日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA070] 児童における社会認識の発達的プロセスの検討 (2)

産業立地についての因果的説明と発問との関連

石橋優美 (東京大学大学院)

キーワード:概念発達, 地理的思考, 因果的説明

【問題と目的】本研究では地理領域における子どもの認識が発問によってどのように変化するのかを明らかにする。子どもの社会認識に関するこれまでの研究では,子どもが身近な社会的事象をどのように認識しているのかが明らかにされてきた(e.g., Takahashi & Hatano, 1989;田丸, 1993)。しかし,子どもが知識を組み合わせ,枠組みを構築する過程については十分に検討されてこなかった。石橋(2014)では,産業の発展に関して,子どもは年齢の移行とともに産業立地にかかわる要因に着目した説明が増加し,また要因を組み合わせた説明が増加することが明らかとなった。本研究では,子どもの説明が発問によって変化する過程を検討する。
【方法】対象者 公立小学校に通う3年生25名。5年生26名。
課題および手続き 課題は学年に共通した3題を,絵または写真のカードを用いて個別インタビューで実施した。提示した課題はすべて,対象の子どもが住んでいる県において発展している産業の立地に関するものであり,ある産業がその地域で発展している理由を尋ねた。例えば畜産業の発展に関する課題では,なぜ関東地方のある3つの県で酪農業が盛んであるのかを尋ねた。他には,農業,飲食サービス業の発展に関する課題を実施した。インタビューでは,子どもが回答した内容そのものを明確にする場合((例)「今話してくれたことについてもう少し詳しく説明してもらえるかな」),子どもが言及した内容の因果関係を明確にする場合((例)「山が多いとどうしてこういう仕事をしているところがあるのかな」),子どもがはじめに着目した要因以外にも着目することを促す場合((例)「広い土地がある県は他にもあるんじゃないかな」),他に考えられる理由を尋ねる場合((例)「今話してくれたこと以外に思いつく理由が他にもあるかな」)に発問を行った。
【結果と考察】まず実施した3課題において,子どもが行った説明を産業の立地論の観点から4種類(「自然的説明(気候,地形などを要因とした説明)」,「社会的説明(輸送・加工プロセスを要因とした説明)」,歴史的説明(製品が生まれた背景や広まりに言及した説明)」,「人為的説明(低コスト高付加価値に言及した説明)」)と,「その他(上記以外,無答)」の5つに分類した。次に,発問と子どもの説明との関連をみるため,発問前後の子どもの説明の変化を4タイプ(T1:ある種の説明から,発問によって別種の説明を行う,T2:ある種の説明から,発問をしても同種の説明を再度行うか,「その他」の回答を行う,T3:「その他」の回答から,発問によってある種の説明を行う,T4:「その他」の回答から,発問をしても「その他」の回答を再度行う)に分類した。3課題を通じた各関連タイプの平均出現数について,学年(2)×関連タイプ(4)の2要因分散分析を行った結果,交互作用が有意であった(F(3, 147)=4.30,p<.01)。学年の単純主効果を検定したところ,T1とT4において有意であった(T1:F(1, 49)=4.98,p<.05,T4:F(1, 49)=8.36,p<.01)。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,T1では5年生のほうが3年生よりも平均出現数が有意に多く,T4では3年生のほうが5年生よりも有意に少なかった。また,関連タイプの単純主効果は,両学年において有意であった(3年生:F(3, 147)=10.48,p<.01,5年生:F(3, 147)=10.56,p<.01)。TukeyのHSD法による多重比較を行ったところ,3年生と5年生ではともにT2の平均出現数がT1とT3より有意に多く,3年生ではT4の平均出現数がT1より有意に多く,5年生ではT2の平均出現数がT4より有意に多かった(Figure 1参照)。
 以上の結果から,3年生から5年生にかけて発問によって別種の説明を行うことが増え,3年生では,発問を行っても別種の説明を行うようになることが難しいことが示唆された。