[PB053] 幼稚園において特別な支援を必要とする子どもの他児とのかかわり
キーワード:幼稚園, 気になる子, 集団
問題と目的
通常の学級における特別支援教育に関しては,教室でのより複雑な関係を明らかにすることが多様な支援の手がかりになると考えられる(司城,2013)。幼稚園等の保育現場の特別支援においても,支援が必要な子どもと他の子どもたちとのかかわりの重要性が指摘されており(湯澤・湯澤,2010;浜谷・五十嵐・芦澤,2013),保育者の直接的な支援だけでなく,子ども同士のかかわりを生かした支援方法について検討することは重要な視点だといえる。そのためには,子ども同士のかかわりを詳細にとらえる必要があろう。
本研究では,支援が必要とされる子どもが複数在籍する幼稚園のクラスで,それぞれの子どもたちがどのように他児とかかわり,そのかかわりがどう変化しているのかという過程をとらえることを目的とする。
方法
<対象>関東地方にある公立幼稚園の4歳児クラス。
<手続き>201X年9月から201X+1年3月まで,対象クラスで月2回,登園から降園までの参与観察を行った。記録はフィールドノーツによる。降園後には担任と振り返りを行った。
<分析方法>担任から「支援が必要と思われる」子どもとして挙げられた4名(すべて仮名)を対象として,他児とのかかわりを分析する。その際,他児とのかかわりの変化に関係していると考えられるものに着目した。
結果と考察
それぞれの子どもが他児とかかわっている場面をエピソードとして取り上げ分析を行った。
(1)マナミ(5エピソード,うち1つはハルトとのかかわり):遊びへの興味
運動面,言語面での発達の遅れがみられるため,観察当初は大人とのかかわりが中心であったが,他の子どもたちの遊びをじっと見つめるなどの様子がみられるようになった。観察後期にはごっこ遊びの道具をやり取りすることで他児とかかわりをもった。
(2)サナエ(6エピソード,うち2つはハルトとのかかわり):自分の思いと他者の思いとの違いへの気づき
観察当初は事例1のように自分の思いへのこだわりが強いが,事例2のような他者の思いをも考慮するかかわりへの変化がみられた。
<事例1>サナエは同じクラスのハルトが持っている折り紙が欲しくなり,折り紙を見ながら「サナちゃん欲しいな。」と告げる。ハルトは「俺のだからだめ。」と言って渡そうとしないが,あきらめきれない様子でずっと折り紙を見つめている。台の上に置かれた折り紙を持って行こうとするとハルトは怒って「ダメ!」と大声で怒鳴りながら折り紙を取り返す。サナエは呆然とした様子で「サナちゃん,欲しかったのにな。」とつぶやいている。
<事例2>サナエが同じクラスの女の子2人と一緒に遊んでいる。サナエは鉄棒で遊びたいらしく,「ねえ,鉄棒やろう。」と声をかけるが,他の2人はジャングルジムのほうで遊んでいて,サナエの声には答えてくれない。鉄棒のそばで「ねえ。」と何度か大きな声で呼んでいたサナエはそのうち1人で鉄棒にぶら下がったり,クルリと回ったりし始めた。そして,鉄棒でしばらく遊んだ後,2人のところへと走っていった。
(3)ヨウスケ(3エピソード):ものへのこだわりから言葉へのこだわりへの移行
扉に対するこだわりが強く,ずっと扉を開け閉めしてその様子を楽しんでいるヨウスケだったが,観察後期には「おかえり」「かわいいね」といった言葉を繰り返し周りの子どもたちにかけ,その言葉に応答してくれることを楽しむ様子がみられた。
(4)ハルト(8エピソード,うち1つはマナミ,2つはサナエとのかかわり):担任とのかかわりの変化
観察当初は集団での活動に参加することが難しく,担任の注意を自分のほうへ引く言動によって,他児とトラブルになる場面がみられた。担任が注意する場面を減らしハルトを認める場面を増やすようにしたところ,友達とのトラブルを嫌がるようになり,担任に解決方法を尋ねるようになった。観察後期には靴を履こうとするマナミを手伝ったり,サナエを慰めたりといった場面もあった。
総合考察
特別な支援が必要とされる子どもたちは幼稚園での生活の中で,他児とのかかわりを増やしたり,その質を変化させたりしており,変化の契機となるものはそれぞれの子どもの特徴と関係するものであるといえる。変化の過程はその子どもへの支援の手がかりであり,保育者がその過程をとらえることが重要であるといえよう。今後は,保育者の側が子どもの変化の過程をどうとらえ,支援方法について判断しているのかについても分析が必要である。
