The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PE016] 教師は実践からいかにして学ぶのか

自他の実践の省察が授業の変革に結びつく過程

岸野麻衣 (福井大学大学院)

Keywords:教師, 実践, 省察

問題と目的
「反省的実践家」(Sch?n, 1983)としての教師には,実践状況や「行為の中の省察」そのものを省察して,暗黙の思考枠組を問い直していくことが重要である。すなわち教師の学習の中核は授業実践後の省察である(坂本, 2007)。それにより授業の複雑さに直面し,他者の視点を取り入れ多面的に実践を捉えることにつながっていく。また授業研究でお互いに授業を見ることで対話を通した協同的な省察が可能となり,同時に教師同士の関係の変容が学び合う関係の構築に結びつくという。
しかし,他者の授業を見て対話することや,自己の授業について他者と対話することが,どのような省察につながり,授業の変革につながっていくのかは明らかにされていない。そこで本研究では,他者や自己の実践に関する対話を通して教師がいかに省察し,自分の授業を変えていくのか,検討する。今回は特に授業の変革を為し得た一人の教師の学習プロセスを事例として取り上げ,探索的に明らかにする。

方法
対象 地方の小規模小学校で5~6年生を担任していた教職20年以上の40歳代の男性教師。
手続き 著者は共同研究者の一人として,対象教師と学校の授業研究会の改革に携わっていた。対象教師の授業研究に関わるほか,2年間継続して対象教師の実践研究を支援し,年数回の校内授業研究会の際には授業参観と協議に参加した。
分析方法 対象教師の授業の変革を算数の4つの授業を通して課題構造,対話構造,班での相互作用の質という観点で検討する。その上で,そこで他者の実践を見たことと,自己の実践について対話したことがどのように作用していたのか,対象教師自身の筆記記録を用いて検討する。

結果と考察
授業の変遷 5年次5月に参観した授業①は,「三角形の合同」である。課題提示において子どもたちに気づいたことを聞きながらも教師側で最初から決まっていた課題が提示される。答えを発表する前にぼそぼそと子ども同士が自然に話しあう風土があり,先生も「相談してもいいよ」と促していた。また,よく聞いていなかった子どもに他者の発話の復唱を促す場面が見られた。一方,一人一人の発話の意味があまり押さえられずに授業が流れていったり,発表させてもそれをあまり丁寧に検討していなかったりした。班での活動は分担作業になっていた。
5年次10月に参観した授業②は「平行四辺形の面積」であった。子どもたちが既習事項を使って自ら考えようとする単元構成となっていた。発表者が他者の書いた解き方を説明し,書いた本人が解説を重ねる構造となっていた。聴き手は笑顔でサポートし,自分の問題として話し手の発話に関与していた。子どもの発話が流れていかないよう教師が止めて丁寧に検討した。班での活動はお互いの考えを交流するものになっていた。
6年次5月に参観した授業③は「文字と式」であった。子どもたちが自然と解こうとする課題設定がなされていた。一つの課題を学級みんなで考える構造は継続していた。班での活動が頻繁に組み込まれ,独力でなく周りの人との対話を通して,考えの手がかりを得たり,問いの意味を理解したり,説明を洗練させたり,考えを言葉にしていったりしていく様子が見られた。
6年次11月に参観した授業④は「場合の数」であった。子どもの経験に基づく課題が設定され,課題の内容を共有した上で各自考えを形成していった。隣同士で話をしてから公的な発話を求めることが重ねられ,一方で発話に対して聴き手が「わからないんだけど」という場面も見られた。班での活動では,考えが異なっても互いに尊重し合い個々の考えを形成してそれぞれに学習を進めていく様子が見られた。
他者や自己の実践の作用 授業①から授業②の間には,いくつかの学校で「教室の雰囲気が柔らかく学び合う雰囲気があること,教師が子どものつぶやきや考えを大切にして授業を進めていること」に刺激を受け,自分に欠けている部分を改めて感じていた。文献の検討も踏まえて,教室環境を変え,グループ活動を取り入れ,子どもの間に学び合う関係を作ろうとしていった。理想の授業のイメージを膨らませる授業にも出会い,「聴く」ことを大事にしようと考えるようにもなっていた。
授業②から授業③の間には,自己の実践の振り返りから小グループでの学習に必要なことが自覚化され,一人一人に学びを生み出すために小グループで学び合いをどこで作り出すかという課題を持って授業に臨んでいた。
授業③から授業④の間には,単に協働する場を作りさえすればよいのではなく一人一人の学びを充実させるための協働でなくてはならないことを自覚し,多様な実践に刺激されて「話す」「聴く」「話し合う」活動を再考していた。一人一人の学習が学級での学び合いで深まっていく授業を目指していた。