[PE042] 子どもの論理を反映した教授介入
割合の認知的障害に及ぼす効果
キーワード:子どもの論理, 教授介入, 概念的理解
割合概念は子どもにとって理解することがかなり困難な概念である。算数・数学教育では, 数学の論理体系の構造に基づく「教科の論理」による指導を行っており,そこには, 子どもの思考や論理は全く考慮されていない。本研究の目的は, 子どもの論理を反映した教授介入が, 割合概念の認知障害に効果があるかについて検討することである。
栗山(2013)は,割合の認知的障害として等全体を見出している。等全体は, 割合で比較すべき2つまたは3つの全体は等しいという基本的な概念である。しかし, 子どもはこの基本的な概念を全くといっていいほど獲得しておらず, この等全体が割合概念の理解を妨害していることを示唆している。
本研究では,(1)子どものインフォ-マルな知識として,量的な概念から指導するようにカリキュラムに組み込み,割合モデルを具体化した材料を用いる,(2)割合の認知的障害としての等全体を考慮する,という2つの視点を取り入れたカリキュラム構成に基づく教授介入から,割合の認知的障害である等全体について検討した。
方 法 被験者:実験群にはA小学校の5年生57名,テキスト群にはB小学校の5年生63名が参加した。
課題:5年生の割合単元(啓林館)16時間。事前テストでは,割合の単元を学習する前に,割合に関するインフォ-マルな知識について尋ねた。割合単元を学習して,1週間以内に事後テストを実施した。事後テストでは以下の内容の一斉テストが行われた。(1)割合の3用法の解決課題3問。(2)変換課題5問。(3)作図課題2問。(4)表における等全体の不一致課題1問。(5)等全体があらかじめ一致している一致課題(図)1問。(5)図における等全体の不一課題1問であった。 手続き:テキスト群は,最初の1時間で割合の意味を導入し,その後の4時間で小数倍としての割合の3用法を指導した。第5時から第9時まで,%としての小数倍の関係を指導し,%としての割合の3用法を指導した。第10時から第16時までは割合のグラフについて指導された。実験群は,教科書の第1時から8時まで新しいカリキュラムが導入された。第1時から第3時までは,量概念を強調する割合モデルに基づく教材を用いて,割合を部分と全体といった点から指導した。第4時では,比較すべき割合について,基にする量が異なると%を比較することはできないことを,子ども同士の討論から引き出すように指導した。これらの4時間では,割合の公式は教えられず,割合の意味及び量としての大きさが指導された。第5時で,小数倍が導入された。第6時で第2用法,第7時で第1用法,第8時で第3用法が教えられ,第9時がまとめであった。第10時から第16時まではテキスト群と同じであった。
結 果
事前テスト:意味的表象の正答率は,実験群は90%,テキスト群は90%,量的表象の正答率は,実験群は67%,テキスト群は67%であった。両群において統計的な差は見られなかった。両群は等質であるといえる。
事後テスト:割合の3用法の解決。実験群は58%,テキスト群は55%であった。両群における統計的な差は見られなかった。変換課題において,実験群は83%,テキスト群は81%であった。両群における統計的な差は見られなかった。作図課題の平均正答率は,実験群が62%,テキスト群が30%で,実験群とテキスト群の差は有意であった(t(118)=4.53,p<.01)。等全体の課題ごとの正答率を図1に示した。
等全体の一致課題において実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=7.88,df=1,p<.01)。等全体の不一致課題(表)において,実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=6.25,df=1,p<.05)。等全体の不一致課題(図)において,実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=14.67,df=1,p<.01)。等全体課題のいずれの課題においても,実験群はテキスト群より成績の高いことが示された。
考 察