通常の学級における特別支援教育に関しては,教室でのより複雑な関係を明らかにすることが多様な支援の手がかりになると考えられる(司城,2013)。幼稚園等の保育現場の特別支援においても,支援が必要な子どもと他の子どもたちとのかかわりの重要性が指摘されており(湯澤・湯澤,2010;浜谷・五十嵐・芦澤,2013),保育者の直接的な支援だけでなく,子ども同士のかかわりを生かした支援方法について検討することは重要な視点だといえる。そのためには,子ども同士のかかわりを詳細にとらえる必要があろう。
本研究では,支援が必要とされる子どもが複数在籍する幼稚園のクラスで,それぞれの子どもたちがどのように他児とかかわり,そのかかわりがどう変化しているのかという過程をとらえることを目的とする。
方法
<対象>関東地方にある公立幼稚園の4歳児クラス。
<手続き>201X年9月から201X+1年3月まで,対象クラスで月2回,登園から降園までの参与観察を行った。記録はフィールドノーツによる。降園後には担任と振り返りを行った。
<分析方法>担任から「支援が必要と思われる」子どもとして挙げられた4名(すべて仮名)を対象として,他児とのかかわりを分析する。その際,他児とのかかわりの変化に関係していると考えられるものに着目した。
結果と考察
それぞれの子どもが他児とかかわっている場面をエピソードとして取り上げ分析を行った。
(1)マナミ(5エピソード,うち1つはハルトとのかかわり):遊びへの興味
運動面,言語面での発達の遅れがみられるため,観察当初は大人とのかかわりが中心であったが,他の子どもたちの遊びをじっと見つめるなどの様子がみられるようになった。観察後期にはごっこ遊びの道具をやり取りすることで他児とかかわりをもった。
(2)サナエ(6エピソード,うち2つはハルトとのかかわり):自分の思いと他者の思いとの違いへの気づき
観察当初は事例1のように自分の思いへのこだわりが強いが,事例2のような他者の思いをも考慮するかかわりへの変化がみられた。
<事例1>サナエは同じクラスのハルトが持っている折り紙が欲しくなり,折り紙を見ながら「サナちゃん欲しいな。」と告げる。ハルトは「俺のだからだめ。」と言って渡そうとしないが,あきらめきれない様子でずっと折り紙を見つめている。台の上に置かれた折り紙を持って行こうとするとハルトは怒って「ダメ!」と大声で怒鳴りながら折り紙を取り返す。サナエは呆然とした様子で「サナちゃん,欲しかったのにな。」とつぶやいている。
<事例2>サナエが同じクラスの女の子2人と一緒に遊んでいる。サナエは鉄棒で遊びたいらしく,「ねえ,鉄棒やろう。」と声をかけるが,他の2人はジャングルジムのほうで遊んでいて,サナエの声には答えてくれない。鉄棒のそばで「ねえ。」と何度か大きな声で呼んでいたサナエはそのうち1人で鉄棒にぶら下がったり,クルリと回ったりし始めた。そして,鉄棒でしばらく遊んだ後,2人のところへと走っていった。
(3)ヨウスケ(3エピソード):ものへのこだわりから言葉へのこだわりへの移行
扉に対するこだわりが強く,ずっと扉を開け閉めしてその様子を楽しんでいるヨウスケだったが,観察後期には「おかえり」「かわいいね」といった言葉を繰り返し周りの子どもたちにかけ,その言葉に応答してくれることを楽しむ様子がみられた。
(4)ハルト(8エピソード,うち1つはマナミ,2つはサナエとのかかわり):担任とのかかわりの変化
観察当初は集団での活動に参加することが難しく,担任の注意を自分のほうへ引く言動によって,他児とトラブルになる場面がみられた。担任が注意する場面を減らしハルトを認める場面を増やすようにしたところ,友達とのトラブルを嫌がるようになり,担任に解決方法を尋ねるようになった。観察後期には靴を履こうとするマナミを手伝ったり,サナエを慰めたりといった場面もあった。
総合考察
特別な支援が必要とされる子どもたちは幼稚園での生活の中で,他児とのかかわりを増やしたり,その質を変化させたりしており,変化の契機となるものはそれぞれの子どもの特徴と関係するものであるといえる。変化の過程はその子どもへの支援の手がかりであり,保育者がその過程をとらえることが重要であるといえよう。今後は,保育者の側が子どもの変化の過程をどうとらえ,支援方法について判断しているのかについても分析が必要である。