[PA093] 大学生の学業に対する学業外の活動の影響認知とバーンアウト
MBI-SSを用いた検討
キーワード:大学生のバーンアウト, 学業外の活動, スピルオーバー
問題と目的
大学生は大学の学習活動のみならず,クラブ活動,アルバイト,サークル活動等において多重な役割を担う状況にある場合が多い。大学生の勉強不足が議論されて久しいが,その背景要因として学業以外の活動への従事(アルバイト,サークル,委員会活動等)が指摘されている。本研究では,大学生の学業に対する学業外活動の影響認知(ポジティブ・スピルオーバーとネガティブ・スピルオーバー)が,学業における燃え尽き(アカデミック・バーンアウト)の程度にそれぞれ抑制的および促進的な影響を同時に与えるというモデルを立てた(仮説1)。また,学業外活動の時間が多い場合には,ポジティブ・スピルオーバー(以下PS)の影響はネガティブ・スピルオーバー(以下NS)の影響よりも弱い(仮説2)と考え,これを検討する。
方 法
参加者
大学生2719名(平均年齢19.83歳,SD=2.08)が調査に参加した。医療系,理工系の学生1年生860名,2年生832名,3年生682名,4年生314名,留年30名であった。
質問項目
スピルオーバー:Kirchmeyer (1992)による労働者向けのスピルオーバー尺度を大学生向けに書き換えて用いた。学業外活動(アルバイト,サークル,クラブ,委員会活動)が学業に対して,ポジティブな影響を与えている下位因子として特権(3項目,例「他では得ることができない権利や特権を与えてくれる」),立場の保全(4項目),立場の拡張(4項目),人格の涵養(4項目),ネガティブな影響を与えている下位因子として時間(「勉強に充てることができたはずの時間を奪ってしまう」),緊張(4項目),行動(3項目)を想定している。
バーンアウト:Schaufeliら(2007)によるMBI-SS
(Maslach Burnout Inventory-Student Survey)をバックトランスレーションを経て、日本語に翻訳して用いた。消耗(5項目,例「勉強で精神的に疲れきっていると感じる」),シニシズム(4項目),非効力感(6項目)からなる。なお,非効力感は逆転項目ではない項目を用いている。
手続き
各学部の責任者に了承を受けた後,参加者には講義終了前に口頭にて協力を依頼,調査目的,匿名性を保証すること,参加が任意であること等を伝えた。
分析
モデルの適合度を共分散構造分析によって評価した。適合度指標はχ2,CFI,RMSEAとした。
結 果
PSの下位項目の誤差変数間に相関パスを追加した結果,モデルは一定の適合度を示し(χ2 = 566.25, df = 31, n.s., CFI = .958, RMSEA = .080),仮説1は支持された(Figure 1)。また,サンプルを学業外活動の従事時間50パーセンタイルで分割(12時間以下と12時間超えグループ)してPSの影響の強さをNSと比較した結果,12時間超えのグループでは,NSの影響がPSに比べて大きかった(p <.01)。よって仮説2は支持された。
考 察
学業外活動は学業に対してポジティブ,ネガティブ双方の影響を与えているが、学業外活動の時間が長ければ相対的にバーンアウトに対するPSの影響が小さくなることが示された。一般的に、アルバイトやサークルなどの学業外活動からは、学業に役立つ技術や対人スキル、報酬などの様々なリソースが得られる。しかし、上述の結果は学業外活動の時間が長くなれば、学業に専念する時間とともにそれらを学業に生かす機会も同時に減少することが背景にあるためと考えられる。
参考文献
Kirchmeyer, C. (1992). Perceptions of Nonwork-to-
Work Spillover: Challenging the Common View of Conflict-Ridden Domain Relationships. Basic and
Applied Social Psychology , 13, 231-49.
Schaufeli, W. B. & Salanova, M. (2007). Efficacy or inefficacy, that’s the question : Burnout and work engagement, and their relationships with efficacy beliefs. Anxiety, Stress and Coping, 20, 177-196.