子どもがもつインフォーマルな知識を利用してカリキュラムを構成した教授介入は,子どもの理解を大きく促進させることが実証された。子どもにとって,かなり理解することが困難な等全体の理解を深めることが示された。こうした結果の要因としては,子どもがもつインフォーマルな知識を利用し,認知的障害としての等全体を新たにカリキュラムに組み込み構成したことにある。さらに,割合モデルを基にした教材を導入したことがある。子どもの論理に基づいた教授介入は,カリキュラムを構成する上で重要なアプローチになる可能性があると考えられる。
栗山(2013)は,割合の認知的障害として等全体を見出している。等全体は, 割合で比較すべき2つまたは3つの全体は等しいという基本的な概念である。しかし, 子どもはこの基本的な概念を全くといっていいほど獲得しておらず, この等全体が割合概念の理解を妨害していることを示唆している。
本研究では,(1)子どものインフォ-マルな知識として,量的な概念から指導するようにカリキュラムに組み込み,割合モデルを具体化した材料を用いる,(2)割合の認知的障害としての等全体を考慮する,という2つの視点を取り入れたカリキュラム構成に基づく教授介入から,割合の認知的障害である等全体について検討した。
方 法 被験者:実験群にはA小学校の5年生57名,テキスト群にはB小学校の5年生63名が参加した。
課題:5年生の割合単元(啓林館)16時間。事前テストでは,割合の単元を学習する前に,割合に関するインフォ-マルな知識について尋ねた。割合単元を学習して,1週間以内に事後テストを実施した。事後テストでは以下の内容の一斉テストが行われた。(1)割合の3用法の解決課題3問。(2)変換課題5問。(3)作図課題2問。(4)表における等全体の不一致課題1問。(5)等全体があらかじめ一致している一致課題(図)1問。(5)図における等全体の不一課題1問であった。 手続き:テキスト群は,最初の1時間で割合の意味を導入し,その後の4時間で小数倍としての割合の3用法を指導した。第5時から第9時まで,%としての小数倍の関係を指導し,%としての割合の3用法を指導した。第10時から第16時までは割合のグラフについて指導された。実験群は,教科書の第1時から8時まで新しいカリキュラムが導入された。第1時から第3時までは,量概念を強調する割合モデルに基づく教材を用いて,割合を部分と全体といった点から指導した。第4時では,比較すべき割合について,基にする量が異なると%を比較することはできないことを,子ども同士の討論から引き出すように指導した。これらの4時間では,割合の公式は教えられず,割合の意味及び量としての大きさが指導された。第5時で,小数倍が導入された。第6時で第2用法,第7時で第1用法,第8時で第3用法が教えられ,第9時がまとめであった。第10時から第16時まではテキスト群と同じであった。
結 果
事前テスト:意味的表象の正答率は,実験群は90%,テキスト群は90%,量的表象の正答率は,実験群は67%,テキスト群は67%であった。両群において統計的な差は見られなかった。両群は等質であるといえる。
事後テスト:割合の3用法の解決。実験群は58%,テキスト群は55%であった。両群における統計的な差は見られなかった。変換課題において,実験群は83%,テキスト群は81%であった。両群における統計的な差は見られなかった。作図課題の平均正答率は,実験群が62%,テキスト群が30%で,実験群とテキスト群の差は有意であった(t(118)=4.53,p<.01)。等全体の課題ごとの正答率を図1に示した。
等全体の一致課題において実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=7.88,df=1,p<.01)。等全体の不一致課題(表)において,実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=6.25,df=1,p<.05)。等全体の不一致課題(図)において,実験群とテキスト群の差は有意であった(χ2=14.67,df=1,p<.01)。等全体課題のいずれの課題においても,実験群はテキスト群より成績の高いことが示された。
考 察
子どもがもつインフォーマルな知識を利用してカリキュラムを構成した教授介入は,子どもの理解を大きく促進させることが実証された。子どもにとって,かなり理解することが困難な等全体の理解を深めることが示された。こうした結果の要因としては,子どもがもつインフォーマルな知識を利用し,認知的障害としての等全体を新たにカリキュラムに組み込み構成したことにある。さらに,割合モデルを基にした教材を導入したことがある。子どもの論理に基づいた教授介入は,カリキュラムを構成する上で重要なアプローチになる可能性があると考えられる。