[PC051] 教師は協同学習のグラウンド・ルールをどのように共有するか
4月における2人の小学校教師の比較を通して
Keywords:協同学習, グラウンド・ルール, 小学校
問題と目的
協同学習は学習面や社会面に効果をもつことが実証されている一方で,社会的関係性などの様々な理由から上手くいかないことも示されている(e.g. Webb, 2013)。そのため,協同学習を支える教師の働きかけは重要である。
教師の働きかけは協同学習中のみに留まらない。例えば,話し合う,聴き合う,助け合うといった協同学習を成立させるために暗黙に機能する“グラウンド・ルール(以下:GR)”を学級生活の中で共有させることも1つの働きかけである(e.g. Edwards & Mercer, 1987)。松尾・丸野(2007, 2008)や高垣ら(2013)は,GRの共有に関する教師の働きかけや,それによる児童の変容を示している。しかしこれらの研究は,朝の会や授業中が対象であり,また,1教師の実践の検討に留まっている。
そこで本研究は,教室内のルールの共有が集中的に行われると予想される4月の学級生活全体を対象に,協同学習を志向する2人の教師が,どのように協同学習のGRを共有しているかを明らかにすることを目的とする。
方 法
研究協力者 都内の公立小学校2校(3年生と5年生)の児童および教師にご協力いただいた。3年生の担任は藤村先生(23年目,男性),5年生の担任は神岡先生(14年目,男性)である(どちらも仮名)。両者とも児童が協同し合う学習を目指して授業を行っている。また,両学級ともクラス替えによって,新しい教師・児童の構成となっている。
調査手続き 2014年4月に,毎週1日程度始業から観察および放課後に協同学習のGRに関するインタビューを行った。データを収集は,教室後方右にビデオカメラを設置し,また,補助としてICレコーダーを使用し,さらに,適宜メモを取った。
結果と考察
インタビューデータから,2人の教師がどのように協同学習のGRを共有しようと考えているかをオープンコーディングにより分析した。その結果,藤村先生は「教師が考える協同学習のGRに対する価値を押し出す」方法を,また神岡先生は「児童の行為の事実から協同学習のGRを褒めながら価値づける」方法を用いてGRを共有しようと考えていた。
次に,協同学習のGR共有場面を抽出し,4月各週の各教師の協同学習のGR共有の働きかけの出現割合を分析した(表:全57場面)。協同学習のGRのカテゴリーは「受容:他者の意見の受け止め方に関するルール(e.g. 聴き方)」,「表出:自分の考えの表現方法に関するルール(e.g. 話し方)」,「援助:援助要請や援助提供の方法に関するルール」の3つに分類した。また,共有方法は,「褒め:褒める形で価値づけて共有する方法」と「注意:注意や叱りの形で価値づけて共有する方法(ただし,必ずしも怒り感情を伴うものではない)」に分類した。2週目と4週目は片方の学級しか観察ができなかったため,分析から除外した。筆者を含む2名のカテゴリー分類の一致率は91%であり,不一致部分は協議して決定した。
統計的検定はFisher’s exact testと残差分析を行った。まず,各学級において週による共有するGRの違いがあるか分析したところ(週(2)×GR(3)),両学級とも共有するルールが週によって異なっていた(藤村学級:p<.05,残差分析:援助Week1<Week3, p<.05;神岡学級:p<.05,残差分析:受容Week1<Week3,援助Week1>Week3, それぞれp<.05)。また,学級間でGRの共有方法が異なるか分析したところ(学級(2)×共有方法(2)),有意傾向となった(p<.10)。学級間のGR(学級(2)×GR(3))や,各学級の週ごとの共有方法(週(2)×共有方法(2))には有意差が示されなかった。
2人の教師のGR共有方法の考え方の相違は,実際の共有方法に現れていた。藤村先生は,褒めと注意を同程度用いながら,自身が考える協同学習のGRの価値を押し出していた。一方で神岡先生は,褒めを中心に児童の行為の事実から協同学習のGRを価値づけていた。また,両教師とも週による共有方法の違いは示されず,4月は一貫した共有スタイルを用いていることが示唆される。さらに,週によって共有されるGRが両学級とも異なっており,児童の様子などの文脈に応じて共有するGRを柔軟に変化させるような両教師の実践的判断が示唆される。今後は,共有するGRや共有方法の時期的変化や,GR共有時の教師の実践的思考過程,そしてGR共有が及ぼす授業や児童の変化を明らかにする。
