[PC034] 外部人材を活用した伝統・文化の教育におけるコーディネーターの語り
実演家と学校をつなぐ主体の位置取り
キーワード:外部講師の活用, NPOによる教育支援, 言説分析
1.問題と目的
学校教育において,地域の社会人や専門家など学校外の人材を活用した取り組みが進められている。各学校や教育委員会は「人材バンク」を整備して外部人材の活用に努めているが,支援可能な外部人材と支援してほしい学校とのマッチングにはまだ課題が多い。学校側からは,どこに依頼すればいいのかわからない,外部人材が学校側のねらいを十分に理解してくれるか不安といった声があがっている。このような状況を解消するために,文部科学省では,学校側が支援可能な企業や団体を探すことのできるサイトを開設したり,外部人材の活用事例を紹介するなどの情報提供を行っている。また,NPO法人などが「コーディネーター」となって,学校の個別の要望を聞いたうえで外部人材とのマッチングを行う方法が取り入れられるようになってきた。例えば,芸術家を学校に派遣してワークショップ型授業を実施する「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験事業」(文部科学省)では,各学校が芸術家を選び承諾を得た上で申請する「学校公募型」と,国から委託を受けたNPO法人等が学校のニーズを把握し芸術家を派遣する「NPO法人等提案型」の二種類の応募方法が設けられている。
学校と外部人材とを効率的に結びつけるコーディネーターの存在は,外部人材の活用を進める上で大きな力となるが,学校と外部人材の関係は,直接連携した場合と,コーディネーターが介在した場合では異なるものになると考えられる。本研究では,コーディネーターが自身の立場をどのように認識し,学校と外部人材の間をつなごうとしているのかをインタビューの分析から明らかにし,学校と外部の連携においてコーディネーターが介在することの意味について考察する。
2.方法
小学校に文楽の実演家を派遣しているNPO法人の事務局担当者1名に半構造化面接を行った。派遣先の小学校では,2000年より文楽学習を行っており,当初は学校が直接実演家に依頼して実技指導などの支援を受けていたが,面接の2年前にNPO法人から派遣する形に変更された。面接は2009年3月9日にNPO法人の事務所で実施した。所用時間は約1時間30分であった。録音からトランスクリプトを作成し,言説分析の手順を参考にして,コーディネーターが「文楽」と「学校」についてどのように語るのか,またそれらの語りとの関係の中でコーディネーターがどのような立ち位置を取りうるのかに焦点を当てて分析を行った。
3.分析と考察
文楽については,「芸の世界としての文楽」と「ビジネスとしての文楽」という二つの言説が利用されていた。「芸の世界としての文楽」という言説は,実演家の本業は舞台であり芸を磨く時間を確保したいという実演家の権利を保護する立場を構成する。一方で,「ビジネスとしての文楽」という言説は,劇場にもっと足を運んでもらうためには実演家に舞台以外でのPR活動を担ってもらう必要があるという立場を構成する。二つの立場は,コーディネーターにとってジレンマであり,できるだけ実演家に負担をかけないで効果をもたらす普及活動の工夫という実践へとつながっていた。
学校については,「社会貢献の対象としての学校」と「普及の対象としての学校」という二つの言説が利用されていた。「社会貢献の対象としての学校」という言説は,依頼してきた学校の条件や要望に沿うように支援するという立場を構成する。一方,「普及の対象としての学校」という言説は,実演家の派遣ができるだけ多くの人に影響を与えることを願う立場を構成する。学校の支援と文楽の普及の両方を成り立たせるために,コーディネーターは学校の学習活動を地域に開くよう学校に働きかける実践を行っていた。
4.まとめと今後の課題
本研究の対象となったコーディネーターは,文楽の実演家が立ち上げたNPO法人の事務局として,実演家の利害を代弁する立場にあった。学校の要望を聞いて活動を支援するだけでなく,実演家の状況や願いを理解した上で学校に働きかける積極的な調整を行っていた。今後は,より第三者的な立場のコーディネーターについても調査し,学校内外の連携のあり方ついて検討したい。
