影響を与えていた。また,育児拘束感では,韓において干渉的態度が正の影響を与えていた。仕事への逃避は,中では影響がなく,日・韓・蒙において干渉的態度が正の影響を与えていた。夫の参加では,日・中ともに影響がなく,韓・蒙で拒否的態度が負の影響を与えていた。
5.ソーシャルサポートとの関連:育児充実感では日・中・韓では夫の理解が,蒙では夫の理解と親の援助が正の影響を与えていた。育児当惑感は,日・韓では夫の理解,中では親の援助が負の影響を与えていた。育児拘束感は,日では夫の理解,中では親の援助,韓では夫の理解と親の援助が負の影響を与えていた。仕事への逃避は,日は夫の理解,中では近所が負の影響を与えていた。
【考察】
母親の育児ストレスは,他国に比べ,充実感があり,拘束感が低かった。愛着,親の養態度,ソーシャルサポートとの関連については,蒙を除き,概ね同様の関連を示した。
謝辞:分析では神戸松蔭女子学院大学卒業生長谷川由木氏の協力を得た。