[PE031] 大学教職課程の授業における被教育経験の省察
ワークシートと授業記録による質的事例分析
キーワード:大学授業研究, 被教育経験, 教職志望学生
問題と目的
本研究の目的は,教員志望学生が教職課程の講義科目の中で,いかにして授業観を変化させるかを明らかにすることである。
教員養成課程における課題として,学生の内にすでに形成された授業観への働きかけが挙げられる。学生は,被教育経験を通じた「観察による徒弟制」によって,受け身な授業観を個人的に形成する(秋田, 1996)。その授業観を変化させない限り,教員養成課程での学習内容を実践化しがたい(Darling-Hammond & Bransford, 2005)。したがって,教員養成課程では,学生が自らの被教育経験を省察し授業観を変化させることが重要となる。
本研究では,学生の授業観の変化を促す授業実践のために,初等中等教育での課題解決的な学習と授業研究の手法を援用し,ワークシートと授業記録の分析から,学生の授業観の変化について事例的に考察した。
方 法
対象授業 20XX年にA県私立B大学における教職課程講義「教育心理学」の内,授業に関して扱った第1~7回。受講者数は一年生48名及び二年生1名.学生が自分の授業観を表出し,他者との授業観の交流を促すため,教師による知識伝達を最小限にし,学生が自分の考えを聴き,話し,書く活動を中心とした。授業時には特定の課題に関する自由記述課題を授業展開や学生の意見に即して1~3題を提示し,グループ活動や全体での議論を行った.なお,授業者は第1著者である。
授業研究方法 初等中等での授業研究経験が豊富な第2著者と協同的に授業をデザインし,毎授業後に主にワークシートや授業者の振り返り記述を用いて学生の授業観の変化について検討し,次時の授業を構想した。
分析対象学生 受講生の内,高校公民科の免許志望者かつ当該期間で欠席のない10名。
分析方法:(1)ワークシート記述から学生の授業観の変化を分析する。(2)ワークシート記述や授業記録から学生の被教育経験の省察に関し事例的に考察する。
結果と考察
学生の授業観の変化
10名の学生の授業観の変化について,記述の文字数を比較した(Table 1)。課題は,第1回「どんな授業をしたいか」,第6回「どのような授業が求められるか」である。
文字数は41.6%増加が見られた。
内容としては,第1回では,子どもの動機づけについての記述が9名であり,第6回では,2名であった。また,第6回では,授業内容の定着を7名が記述しており,第1回から6回までで,動機づけから内容への授業観の変化が推察できる。
被教育経験の想起
ワークシートに明示的に被教育経験の想起が見られた学生は2名であった。学生Tは第7回の授業で「確かに自分の経験を思い出して見ると」と,小学校での算数授業を振り返っている。この記述の中で学生Tは,配付資料の内容に言及し,自身の経験と結びつけて理解すると共に,想起した経験から新たな推論を開始していた。
学生Rは,第5回の授業で「なぜなら,私もできないことがあっても聞けない時があったので」と自分の被教育経験を振り返っている。そして,教室全体で他者と共に授業を受けることの意義について気づき記述した。この記述から,学生Rは,個人の経験に由来する授業観を省察し,教室全体を捉えた授業観に変化したと言える。
被教育経験の省察の要因
被教育経験を問い直し,意味付け直したと考えられる学生Rの省察の要因を分析する。学生Rは第4回の最後の授業感想において,「毎回思うことは一緒」とグループ学習であれば,意見が言えると書いている。しかし,第5回の授業で発言がないため,そのプロセスは明確でない。学生Rの気づきに内容的に関わる発言として,第5回の講義における学生Sの発言「生徒に合わせるんじゃなくて,生徒が合わせた方が」とあることから,この発言を聴いたことによる変化だと推察できる。
よって,授業中に,自分の被教育経験に由来する授業観と全く異なる授業観に基づく学生の発言を聴くことによって,被教育経験の省察が生じる可能性が示唆された。
本研究の目的は,教員志望学生が教職課程の講義科目の中で,いかにして授業観を変化させるかを明らかにすることである。
教員養成課程における課題として,学生の内にすでに形成された授業観への働きかけが挙げられる。学生は,被教育経験を通じた「観察による徒弟制」によって,受け身な授業観を個人的に形成する(秋田, 1996)。その授業観を変化させない限り,教員養成課程での学習内容を実践化しがたい(Darling-Hammond & Bransford, 2005)。したがって,教員養成課程では,学生が自らの被教育経験を省察し授業観を変化させることが重要となる。
本研究では,学生の授業観の変化を促す授業実践のために,初等中等教育での課題解決的な学習と授業研究の手法を援用し,ワークシートと授業記録の分析から,学生の授業観の変化について事例的に考察した。
方 法
対象授業 20XX年にA県私立B大学における教職課程講義「教育心理学」の内,授業に関して扱った第1~7回。受講者数は一年生48名及び二年生1名.学生が自分の授業観を表出し,他者との授業観の交流を促すため,教師による知識伝達を最小限にし,学生が自分の考えを聴き,話し,書く活動を中心とした。授業時には特定の課題に関する自由記述課題を授業展開や学生の意見に即して1~3題を提示し,グループ活動や全体での議論を行った.なお,授業者は第1著者である。
授業研究方法 初等中等での授業研究経験が豊富な第2著者と協同的に授業をデザインし,毎授業後に主にワークシートや授業者の振り返り記述を用いて学生の授業観の変化について検討し,次時の授業を構想した。
分析対象学生 受講生の内,高校公民科の免許志望者かつ当該期間で欠席のない10名。
分析方法:(1)ワークシート記述から学生の授業観の変化を分析する。(2)ワークシート記述や授業記録から学生の被教育経験の省察に関し事例的に考察する。
結果と考察
学生の授業観の変化
10名の学生の授業観の変化について,記述の文字数を比較した(Table 1)。課題は,第1回「どんな授業をしたいか」,第6回「どのような授業が求められるか」である。
文字数は41.6%増加が見られた。
内容としては,第1回では,子どもの動機づけについての記述が9名であり,第6回では,2名であった。また,第6回では,授業内容の定着を7名が記述しており,第1回から6回までで,動機づけから内容への授業観の変化が推察できる。
被教育経験の想起
ワークシートに明示的に被教育経験の想起が見られた学生は2名であった。学生Tは第7回の授業で「確かに自分の経験を思い出して見ると」と,小学校での算数授業を振り返っている。この記述の中で学生Tは,配付資料の内容に言及し,自身の経験と結びつけて理解すると共に,想起した経験から新たな推論を開始していた。
学生Rは,第5回の授業で「なぜなら,私もできないことがあっても聞けない時があったので」と自分の被教育経験を振り返っている。そして,教室全体で他者と共に授業を受けることの意義について気づき記述した。この記述から,学生Rは,個人の経験に由来する授業観を省察し,教室全体を捉えた授業観に変化したと言える。
被教育経験の省察の要因
被教育経験を問い直し,意味付け直したと考えられる学生Rの省察の要因を分析する。学生Rは第4回の最後の授業感想において,「毎回思うことは一緒」とグループ学習であれば,意見が言えると書いている。しかし,第5回の授業で発言がないため,そのプロセスは明確でない。学生Rの気づきに内容的に関わる発言として,第5回の講義における学生Sの発言「生徒に合わせるんじゃなくて,生徒が合わせた方が」とあることから,この発言を聴いたことによる変化だと推察できる。
よって,授業中に,自分の被教育経験に由来する授業観と全く異なる授業観に基づく学生の発言を聴くことによって,被教育経験の省察が生じる可能性が示唆された。