[PB088] 高校生における感動経験と学校適応感の関係
キーワード:感動経験, 学校適応感, 高校生
【目的】感動経験は、それを持つこと自体が「生きる力」の一面として重要であるとする教育的見解や、動機づけ機能を持つ自伝的記憶(速水・陳1993)と見なされたり、感動による種々の心理的効果(認知的変換、対人関係促進、等)に関する理論的指摘もある。つまり、感動経験は、学齢期あるいは教育場面における自己発達と結びついた情緒発達として解明が期待されるが、従来、児童期・青年期における感動はほとんど未解明である。
その中で、橋本・矢野(2012、感情心)は、児童期の感動を検討し、対人関係や、自然・芸術との出会いによる感動という成人と共通の感動カテゴリの適用可能性を見出す一方、児童期の学級生活と結びついた感動が存在し、児童の感じる多様な感動に、学級雰囲気の認知が関連すると報告した。これは,子どもと学校・学級という環境との関係性(の認知)の検討を通して、感動という自己関連感情の仕組みを解明する方向性を示唆していよう。
ここで、従来、感動が自己の意識に影響を与えることは指摘されているが、逆に自己の成長や変化によって感動が生じることもあるのではないか。とりわけ思春期・青年期では自己発達にかかわる課題が顕在化する。たとえば、自己の望む生き方や志望・目標に関する不安の克服、他者からの目標への支持、あるいは、葛藤関係が解消して、自己の望む方向性が保護者等から受け入れられること、などは、目標が真に達成される結果を得ておらず見通しであったとしても、青年期の自己模索の過程で希望する生き方への確信を深める機会として重要であろう。本研究では、そのような経験による感動が存在する可能性に目を向け、高校生における感動経験と学校適応との関連を調査することによって探索的に検討することを目的とした。
【方法】1.対象者と手続き 四国地方のA高校生全生徒359名を対象とし、学級担任を通じて無記名式で一斉実施。有効回答は、計289名(有効回答率81%:1年104,2年92、3年93)であった。
2.調査内容:(1)高校生版感動経験質問紙:橋本・小倉(2002、愛媛大紀要)の大学生版(青年期までの全経験)を参考に、高校生および高校教員の協力を得て改訂した38項目、4件法。因子としては、大学生版と共通の3因子(a絆や大切なものを得た感動、b他者の一生懸命な姿等への感動、c自然・芸術等の素晴らしさへの感動)を想定するとともに、高校生版独自の因子として、d「自分の生き方に希望を見出し不安が好転したことによる感動」という因子を想定した。なお、回想は高校入学後に限定し、現在までの経験頻度を尋ねた。(2)学校適応感質問紙は大久保智生(2005)の学校適応感質問紙(30項目5件法)を用いた。4因子(居心地の良さの感覚、課題・目的の存在、被信頼感・受容感、劣等感の無さ)を想定した。
【結果および考察】
1.各質問紙の因子分析および尺度平均の検討
学校適応感は先行研究どおりの4因子が抽出された(主因子法、プロマックス回転)。高校生版感動経験質問紙は最尤法・プロマックス回転により、3因子解を選択した。従来のaとbが因子1「人との絆や理想的な価値との出会いの感動」(α=.92)に負荷し、cは想定通り因子2に負荷・命名された(α=.83)、dは因子3「自分の生き方に希望を見出せたり、自分の望みが実現した感動」(α=.81)とされた。平均値は、分散分析により、全体として、因子1>因子2>因子3と見なされる。因子1、因子2では女子に比べ男子が3年で頻度が下がり、因子3は男女とも3年が低くなる。また全体的に女子>男子。
2.感動経験と学校適応感の相関関係
学校適応感の、居心地の良さ、被信頼感は、感動経験の対人的因子である因子1,3と有意な正相関を示すが、適応感の課題・目的の存在尺度は、自然等への感動を含む感動経験の3因子すべてと、どの学年でも有意な正相関を示した。学校で自己課題や目的を意識できることが高校生の感動経験と深くつながる可能性がある。さらに、感動因子3の自分の生き方に希望を見いだせた感動は、経験頻度はむしろ3年で低くなるが、学校適応感との相関は、1、2年に比べて3年がより高くなり、自己の生き方へ希望が学校適応感全般と強く関連するようになることの反映と推測される。
