[PE047] 情動制御の個人差と偶発記憶における分散効果の関係
Keywords:偶発記憶, 分散効果, 情動制御
Toyota (2011) は,情動知能(EI)の個人差が,記銘語から連想される過去の出来事の情動の処理に影響し,再生率に反映されることを示している。そこでは,EI高群は記銘語から想起される過去の出来事が快,中立,不快のどの段階にあっても記銘語の再生率が変化しないが,EI低群は,快=不快>中立という関係が示されている。また,Toyota(2012)は,EIの下位尺度である情動の制御と調節(MR)によって分散効果の異なり,MR高群が低群よりも分散効果が小さかったのである。しかし,この研究では,快語だけのリストと不快語だけのリストを作成し,この両者を比較したが,快と不快の違いが明らかにならなかった。しかし,Baumeister et al. (2001) は,BadがGoodよりも強いという心理学的現象に関する一般的原理を展望し,豊田(2012a)では不快規準による自己選択が快規準による自己選択よりも強制選択との違いである自己選択効果が大きいことを明らかにしている。さらに,豊田(2012b)では,EI高群では快,不快エピソードともに分散効果が生じるが,EI低群では不快エピソードでのみ分散効果が生じている。本報では,Toyota(2012)とは異なり,快語と不快語を同じリストに入れて,快と不快エピソードを想起した場合に,EIの下位能力であるMRの個人差による分散効果の違いをあるか否かを検討する。
方 法 a)実験計画 3(MR水準; 高,低)×2(提示形式; 集中,分散)×2(エピソード型;快,不快)の要因計画。第1要因が参加者間要因,その他は参加者内要因。b)参加者 大学生42名(男18,女24)。平均年齢18.3か月。c)材料 方向づけリストは,兵藤ら(2003)から選定された情動性評定値の高い快語(例:幸福 自由)及び低い不快語(例:戦争 空腹)を8語ずつを反復提示するので,計32語から構成された。そして,リストの最初と最後にバッファー語を加え,34ページからなるB6判の小冊子にされた。Fig.1には,小冊子のページ例が示されている。自由再生テスト用紙はB6判。 d)手続 偶発記憶手続を用いた集団実験。1)方向づけ課題 実験者の合図に従い,10秒ごとに小冊子の各ページに示された単語から想起される過去の出来事について快-不快の程度を6段階評定。2)自由再生テスト 書記自由再生 3分。その後,実験の説明を行い,全員がデータ提供。
結 果 Table 1には,条件ごとの再生率。分散分析の結果,提示形式の主効果(F=14.35, p<.001)及びMR水準×快・不快の交互作用(F=5.49, p<.05)が有意であった。また、MR水準×提示形式×エピソード型の交互作用が有意傾向であり、下位検定の結果、分散提示ではMR高群は快>不快、低群は快<不快という関係が示された。
考 察 快及び不快な出来事を想起した場合に,MRの水準による分散効果の違いは認められなかった。Toyota(2012)では,MR高群が低群よりも分散効果が快及び不快で大きかったが,快と不快間に分散効果の違いは見いだされなかった。本報では,快と不快をリスト内に含めたが,違いは見いだされず,MR水準による分散効果の大きさの違いもなかった。リスト構成の違いによってEI水準の効果が異なることは,Toyota(2011)においても見いだされている。したがって,リスト構成の違いが再生率に及ぼす影響は大きいが, 興味深いのは,分散提示においてMR高群では快>不快、低群では快<不快という関係が示されたことである。これは,MR高群は単語から喚起する情動を抑制する傾向が強いので強い不快な出来事の情動を抑制し,検索するための情動手がかりが減少する。一方,低群はその抑制が弱いので強い情動が手がかりとして機能したといえよう。Richards & Gross (2000, 2006)も,情動の抑制による再生率の低下を見いだしている。検索手がかりとなる情動を抑制することでその情動のもつ差異性(distinctiveness)が乏しくなり,検索手がかりとしての有効性が低下していくのであろう。
方 法 a)実験計画 3(MR水準; 高,低)×2(提示形式; 集中,分散)×2(エピソード型;快,不快)の要因計画。第1要因が参加者間要因,その他は参加者内要因。b)参加者 大学生42名(男18,女24)。平均年齢18.3か月。c)材料 方向づけリストは,兵藤ら(2003)から選定された情動性評定値の高い快語(例:幸福 自由)及び低い不快語(例:戦争 空腹)を8語ずつを反復提示するので,計32語から構成された。そして,リストの最初と最後にバッファー語を加え,34ページからなるB6判の小冊子にされた。Fig.1には,小冊子のページ例が示されている。自由再生テスト用紙はB6判。 d)手続 偶発記憶手続を用いた集団実験。1)方向づけ課題 実験者の合図に従い,10秒ごとに小冊子の各ページに示された単語から想起される過去の出来事について快-不快の程度を6段階評定。2)自由再生テスト 書記自由再生 3分。その後,実験の説明を行い,全員がデータ提供。
結 果 Table 1には,条件ごとの再生率。分散分析の結果,提示形式の主効果(F=14.35, p<.001)及びMR水準×快・不快の交互作用(F=5.49, p<.05)が有意であった。また、MR水準×提示形式×エピソード型の交互作用が有意傾向であり、下位検定の結果、分散提示ではMR高群は快>不快、低群は快<不快という関係が示された。
考 察 快及び不快な出来事を想起した場合に,MRの水準による分散効果の違いは認められなかった。Toyota(2012)では,MR高群が低群よりも分散効果が快及び不快で大きかったが,快と不快間に分散効果の違いは見いだされなかった。本報では,快と不快をリスト内に含めたが,違いは見いだされず,MR水準による分散効果の大きさの違いもなかった。リスト構成の違いによってEI水準の効果が異なることは,Toyota(2011)においても見いだされている。したがって,リスト構成の違いが再生率に及ぼす影響は大きいが, 興味深いのは,分散提示においてMR高群では快>不快、低群では快<不快という関係が示されたことである。これは,MR高群は単語から喚起する情動を抑制する傾向が強いので強い不快な出来事の情動を抑制し,検索するための情動手がかりが減少する。一方,低群はその抑制が弱いので強い情動が手がかりとして機能したといえよう。Richards & Gross (2000, 2006)も,情動の抑制による再生率の低下を見いだしている。検索手がかりとなる情動を抑制することでその情動のもつ差異性(distinctiveness)が乏しくなり,検索手がかりとしての有効性が低下していくのであろう。