学校教育において,地域の社会人や専門家など学校外の人材を活用した取り組みが進められている。各学校や教育委員会は「人材バンク」を整備して外部人材の活用に努めているが,支援可能な外部人材と支援してほしい学校とのマッチングにはまだ課題が多い。学校側からは,どこに依頼すればいいのかわからない,外部人材が学校側のねらいを十分に理解してくれるか不安といった声があがっている。このような状況を解消するために,文部科学省では,学校側が支援可能な企業や団体を探すことのできるサイトを開設したり,外部人材の活用事例を紹介するなどの情報提供を行っている。また,NPO法人などが「コーディネーター」となって,学校の個別の要望を聞いたうえで外部人材とのマッチングを行う方法が取り入れられるようになってきた。例えば,芸術家を学校に派遣してワークショップ型授業を実施する「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験事業」(文部科学省)では,各学校が芸術家を選び承諾を得た上で申請する「学校公募型」と,国から委託を受けたNPO法人等が学校のニーズを把握し芸術家を派遣する「NPO法人等提案型」の二種類の応募方法が設けられている。
学校と外部人材とを効率的に結びつけるコーディネーターの存在は,外部人材の活用を進める上で大きな力となるが,学校と外部人材の関係は,直接連携した場合と,コーディネーターが介在した場合では異なるものになると考えられる。本研究では,コーディネーターが自身の立場をどのように認識し,学校と外部人材の間をつなごうとしているのかをインタビューの分析から明らかにし,学校と外部の連携においてコーディネーターが介在することの意味について考察する。
2.方法
小学校に文楽の実演家を派遣しているNPO法人の事務局担当者1名に半構造化面接を行った。派遣先の小学校では,2000年より文楽学習を行っており,当初は学校が直接実演家に依頼して実技指導などの支援を受けていたが,面接の2年前にNPO法人から派遣する形に変更された。面接は2009年3月9日にNPO法人の事務所で実施した。所用時間は約1時間30分であった。録音からトランスクリプトを作成し,言説分析の手順を参考にして,コーディネーターが「文楽」と「学校」についてどのように語るのか,またそれらの語りとの関係の中でコーディネーターがどのような立ち位置を取りうるのかに焦点を当てて分析を行った。
3.分析と考察
文楽については,「芸の世界としての文楽」と「ビジネスとしての文楽」という二つの言説が利用されていた。「芸の世界としての文楽」という言説は,実演家の本業は舞台であり芸を磨く時間を確保したいという実演家の権利を保護する立場を構成する。一方で,「ビジネスとしての文楽」という言説は,劇場にもっと足を運んでもらうためには実演家に舞台以外でのPR活動を担ってもらう必要があるという立場を構成する。二つの立場は,コーディネーターにとってジレンマであり,できるだけ実演家に負担をかけないで効果をもたらす普及活動の工夫という実践へとつながっていた。
学校については,「社会貢献の対象としての学校」と「普及の対象としての学校」という二つの言説が利用されていた。「社会貢献の対象としての学校」という言説は,依頼してきた学校の条件や要望に沿うように支援するという立場を構成する。一方,「普及の対象としての学校」という言説は,実演家の派遣ができるだけ多くの人に影響を与えることを願う立場を構成する。学校の支援と文楽の普及の両方を成り立たせるために,コーディネーターは学校の学習活動を地域に開くよう学校に働きかける実践を行っていた。
4.まとめと今後の課題
本研究の対象となったコーディネーターは,文楽の実演家が立ち上げたNPO法人の事務局として,実演家の利害を代弁する立場にあった。学校の要望を聞いて活動を支援するだけでなく,実演家の状況や願いを理解した上で学校に働きかける積極的な調整を行っていた。今後は,より第三者的な立場のコーディネーターについても調査し,学校内外の連携のあり方ついて検討したい。