大学生は大学の学習活動のみならず,クラブ活動,アルバイト,サークル活動等において多重な役割を担う状況にある場合が多い。大学生の勉強不足が議論されて久しいが,その背景要因として学業以外の活動への従事(アルバイト,サークル,委員会活動等)が指摘されている。本研究では,大学生の学業に対する学業外活動の影響認知(ポジティブ・スピルオーバーとネガティブ・スピルオーバー)が,学業における燃え尽き(アカデミック・バーンアウト)の程度にそれぞれ抑制的および促進的な影響を同時に与えるというモデルを立てた(仮説1)。また,学業外活動の時間が多い場合には,ポジティブ・スピルオーバー(以下PS)の影響はネガティブ・スピルオーバー(以下NS)の影響よりも弱い(仮説2)と考え,これを検討する。
方 法
参加者
大学生2719名(平均年齢19.83歳,SD=2.08)が調査に参加した。医療系,理工系の学生1年生860名,2年生832名,3年生682名,4年生314名,留年30名であった。
質問項目
スピルオーバー:Kirchmeyer (1992)による労働者向けのスピルオーバー尺度を大学生向けに書き換えて用いた。学業外活動(アルバイト,サークル,クラブ,委員会活動)が学業に対して,ポジティブな影響を与えている下位因子として特権(3項目,例「他では得ることができない権利や特権を与えてくれる」),立場の保全(4項目),立場の拡張(4項目),人格の涵養(4項目),ネガティブな影響を与えている下位因子として時間(「勉強に充てることができたはずの時間を奪ってしまう」),緊張(4項目),行動(3項目)を想定している。
バーンアウト:Schaufeliら(2007)によるMBI-SS
(Maslach Burnout Inventory-Student Survey)をバックトランスレーションを経て、日本語に翻訳して用いた。消耗(5項目,例「勉強で精神的に疲れきっていると感じる」),シニシズム(4項目),非効力感(6項目)からなる。なお,非効力感は逆転項目ではない項目を用いている。
手続き
各学部の責任者に了承を受けた後,参加者には講義終了前に口頭にて協力を依頼,調査目的,匿名性を保証すること,参加が任意であること等を伝えた。
分析
モデルの適合度を共分散構造分析によって評価した。適合度指標はχ2,CFI,RMSEAとした。
結 果
PSの下位項目の誤差変数間に相関パスを追加した結果,モデルは一定の適合度を示し(χ2 = 566.25, df = 31, n.s., CFI = .958, RMSEA = .080),仮説1は支持された(Figure 1)。また,サンプルを学業外活動の従事時間50パーセンタイルで分割(12時間以下と12時間超えグループ)してPSの影響の強さをNSと比較した結果,12時間超えのグループでは,NSの影響がPSに比べて大きかった(p <.01)。よって仮説2は支持された。
考 察
学業外活動は学業に対してポジティブ,ネガティブ双方の影響を与えているが、学業外活動の時間が長ければ相対的にバーンアウトに対するPSの影響が小さくなることが示された。一般的に、アルバイトやサークルなどの学業外活動からは、学業に役立つ技術や対人スキル、報酬などの様々なリソースが得られる。しかし、上述の結果は学業外活動の時間が長くなれば、学業に専念する時間とともにそれらを学業に生かす機会も同時に減少することが背景にあるためと考えられる。
参考文献
Kirchmeyer, C. (1992). Perceptions of Nonwork-to-
Work Spillover: Challenging the Common View of Conflict-Ridden Domain Relationships. Basic and
Applied Social Psychology , 13, 231-49.
Schaufeli, W. B. & Salanova, M. (2007). Efficacy or inefficacy, that’s the question : Burnout and work engagement, and their relationships with efficacy beliefs. Anxiety, Stress and Coping, 20, 177-196.