日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PB

(501)

2014年11月7日(金) 13:30 〜 15:30 501 (5階)

[PB094] ストレス関連成長の概念的枠組みモデルの適用可能性

量的アプローチによる妥当性の評価

飯村周平 (中央大学大学院)

キーワード:ストレス関連成長, 概念的枠組みモデル, 妥当性

目的
困難な出来事(以下,ストレス)との出会いは,時に個人を成長へと導くきっかけになることがある。ストレスを通じた成長は,ストレス関連成長(Stress-Related Growth)と呼ばれる。Shcaefer & Moos(1992)は,ストレス関連成長の心理的プロセスを理解するため,ストレス対処理論に基づく概念的枠組みモデル(以下,モデル)を提唱している。このモデルでは,「環境システム(Environmental System)」と「個人システム(Personal System)」がストレスに対する「認知的評価(Cognitive Appraisal)」と「対処行動(Coping Response)」に影響し,その結果「ストレス関連成長(Positive Outcome)」が生じると仮定される。欧米では,量的アプローチによる検討から,モデルの妥当性が支持されている。しかし一方で,日本人を対象としたモデルの妥当性は,未だに検討されていない。ゆえに,我が国において,このモデルを適用したストレス関連成長の議論は可能であるのか明らかではない。ストレス関連成長の生じ方には社会的文化差があり,日本人にもこのモデルが適用できるとは限らないからである。そのため本研究では,日本人を対象に,Shcaefer & Moos(1992)のモデルの妥当性を量的アプローチから評価することを目的とする。その結果を踏まえ,今後の研究におけるモデルの適用可能性に言及する。

方法
調査対象者および調査時期 本研究では,東京都の公立中学校に通う3年生183名(男性96名,女性87名)を分析対象とした。2013年12月下旬に質問紙を用いた集合調査を実施した。調査対象者は,約2か月後に私立あるいは公立高校を受験する予定であった。
調査内容 以下の調査内容は,「受験ストレス」に関する教示で回答を求めた。(1)環境システム:ソーシャル・サポート尺度(細田・田嶌,2009)を用いた。本研究では,サポート源(先生,友達,家族)別に道具的サポートと情緒的サポートの2因子各3項目を用いた。(2)個人システム:日本語版Ten Item Personality Inventory(小塩・阿部・カトローニ,2012)を用いた。この尺度は,外向性,協調性,勤勉性,神経症傾向,開放性の5因子各2項目で構成される。(3)認知的評価:受験ストレスの重要度,挑戦度,脅威度を測定した。項目は,「私にとって『受験』は重要だと思う」,「私にとって『受験』は挑戦的(チャレンジ・前向き・ポジティブ)だと思う」,「私にとって『受験』は脅威的(不安・害・ネガティブ)だと思う」であった。各項目は1点~10点の10段階評定で回答を求めた。(4)対処行動:中学生用プロアクティブ・コーピング・インベントリー(飯村・上野・清水,2013)を用いた。この尺度は,ソーシャル・サポート模索,内省的コーピング,予防的コーピング,計画的コーピング,能動的コーピングの5因子で構成される。本研究では5因子各3項目を用いた。(5)ストレス関連成長:中学生用自己成長感尺度(Iimura & Shimizu, 2012)を用いた。この尺度は,1因子20項目から構成される(項目例:「目標に近づけた」,「やればできると自信がついた」)。

結果と考察
構造方程式モデリングの結果をFigure1に示す。モデルの評価指標は,χ2 = 1242.92,df = 589, p = .00,CFI = .80,RMSEA = .08(95%CI [.07 , .08])を示した。パス係数(モデル識別のため係数を固定したパスを除く)は,全て有意確率5%水準で有意であった。自由度と変数のサイズを考慮すれば,このモデルの妥当性は概ね許容可能であると評価できる。
以上の結果から,Shcaefer & Moos(1992)のモデルは,日本人を対象とした場合にも適用可能であることが示唆された。ただし,調査対象者の属性とストレスの種類が極めて限定的であった点は留意すべきであろう。今後,多様な対象者とストレスに対しても,このモデルが妥当性を有するか検討を加える必要があると考えられる。