日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PE068] 過去に生起した母親罪障感と母親の子育て意識および子どものQOL

第6回及び第7回「愛知の子ども縦断調査」より

石野陽子1, 神田直子2 (1.島根大学, 2.元愛知県立大学)

キーワード:母親罪障感, 子育て, 縦断研究

目 的
子どもの障がいをその子どもの親が受容する過程に関する従来の研究によれば,漠然とした不安から負の感情の生起を経て受容に至るという段階説(例えば,Drotar, Baskiewicz, Irvin, Kennell, & Klaus, 1975)が概ね支持されている。それらの先行研究では比較的少数の参加者を対象とした質的データにより理論構築がなされている。したがって,質的データとともに実証的データを蓄積する必要がある。そこで石野・神田(2010)は量的なデータ分析を通して検討した。その結果,障がいの認知は社会的援助資源の活用や必要性の高さに影響を与え,母親罪障感の喚起に強い影響を与えていることが確認された。また,母親罪障感の高さが子育て充実感に強い影響を与えていることが示された。さらに石野(2013)によれば,特に社会的援助資源の必要度との関連が高く,母親役割不足場面に関する罪障感の生起が相談相手を,子の性格・状況否定場面が気分転換や預け先を強く必要としていることが明らかとなった。本研究では,過去の母親罪障感の生起が母親の子育て意識や子どものQOLを変化させたかについて報告する。
方 法
調査対象者:I県内12カ所の保健センターで行なわれた乳幼児健康診査(1歳半,3歳)受診者などの母親2519人に2001年2月に郵送による個別依頼を行なった。それに承諾し回答した1457名のうち,有効回答をした母親1439名を調査対象者とし縦断研究を開始した。本研究においては,第6回調査(2011年実施)回答者で当時子どもが小5-中1の親490人のうち,次回協力の意思表示をし連絡先を明記していた469人に第7回調査用紙を送付した。返送されたのは426通であり回答率は91.4%であった。子どもは中1が219人,中2が22人,中3が228人であった。調査内容:(1)母親罪障感(2011年実施);石野(2005)で構成された全27項目を用いた。「とても思う(4点)」から「全く思わない(0点)」までの5件法によって回答された。点数が高いほど,母親罪障感が高いことを示す。(2)子ども調査(2013年実施):「子どもの主観的な心身両面からの健康度・生活全体の満足度」をチェックするQOL尺度(Kid-KINDLR)24項目について,5件法で回答を求めた(1ぜんぜんなかった-5いつもだった)。なお,尺度については,山本理絵(愛知県立大学)の協力のもと,原作者等に許可を得て使用している。(3)親調査(2013年実施):子育て不安,学校関連不安,子育てのストレス意識,子どもの成績,学習塾への関心,家での親子の話し合い,養育態度についての親の自認,学校・地域とのかかわり,相談の有無,相談相手,子どもの学校での戸惑いや悩み,先生・学校に対する要望と満足度,子育ての支援ニーズ等について,それぞれ選択肢を設定し,それに答えさせた。それぞれ得点化し分析に用いた。
結 果 と 考 察
母親罪障感(2011年実施)が母親の子育て意識および子どものQOL(2013年実施)へ与えた影響を検討した(表1)。母親罪障感の中でも,子どもに対する否定的な態度を取っていることに申し訳なさを感じていた母親は,子育てへの不安が解消され満足感を得ていた。また,母親役割を積極的に回避していたり,母親役割に対する努力が不足していたりしたことに申し訳なさを感じていた母親の子どもが後に,心身共に健康で家族との関係にも満足している傾向にあることが明らかとなった。過去の母親罪障感の生起が,その後の母親の子育てに対する意識や行動に変化を与え,子育てに対して前向きな思考をもたらし,子どもの健康面・生活面への満足度を高めたことが考えられる。母親罪障感の生起から母親が何を思考しどのような行動をしたのか,詳細な検討を行ないたい。
引 用 文 献
Drotar, D., Baskiewicz, A., Irvin, N., Kennell, J., & Klaus, M. (1975). The adaptation of parents to the birth of an infant with a congenital malformation: A hypothetical model. Pediatrics, 56, 710-717.
石野陽子(2005).就学前児の母親がもつ罪障感の構造-就労状況との関連- 家族心理学研究 19,128-140.
石野陽子(2013).母親罪障感と子育て充実感・育児ストレス・社会的援助資源の必要度との関連-「第4回愛知の子ども縦断調査」より- 日本心理学会第77回大会発表論文集 1031.
石野陽子・神田直子(2010).障がいの認知から子育て充実感へ至る過程-母親罪障感の関連(「第4回愛知の子ども縦断調査」より)- 日本教育心理学会第52回総会発表論文集 407.
神田直子・山本理絵(2007).幼児期から学童期への移行期における親の子育て状況と不安,支援ニーズ-「第4回愛知の子ども縦断調査」結果第1報- 愛知県立大学文学部論集(児童教育学科編) 56, 17-34.
○本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金による研究(基盤研究(C),2010年度-2013年度,課題番号22500701)「育児困難な親子への支援に関する思春期までの縦断的研究:経済格差・発達障害を中心に」(代表:神田直子,共同研究:山本理絵,伊田勝憲,小渕隆司,石野陽子)による研究の一部である。