付記:本研究は、木村若菜氏(現・愛媛大学教育学部)が、平成23年度愛媛大学附属高校「課題研究」(高大連携事業)で筆者の指導下で取り組んだ調査研究を、同氏の了解を得て報告するものである。
その中で、橋本・矢野(2012、感情心)は、児童期の感動を検討し、対人関係や、自然・芸術との出会いによる感動という成人と共通の感動カテゴリの適用可能性を見出す一方、児童期の学級生活と結びついた感動が存在し、児童の感じる多様な感動に、学級雰囲気の認知が関連すると報告した。これは,子どもと学校・学級という環境との関係性(の認知)の検討を通して、感動という自己関連感情の仕組みを解明する方向性を示唆していよう。
ここで、従来、感動が自己の意識に影響を与えることは指摘されているが、逆に自己の成長や変化によって感動が生じることもあるのではないか。とりわけ思春期・青年期では自己発達にかかわる課題が顕在化する。たとえば、自己の望む生き方や志望・目標に関する不安の克服、他者からの目標への支持、あるいは、葛藤関係が解消して、自己の望む方向性が保護者等から受け入れられること、などは、目標が真に達成される結果を得ておらず見通しであったとしても、青年期の自己模索の過程で希望する生き方への確信を深める機会として重要であろう。本研究では、そのような経験による感動が存在する可能性に目を向け、高校生における感動経験と学校適応との関連を調査することによって探索的に検討することを目的とした。
【方法】1.対象者と手続き 四国地方のA高校生全生徒359名を対象とし、学級担任を通じて無記名式で一斉実施。有効回答は、計289名(有効回答率81%:1年104,2年92、3年93)であった。
2.調査内容:(1)高校生版感動経験質問紙:橋本・小倉(2002、愛媛大紀要)の大学生版(青年期までの全経験)を参考に、高校生および高校教員の協力を得て改訂した38項目、4件法。因子としては、大学生版と共通の3因子(a絆や大切なものを得た感動、b他者の一生懸命な姿等への感動、c自然・芸術等の素晴らしさへの感動)を想定するとともに、高校生版独自の因子として、d「自分の生き方に希望を見出し不安が好転したことによる感動」という因子を想定した。なお、回想は高校入学後に限定し、現在までの経験頻度を尋ねた。(2)学校適応感質問紙は大久保智生(2005)の学校適応感質問紙(30項目5件法)を用いた。4因子(居心地の良さの感覚、課題・目的の存在、被信頼感・受容感、劣等感の無さ)を想定した。
【結果および考察】
1.各質問紙の因子分析および尺度平均の検討
学校適応感は先行研究どおりの4因子が抽出された(主因子法、プロマックス回転)。高校生版感動経験質問紙は最尤法・プロマックス回転により、3因子解を選択した。従来のaとbが因子1「人との絆や理想的な価値との出会いの感動」(α=.92)に負荷し、cは想定通り因子2に負荷・命名された(α=.83)、dは因子3「自分の生き方に希望を見出せたり、自分の望みが実現した感動」(α=.81)とされた。平均値は、分散分析により、全体として、因子1>因子2>因子3と見なされる。因子1、因子2では女子に比べ男子が3年で頻度が下がり、因子3は男女とも3年が低くなる。また全体的に女子>男子。
2.感動経験と学校適応感の相関関係
学校適応感の、居心地の良さ、被信頼感は、感動経験の対人的因子である因子1,3と有意な正相関を示すが、適応感の課題・目的の存在尺度は、自然等への感動を含む感動経験の3因子すべてと、どの学年でも有意な正相関を示した。学校で自己課題や目的を意識できることが高校生の感動経験と深くつながる可能性がある。さらに、感動因子3の自分の生き方に希望を見いだせた感動は、経験頻度はむしろ3年で低くなるが、学校適応感との相関は、1、2年に比べて3年がより高くなり、自己の生き方へ希望が学校適応感全般と強く関連するようになることの反映と推測される。
付記:本研究は、木村若菜氏(現・愛媛大学教育学部)が、平成23年度愛媛大学附属高校「課題研究」(高大連携事業)で筆者の指導下で取り組んだ調査研究を、同氏の了解を得て報告するものである。