協同学習は学習面や社会面に効果をもつことが実証されている一方で,社会的関係性などの様々な理由から上手くいかないことも示されている(e.g. Webb, 2013)。そのため,協同学習を支える教師の働きかけは重要である。
教師の働きかけは協同学習中のみに留まらない。例えば,話し合う,聴き合う,助け合うといった協同学習を成立させるために暗黙に機能する“グラウンド・ルール(以下:GR)”を学級生活の中で共有させることも1つの働きかけである(e.g. Edwards & Mercer, 1987)。松尾・丸野(2007, 2008)や高垣ら(2013)は,GRの共有に関する教師の働きかけや,それによる児童の変容を示している。しかしこれらの研究は,朝の会や授業中が対象であり,また,1教師の実践の検討に留まっている。
そこで本研究は,教室内のルールの共有が集中的に行われると予想される4月の学級生活全体を対象に,協同学習を志向する2人の教師が,どのように協同学習のGRを共有しているかを明らかにすることを目的とする。
方 法
研究協力者 都内の公立小学校2校(3年生と5年生)の児童および教師にご協力いただいた。3年生の担任は藤村先生(23年目,男性),5年生の担任は神岡先生(14年目,男性)である(どちらも仮名)。両者とも児童が協同し合う学習を目指して授業を行っている。また,両学級ともクラス替えによって,新しい教師・児童の構成となっている。
調査手続き 2014年4月に,毎週1日程度始業から観察および放課後に協同学習のGRに関するインタビューを行った。データを収集は,教室後方右にビデオカメラを設置し,また,補助としてICレコーダーを使用し,さらに,適宜メモを取った。
結果と考察
インタビューデータから,2人の教師がどのように協同学習のGRを共有しようと考えているかをオープンコーディングにより分析した。その結果,藤村先生は「教師が考える協同学習のGRに対する価値を押し出す」方法を,また神岡先生は「児童の行為の事実から協同学習のGRを褒めながら価値づける」方法を用いてGRを共有しようと考えていた。
次に,協同学習のGR共有場面を抽出し,4月各週の各教師の協同学習のGR共有の働きかけの出現割合を分析した(表:全57場面)。協同学習のGRのカテゴリーは「受容:他者の意見の受け止め方に関するルール(e.g. 聴き方)」,「表出:自分の考えの表現方法に関するルール(e.g. 話し方)」,「援助:援助要請や援助提供の方法に関するルール」の3つに分類した。また,共有方法は,「褒め:褒める形で価値づけて共有する方法」と「注意:注意や叱りの形で価値づけて共有する方法(ただし,必ずしも怒り感情を伴うものではない)」に分類した。2週目と4週目は片方の学級しか観察ができなかったため,分析から除外した。筆者を含む2名のカテゴリー分類の一致率は91%であり,不一致部分は協議して決定した。
統計的検定はFisher’s exact testと残差分析を行った。まず,各学級において週による共有するGRの違いがあるか分析したところ(週(2)×GR(3)),両学級とも共有するルールが週によって異なっていた(藤村学級:p<.05,残差分析:援助Week1<Week3, p<.05;神岡学級:p<.05,残差分析:受容Week1<Week3,援助Week1>Week3, それぞれp<.05)。また,学級間でGRの共有方法が異なるか分析したところ(学級(2)×共有方法(2)),有意傾向となった(p<.10)。学級間のGR(学級(2)×GR(3))や,各学級の週ごとの共有方法(週(2)×共有方法(2))には有意差が示されなかった。
2人の教師のGR共有方法の考え方の相違は,実際の共有方法に現れていた。藤村先生は,褒めと注意を同程度用いながら,自身が考える協同学習のGRの価値を押し出していた。一方で神岡先生は,褒めを中心に児童の行為の事実から協同学習のGRを価値づけていた。また,両教師とも週による共有方法の違いは示されず,4月は一貫した共有スタイルを用いていることが示唆される。さらに,週によって共有されるGRが両学級とも異なっており,児童の様子などの文脈に応じて共有するGRを柔軟に変化させるような両教師の実践的判断が示唆される。今後は,共有するGRや共有方法の時期的変化や,GR共有時の教師の実践的思考過程,そしてGR共有が及ぼす授業や児童の変化を明らかにする。