[PD001] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(8)
親・友人・教師エージェントが中学生時の適応的・不適応的社会化指標に及ぼす個別的影響
キーワード:社会化, エージェント, 多層的影響
Harris (1995) は,子どもの社会化が特定のエージェントとの関係など,文脈固有で行われると指摘する。Grusec & Davidov (2010) は社会化の過程に着目し,その領域を“protection”,“reciprocity”,“control”,“guided learning”,“group participation”に整理したうえで,各エージェントはこれらの領域のいずれかに限定して有効な機能を発揮すると指摘する。ただしこれらは示唆にとどまり,親,友人,教師など各エージェントからの具体的なはたらきかけと社会化指標との関連を包括的に実証した研究は見られない。
本研究では,中学生を対象に,社会化の主体である子どもを取り巻く各エージェントがどの領域において強く社会化に寄与するか検討する。社会化の程度を網羅的に指標化するため,社会的行動の適応性と関連の強い社会的スキルと共感性,不適応性と関連の強い社会的情報処理と自己制御を測定する。
方 法
対象者 公立中学校1校で3回の調査を行った(有効回答数:765名)。3年以上現住所に住む630名(男子300名,女子330名;1年生214名,2年生220名,3年生196名)を分析した。
測定内容 (1) 親の養育・しつけ(小学校低学年時):中道・中澤(2003)の応答性と統制からなる養育尺度(各5項目4件法, α = .85, .78),安香他(1990)の望ましい行動(良)と望ましくない行動(悪)からなるしつけ尺度(各6項目5件法, α = .86, .74)を回顧法で用いた。 (2) 友人関係機能:丹野(2008)の尺度を改訂し用いた(12項目5件法, α = .96)。 (3) 教師リーダーシップ:三隅・矢守(1989)の尺度を用いた(22項目5件法)。配慮,厳しさ,指導,親近(α = .60~.80)の下位尺度を構成した。 (4) 社会的スキル:東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキル(4項目)と自己他者モニタリングスキル(MS;5項目)を用いた(3件法, α = .77, .67)。 (5) 共感性:長谷川他(2009)の尺度から,視点取得(9項目)と共感的関心(7項目)を用いた(5件法, α = .80, .70)。 (6) 社会的情報処理:規範意識の高さに対応するルール適切性を指標化するため,3葛藤状況ごとに用いる社会的ルールを選択させ,一般的な適切性得点が付与されたリストと対応づけることで適切性を得点化した。認知的歪曲尺度(吉澤・吉田, 2010;15項目6件法, α = .78),一般攻撃信念の測定尺度(吉澤他, 2009;8項目4件法, α = .91)を用いた。 (7) 社会的自己制御:原田他(2008)の尺度を用いた(29項目5件法)。自己主張,持続的対処・根気,感情・欲求抑制(α = .77~.81)の下位尺度を構成した。
結果と考察
(1)から(3)のエージェント指標を説明変数,(4)から(7)を基準変数とした重回帰分析を行った結果,説明変数間で弁別的な影響が認められた(Table 1)。友人関係機能の肯定的影響が全般的に多く認められたが,この結果は成長に伴い親よりも仲間集団に参加・所属することの影響が強まるとするHarris (1995) の主張に整合する。親の養育や望ましい行動へのしつけに肯定的影響が認められるものの,望ましくない行動を叱るしつけは認知的歪曲を高めていた。厳しいしつけは社会的情報処理に悪影響を与えるとするWeiss et al. (1992) の知見と整合する結果とみなすことができる。教師の配慮や厳しさを中心に肯定的影響が認められたが,親近が一般攻撃信念を高める否定的影響も確認された。攻撃性の高い生徒は仲間関係から孤立することで,副次的に教師と過ごす時間が増加することに起因すると解釈できる。本結果は,社会化指標が社会的情報処理に限定されていた吉澤他(2013)を発展させる知見を提供したが,今後はエージェント間での社会化能力の相乗的・相互補完的影響や,エージェント影響の縦断的変化を検討する研究が求められる。
本研究では,中学生を対象に,社会化の主体である子どもを取り巻く各エージェントがどの領域において強く社会化に寄与するか検討する。社会化の程度を網羅的に指標化するため,社会的行動の適応性と関連の強い社会的スキルと共感性,不適応性と関連の強い社会的情報処理と自己制御を測定する。
方 法
対象者 公立中学校1校で3回の調査を行った(有効回答数:765名)。3年以上現住所に住む630名(男子300名,女子330名;1年生214名,2年生220名,3年生196名)を分析した。
測定内容 (1) 親の養育・しつけ(小学校低学年時):中道・中澤(2003)の応答性と統制からなる養育尺度(各5項目4件法, α = .85, .78),安香他(1990)の望ましい行動(良)と望ましくない行動(悪)からなるしつけ尺度(各6項目5件法, α = .86, .74)を回顧法で用いた。 (2) 友人関係機能:丹野(2008)の尺度を改訂し用いた(12項目5件法, α = .96)。 (3) 教師リーダーシップ:三隅・矢守(1989)の尺度を用いた(22項目5件法)。配慮,厳しさ,指導,親近(α = .60~.80)の下位尺度を構成した。 (4) 社会的スキル:東海林他(2012)の尺度から,他者理解スキル(4項目)と自己他者モニタリングスキル(MS;5項目)を用いた(3件法, α = .77, .67)。 (5) 共感性:長谷川他(2009)の尺度から,視点取得(9項目)と共感的関心(7項目)を用いた(5件法, α = .80, .70)。 (6) 社会的情報処理:規範意識の高さに対応するルール適切性を指標化するため,3葛藤状況ごとに用いる社会的ルールを選択させ,一般的な適切性得点が付与されたリストと対応づけることで適切性を得点化した。認知的歪曲尺度(吉澤・吉田, 2010;15項目6件法, α = .78),一般攻撃信念の測定尺度(吉澤他, 2009;8項目4件法, α = .91)を用いた。 (7) 社会的自己制御:原田他(2008)の尺度を用いた(29項目5件法)。自己主張,持続的対処・根気,感情・欲求抑制(α = .77~.81)の下位尺度を構成した。
結果と考察
(1)から(3)のエージェント指標を説明変数,(4)から(7)を基準変数とした重回帰分析を行った結果,説明変数間で弁別的な影響が認められた(Table 1)。友人関係機能の肯定的影響が全般的に多く認められたが,この結果は成長に伴い親よりも仲間集団に参加・所属することの影響が強まるとするHarris (1995) の主張に整合する。親の養育や望ましい行動へのしつけに肯定的影響が認められるものの,望ましくない行動を叱るしつけは認知的歪曲を高めていた。厳しいしつけは社会的情報処理に悪影響を与えるとするWeiss et al. (1992) の知見と整合する結果とみなすことができる。教師の配慮や厳しさを中心に肯定的影響が認められたが,親近が一般攻撃信念を高める否定的影響も確認された。攻撃性の高い生徒は仲間関係から孤立することで,副次的に教師と過ごす時間が増加することに起因すると解釈できる。本結果は,社会化指標が社会的情報処理に限定されていた吉澤他(2013)を発展させる知見を提供したが,今後はエージェント間での社会化能力の相乗的・相互補完的影響や,エージェント影響の縦断的変化を検討する研究が求められる。