[PE002] 韓国人大学生における暗黙の知能観と達成目標志向性
試験成績との関連も含めて
キーワード:暗黙の知能観, 達成目標志向性, 成績
動機づけの 達成目標理論では,自己研鑽をめざす“マスタリー目標”と,他者よりよい成績をめざす,または他者より低い評価を受けることを避けようとする“遂行目標”が仮定されている。
また,これらの達成目標を導くとされているのが,“暗黙の知能観”と呼ばれる概念であり,知能とは何かという問いに対する個人の解答である(上淵, 2003)。知能は柔軟で,努力によって増大させられると考える“増大的知能観”と,知能は固定的であり,変化させにくいと考える“実体的知能観”に分かれる。前者はマスタリー目標を,後者は遂行目標を導くとされる。
本研究は,国際比較研究などの際に同じ“アジア圏”として括られることの多い韓国の大学生を対象に,暗黙の知能観と達成目標志向性との関連を検討する。また,達成目標志向性と実際の試験成績との関連についても併せて検討する。
方法
参加者 韓国の大学に通う女子大生110名(平均年齢20.90±1.92歳)から調査への協力を得た。
材料 暗黙の知能観尺度(藤井・上淵, 2010)3項目,達成目標志向性尺度(田中・藤田, 2003)15項目。いずれも韓国語を母語とする日本語が堪能な韓国人留学生に翻訳を依頼し,著者が確認を行った。各尺度への回答はすべて5件法で求めた。他の尺度も実施したが,本稿では省略する。
手続き 調査開始時に,本調査への参加は任意であり,受講する授業の成績などとは一切の関連がないこと,回答したくない質問には回答しなくてよいことを説明した。同意を得た調査協力者に各尺度を実施(2013年9月)したのち,10月下旬に中間試験を,12月上旬に期末試験をそれぞれ実施した(どちらも50点満点)。初回調査時に参加者を識別するための任意の番号の記入を求め,最終的に試験の得点と対応がつくようにした。
結果および考察
相関分析 各尺度について,合算平均得点を算出したのち,相関係数および記述統計量を求めた(Table1)。暗黙の知能観はマスタリー目標と弱い正の相関を示し,遂行接近目標,遂行回避目標とは弱い負の相関を示した。
いずれの相関係数も低い値ではあるが,暗黙の知能観と達成目標志向性は,それぞれ理論と一致する方向で相関を示した。この点は日本の大学生を対象に検討を行った藤井(2014)とも一致しており,知能観と達成目標志向性の関連については,日韓は共通した傾向を示すと考えられる。
重回帰分析 続いて,中間・期末試験の合算平均得点を従属変数,前述の3つの達成目標志向性を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。その結果,回帰式は有意であり(F(1, 88)= 6.78, R2adj= .061, p =.011),遂行接近目標の影響のみ有意であった(β = .27, p = .011)。
遂行接近目標が成績に正の関連を示した点はElliot & Church(1997)と一致する結果であり,相対評価の制度が影響している可能性がある。近年,韓国の大学では相対評価制度が広く導入されており,一定以上のGPAを有することが就職に密接な関連を持っている。ゆえに,自身の能力を伸ばすという目標よりも,他者より良い成績を得るという目標が成績に結びついていることが示唆される。
また,これらの達成目標を導くとされているのが,“暗黙の知能観”と呼ばれる概念であり,知能とは何かという問いに対する個人の解答である(上淵, 2003)。知能は柔軟で,努力によって増大させられると考える“増大的知能観”と,知能は固定的であり,変化させにくいと考える“実体的知能観”に分かれる。前者はマスタリー目標を,後者は遂行目標を導くとされる。
本研究は,国際比較研究などの際に同じ“アジア圏”として括られることの多い韓国の大学生を対象に,暗黙の知能観と達成目標志向性との関連を検討する。また,達成目標志向性と実際の試験成績との関連についても併せて検討する。
方法
参加者 韓国の大学に通う女子大生110名(平均年齢20.90±1.92歳)から調査への協力を得た。
材料 暗黙の知能観尺度(藤井・上淵, 2010)3項目,達成目標志向性尺度(田中・藤田, 2003)15項目。いずれも韓国語を母語とする日本語が堪能な韓国人留学生に翻訳を依頼し,著者が確認を行った。各尺度への回答はすべて5件法で求めた。他の尺度も実施したが,本稿では省略する。
手続き 調査開始時に,本調査への参加は任意であり,受講する授業の成績などとは一切の関連がないこと,回答したくない質問には回答しなくてよいことを説明した。同意を得た調査協力者に各尺度を実施(2013年9月)したのち,10月下旬に中間試験を,12月上旬に期末試験をそれぞれ実施した(どちらも50点満点)。初回調査時に参加者を識別するための任意の番号の記入を求め,最終的に試験の得点と対応がつくようにした。
結果および考察
相関分析 各尺度について,合算平均得点を算出したのち,相関係数および記述統計量を求めた(Table1)。暗黙の知能観はマスタリー目標と弱い正の相関を示し,遂行接近目標,遂行回避目標とは弱い負の相関を示した。
いずれの相関係数も低い値ではあるが,暗黙の知能観と達成目標志向性は,それぞれ理論と一致する方向で相関を示した。この点は日本の大学生を対象に検討を行った藤井(2014)とも一致しており,知能観と達成目標志向性の関連については,日韓は共通した傾向を示すと考えられる。
重回帰分析 続いて,中間・期末試験の合算平均得点を従属変数,前述の3つの達成目標志向性を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を実施した。その結果,回帰式は有意であり(F(1, 88)= 6.78, R2adj= .061, p =.011),遂行接近目標の影響のみ有意であった(β = .27, p = .011)。
遂行接近目標が成績に正の関連を示した点はElliot & Church(1997)と一致する結果であり,相対評価の制度が影響している可能性がある。近年,韓国の大学では相対評価制度が広く導入されており,一定以上のGPAを有することが就職に密接な関連を持っている。ゆえに,自身の能力を伸ばすという目標よりも,他者より良い成績を得るという目標が成績に結びついていることが示唆される。