日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PE048] 情動知能の個人差と無意図的に想起される自伝的記憶との関連性

山本晃輔 (大阪産業大学)

キーワード:情動知能, 自伝的記憶, 無意図的想起


 【目的】 近年,情動が記憶に及ぼす影響についての研究が盛んに行われている。中でも,情動処理は個人の特性による影響が大きいため,実験参加者の情動知能(Emotional Intelligence)の個人差に注目し,記憶成績との関連性が検討されている(e.g., Toyota, 2011; Yamamoto & Toyota, 2013)。情動知能とは,情動を扱う個人の能力と定義され,その下位能力として自分自身や他人の感情や情動を監視する能力,これらの感じ方や情緒の区別をする能力および個人の思考や好意を導くための感じ方や情緒に関する情報を利用できる能力が想定されている(Salovey & Mayer,1990)。たとえば,Yamamoto & Toyota(2013)は,J-ESCQ (Japanese version Emotional Skills & Competence Questionnaire)を用いて,参加者の情動知能を測定し,その個人差によって過去の個人的な出来事の記憶である自伝的記憶(autobiographical memory)の想起の様相が変動する可能性を示した。
 Yamamoto & Toyota(2013)の研究では,“思い出そう”という意図を伴って想起された自伝的記憶のみを対象としたが,最近では想起意図を伴わない無意図的想起(involuntary remembering)に関する研究が行われ,注目を集めている(e.g., Berntsen, 1996, 2009; 山本, 2008, 2013)。自伝的記憶には想起者の現在の情動を調整する役割が指摘されていることから(榊, 2005),情動知能の高い人ほど日常的にふと想起される情動的な自伝的記憶を利用し,現在の感情状態をポジティブに変容させたり,維持させたりする可能性が推測される。そこで本研究では,情動知能の個人差と無意図的に想起される自伝的記憶との関連性を検討する。情動知能の高い人ほど情動制御機能を有効に使用しているのであれば,情動知能尺度得点と自伝的記憶の感情評定値間に有意な相関関係が確認されることが予測される。
【方法】 参加者 大学生99名(男性42名・女性57名)であった。平均年齢は20.34歳(SD=2.22)であった。
 調査用紙 調査項目はA3用紙に両面印刷されていた。用紙には年齢と性別の記入欄,J-ESCQの24項目および山本(2008)に従い,日誌の記入欄が印刷されていた。
 手続き 授業時間の一部を用いて,J-ESCQの回答を求めた後,日誌の記録に関する教示を行った。思い出そうとする意図がないにもかかわらず,ふと過去の出来事が思い出された時に,日誌にその状況(想起場所,想起時の活動など),想起されたエピソードの内容や特性に関する評定値の記入を求めた。評定値については,感情喚起度(1=弱い,5=強い),快不快度(1=不快,5=快)の2種類であった。日誌は配布から,2週間後に回収され,その期間内で生起した3ケースについて記述させた。また,期間内における無意図的想起の総生起回数についても記録させた。
【結果と考察】期間内にすべての参加者において1ケース以上の無意図的想起の生起がみられた。2週間における無意図的想起の総生起回数の平均値は,8.94回(SD=13.08)であった。情動知能尺度の合計値および下位因子(自分の情動の理解,他者の情動の理解,情動の統制)ごとの合計値,さらには記憶に関する各評定値のそれぞれの平均値およびSDを算出した結果がTable1である。
 情動知能の個人得点と記憶特性との関連を検討するために,それぞれの点数間の相関係数を算出した。その結果,情動知能の合計得点と記憶の快不快度との間に有意な相関関係が確認された(r=.28,p<.001)。また,情動知能の下位尺度である情動の理解と表現(r=.22,p<.001)および他者の情動の理解(r=.22, p<.001)においてもそれぞれに記憶の快不快度と有意な相関関係が示された。この結果から,情動知能の高い人は日常生活のふとした瞬間にポジティブな記憶を想起することにより,自身の感情状態を調整している可能性が示唆された。今後は,このような無意図的想起の機能について,ストレスの抑制などの観点から,より詳細な実験的検討を行う必要がある。

注:本研究は平成26〜28年度科学研究費補助金若手研究(B)(課題番号:26780368)の助成を受けた。