日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PE070] 父親の抑うつと未就学期の子どもの社会情緒的問題傾向

家族システムを媒介因として

岐部智恵子 (お茶の水女子大学大学院)

キーワード:父親抑うつ, 育児参加, 父子関係

【問題と目的】
家族形態の変容や社会経済的要因などから,父親の積極的な家事育児参加が求められている。近年は社会的枠組みも整えられ育児に主体的に参加する父親が増加している一方で,家事育児参加に対する意欲はありながらも伝統的稼得役割観や職場環境などの諸要因から実現が難しいという側面も指摘されている。父親の積極的家庭関与による好影響が期待される中,長時間労働に象徴される日本の労働環境において家庭外で多くのストレスを抱える父親の精神的健康を検討した研究は少ない。伝統的稼得役割に加えて家庭役割の遂行を求められる父親の精神的健康が損なわれている場合,配偶者や子どもへの影響はどのようなものか。本研究では,父親の抑うつが,父子関係,夫婦関係を媒介しながら子どもの発達(社会情緒的問題傾向)に与える影響について検討を行う。
【方法】
首都圏の幼稚園児の父親と母親を対象に質問紙による調査を実施した。質問紙を配布した1,975家庭のうち両親から回答の得られた585家庭を分析対象とした。主な調査内容は父親,母親ともに抑うつ(Kessler Psychological Distress Scale 6: Kessler, Andrews, Colpe, & Hiripi, 2002),養育行動,夫婦関係( Golombok Rust Inventory of Marital State: Rust, Bennun, Crowe, & Golombok, 1986),子どもの社会情緒的問題傾向(SDQ:Goodman, 1997)である。
【結果と考察】
まず父親の抑うつ得点のカットオフ値(参照:Cornelius et al., 2013)で群わけし,抑うつ高群と低群で育児参加時間,父子関係,夫婦関係,母親の抑うつを検討した。結果から、検討したすべての変数で群間に有意な差が確認された(Table 1)。次に,子どもの社会情緒的問題傾向を従属変数として父親の抑うつ高低群を多母集団同時分析により検討したところ(Figure 1),父親の抑うつから父子関係,父子関係から子どもの発達のパス係数に群間で有意な差が確認された(図中太線部分)。検討したモデルの適合度はχ2=41.19, p=.00, CFI=.95, RMSEA=.05であった。父親の抑うつが夫婦関係,親子関係の家族サブシステムを媒介因として子どもの発達に影響を及ぼすメカニズムが示唆されたといえよう。また,子どもの社会情緒的問題傾向に対する群別の説明率はそれぞれR2=.37(抑うつ高群), R2=.32(抑うつ低群)であり,父親の抑うつが子どもの発達に及ぼす影響の大きさが示された。父親の積極的な育児参加を促進させる議論の中で,効果的な支援策を構築するために父親自身の精神的健康が家族に及ぼす影響を検討していく必要性が本実証研究から確認された。