日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF044] 親と進路に関する自伝的記憶を想起したときの感情変化について

兵藤宗吉 (中央大学)

キーワード:自伝的記憶, 親, 進路

問題・目的
自伝的記憶と感情との関係については,Waldfogel(1948)や斉籐(1991,1992,1993)により大学生,中学生,小学生,高齢者らを対象に研究が行われ,想起された児童期の出来事の感情価に従い分類すると,ほぼ,一貫して快:不快:中立の順で5:3:2の割合になるという結果が得られた。しかしながら,全く異なる結果も報告されている(神谷,1993、太田・越智,1995)すなわち,多い順が,不快:快:中立になるという結果である。
それらの諸結果をふまえて,兵藤(2003),兵藤・野内(2004,2005,2006)は,忘却の視点から5分という短い想起時間を設定し大学生を対象に,「小学校」,「中学時代」,「高校時代」,「大学時代」の出来事について想起させた結果,その割合は快:不快:中立の順に,ほぼ5:3:2であることを確認した。また,「時期」ではなく「クラス」や「部活」といったテーマを手がかり語にして自伝的記憶内の出来事を想起させ,感情価に従い分類すると,必ずしも5:3:2の割合にならない結果を得た。
本研究では,「親」と「進路」いったことばを手がかり語として記述された自伝的記憶と感情価との関係を検討した。さらに出来事の記述前後の気分変化を調べることにより,自伝的記憶の感情制御の効果も検討した。
方 法
参加者:大学生56名(男性27名,女性29名)が実験に参加した。平均年齢は21.25歳であった。
デザイン:2(出来事のテーマ:進路,親)×3(出来事の感情価:快,不快,中立)の2要因被験者内計画であった。
実験冊子:フェースシートと気分評定用紙2枚(出来事の想起前後),出来事を記入する用紙をテーマ(進路,親)ごとに1枚ずつ,および自伝的記憶の評定方法(感情価,体験した時期)が書かれている用紙1枚の計6枚(A4サイズ)を順番にまとめて実験冊子とした。実験冊子は出来事のテーマを入れ替えた2パターン作成した。
気分評定尺度:寺崎ら(1992)の多面的感情状態尺度を元に気分評定尺度を作成した。ポジティブ尺度9項目とネガティブ尺度9項目の計18項目からなり,全ての項目は,5件法で答えさせた。
手続き:大学の講義の時間を利用して集団法で実験を行った。参加者に実験冊子を配り,実験者の指示によって実験を行うことを伝え,フェースシートに記入させた。その後,自伝的記憶想起前の気分状態を測定した。全員が回答したのを確認した後に,5分間ずつ親・進路に関する出来事のいずれかを出来るだけ多く想起させ,想起した順番に実験冊子に記入させた。その際に,出来事のテーマの順番は参加者間でカウンターバランスをとった。その後,自伝的記憶想起後の感情状態を測定した。最後に想起した出来事に対して現在どのように感じているかについて“1.とても不快”~“5.とても快”の5段階で評定させた。実験時間は20分程度であった。
結果
感情制御の効果 多面的感情尺度(寺崎・古賀・岸本,1992)より作成した気分評定尺度の下位因子の合計得点を算出した(得点範囲は3点から15点:表1参照)。下位因子ごとに出来事の記述前後の合計得点に関して、対応にあるt検定で比較した結果,出来事の記述後に「抑うつ・不安」と「敵意」の得点が有意に低下した。(t(56)=2.49,p<.05;t(56)=2.07,p<.05)。
考 察
これまでの一連の結果と同じように,自伝的記憶内のテーマに関する出来事を想起させるとネガティブな感情である「抑うつ・不安」、「敵意」の得点が有意に低下した。自伝的記憶の想起を行うとポジティブな感情には変化がないがネガティブ感情が低下することは興味深く,様々な分野での応用が期待される。