[PE054] 1-2歳児における語彙カテゴリ構成の発達的変遷
大規模横断データを用いた検討
キーワード:語彙発達, 語彙カテゴリ構成, 幼児
1. 背景と目的
幼児言語発達を解明するアプローチのひとつに,初期に習得する語彙のカテゴリ構成を調べ,その構成の発達的変遷から語彙発達のメカニズムを探る研究がある。Caselliら(1999)は,語彙チェックリスト法を用いて英語とイタリア語を習得する1-2歳児を対象とした横断研究を実施した結果,両言語とも累積語彙数が50語以上になると一般名詞の占める割合が一貫して大きく,両言語の幼児が名詞バイアス(noun bias)を持つと主張した。
Casseliら(1999)の研究は語彙カテゴリ構成の全体的傾向を知る上では重要な結果と言えるが,その発達的変遷を正確に知るには十分なアプローチとは言えない。というのも,Caselliらの研究で設定された発達段階(1-50語,51-100語, 101-200語…)は,対象幼児の累積語彙数により分類され,語彙数群ごとに語彙カテゴリ構成の平均を算出しているからである。つまり,201-300語の語彙カテゴリ構成の算出には,200語以下のデータも必然的に含まれる。従って,この手法では各発達段階で一貫して一般名詞が多いとは主張しづらいと考えられる。
そこで本研究では,Caselliら(1999)のこうした問題を解決するために,各語彙の獲得月齢(AoA: age of acquisition)を用いた順位づけ手法により,日本語習得児における語彙カテゴリ構成の発達的変遷の特徴を明確化することを目的とした。
2. 方法
参加者: 関西に在住の,日本語を母語とする生後10-32ヶ月齢の幼児を持つ母親1,699名(2006年から約6年間に研究所に来訪)を対象に語彙チェックリスト法(日本語版マッカーサ乳幼児言語発達質問紙[J-CDI]; 綿巻ら, 2004等)による調査を実施した。
データ解析:取得データは幼児の月齢に基づいて1ヶ月ごとに分割し,各月齢における各語の発話における習得率を計算した。次に,各月齢(x)における習得率(f(x))をロジスティック関数でモデル化し,幼児の50%が発話した月齢を,得られたロジスティック関数のf(x)=0.5を解くことにより算出し,各語のAoAとした。こうして得られた語のAoAを基準にして各語を昇順で順位づけした。この順位を用いて,50語ごとに対象レンジを10語ずつスライドさせ,オーバラップさせながら各レンジの語彙カテゴリ構成を分析した。つまり,1-50語,11-60語,21-70語と,語彙レンジをスライドさせ,最終的には450-500語までの割合を算出した。語彙カテゴリは,Casseliら(1999)の基準にならい,社会語, 一般名詞, 述語, 閉じた語,その他の5種類に分類して,解析を行った。
図1 語彙カテゴリ構成の発達的推移
3. 結果と考察
図1に,語彙レンジごとの各語彙カテゴリの割合を示した。その結果,最初の1-100語までは社会語の割合が多く,それ以降に一般名詞の割合が上昇することがわかった。また興味深かったのは, 200語以降に一般名詞と述語の割合が相補的に増減する点である。つまり,一般名詞の獲得が増えると述語の獲得が減り,述語の獲得が増えると一般名詞の獲得が減ることを意味する。従来は,どの発達段階でも一般名詞が述語よりも一貫して多く獲得されると考えられてきたので,本結果は新しい知見と言える。これが確かだとすると,一般名詞と述語が常に一定の割合でバランスよく獲得が進むのではなく,ある時期は集中的に一般名詞を,そして別の時期には集中的に述語を習得するというような,語彙カテゴリごとのシークエンシャルな学習の軌跡も十分に考えられる。今後は個人の縦断データ解析を通じて本現象を確認したい。
幼児言語発達を解明するアプローチのひとつに,初期に習得する語彙のカテゴリ構成を調べ,その構成の発達的変遷から語彙発達のメカニズムを探る研究がある。Caselliら(1999)は,語彙チェックリスト法を用いて英語とイタリア語を習得する1-2歳児を対象とした横断研究を実施した結果,両言語とも累積語彙数が50語以上になると一般名詞の占める割合が一貫して大きく,両言語の幼児が名詞バイアス(noun bias)を持つと主張した。
Casseliら(1999)の研究は語彙カテゴリ構成の全体的傾向を知る上では重要な結果と言えるが,その発達的変遷を正確に知るには十分なアプローチとは言えない。というのも,Caselliらの研究で設定された発達段階(1-50語,51-100語, 101-200語…)は,対象幼児の累積語彙数により分類され,語彙数群ごとに語彙カテゴリ構成の平均を算出しているからである。つまり,201-300語の語彙カテゴリ構成の算出には,200語以下のデータも必然的に含まれる。従って,この手法では各発達段階で一貫して一般名詞が多いとは主張しづらいと考えられる。
そこで本研究では,Caselliら(1999)のこうした問題を解決するために,各語彙の獲得月齢(AoA: age of acquisition)を用いた順位づけ手法により,日本語習得児における語彙カテゴリ構成の発達的変遷の特徴を明確化することを目的とした。
2. 方法
参加者: 関西に在住の,日本語を母語とする生後10-32ヶ月齢の幼児を持つ母親1,699名(2006年から約6年間に研究所に来訪)を対象に語彙チェックリスト法(日本語版マッカーサ乳幼児言語発達質問紙[J-CDI]; 綿巻ら, 2004等)による調査を実施した。
データ解析:取得データは幼児の月齢に基づいて1ヶ月ごとに分割し,各月齢における各語の発話における習得率を計算した。次に,各月齢(x)における習得率(f(x))をロジスティック関数でモデル化し,幼児の50%が発話した月齢を,得られたロジスティック関数のf(x)=0.5を解くことにより算出し,各語のAoAとした。こうして得られた語のAoAを基準にして各語を昇順で順位づけした。この順位を用いて,50語ごとに対象レンジを10語ずつスライドさせ,オーバラップさせながら各レンジの語彙カテゴリ構成を分析した。つまり,1-50語,11-60語,21-70語と,語彙レンジをスライドさせ,最終的には450-500語までの割合を算出した。語彙カテゴリは,Casseliら(1999)の基準にならい,社会語, 一般名詞, 述語, 閉じた語,その他の5種類に分類して,解析を行った。
図1 語彙カテゴリ構成の発達的推移
3. 結果と考察
図1に,語彙レンジごとの各語彙カテゴリの割合を示した。その結果,最初の1-100語までは社会語の割合が多く,それ以降に一般名詞の割合が上昇することがわかった。また興味深かったのは, 200語以降に一般名詞と述語の割合が相補的に増減する点である。つまり,一般名詞の獲得が増えると述語の獲得が減り,述語の獲得が増えると一般名詞の獲得が減ることを意味する。従来は,どの発達段階でも一般名詞が述語よりも一貫して多く獲得されると考えられてきたので,本結果は新しい知見と言える。これが確かだとすると,一般名詞と述語が常に一定の割合でバランスよく獲得が進むのではなく,ある時期は集中的に一般名詞を,そして別の時期には集中的に述語を習得するというような,語彙カテゴリごとのシークエンシャルな学習の軌跡も十分に考えられる。今後は個人の縦断データ解析を通じて本現象を確認したい。