日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF066] 大学生における講義内容に関する問題発見の独創性(希少性)の変化

客観的指標に基づく変化の分析

向井隆久 (九州大学)

キーワード:問題発見, 独創性(希少性), 大学生

問題と目的
学士課程教育において,主体的に問題を発見し,解を見出していく能動的学修(アクティブ・ラーニング)の重要性を認識し,実践しようとする授業が増えつつある。講義の中で学生に問題発見(問い・質問生成)させる授業も,その1つであるが,学生の問題発見力が高まっているのか否か,問題発見の質の評価方法については,まだ十分検討されているとは言えない。
本研究は,学生の問題発見の質を,より客観的な指標によって評価することを試みたものである。特に問題発見の独創性,内容の詳しさ・多様性を客観的に評価する指標を考案し,それら質的側面が,授業を経る中でどのように変化するのかを明らかにすることを目的とする。
方法
対象者 女子大学(4年制)の1~4年生28名。1年生18名。2年生9名。4年生1名。
授業の概要 学習心理学の7つのテーマからなる15回の講義。講義の中で学生自身が「問い」や「自分なりの答え」を考えたり,他の学生の問いや答えを見聞きしたり,良い点を評価する機会を設けた。
問い内容の詳しさ・多様性の測定・評価 各講義後に,講義内容に関して学生が考えた「問い」内容の詳しさ・多様性は,問いに含まれる概念の種類数を指標とした。概念数は学生の問いを形態素(品詞)に分け,重複をなくした上で,名詞,動詞,形容詞,形容動詞,副詞の数をカウントした。
問いの独創性(希少性)の測定・評価 「問い」の独創性は,以下のように測定した。
独創性(希少性)=「問いに含まれる概念の平均希少性」×「問いに含まれる概念同士の共起関係の平均希少性」
問いに含まれる概念Wの平均希少性=(∑_(k=1)^n??(log 全問い数/(概念W_k が含まれる問いの数))?)/n
問いに含まれる概念間の共起関係の平均希少性=?"n" C?_2/(∑_(k=1)^m?{((概念(?W_α ,W_β)?_k が共起する問いの数)/(概念(?W_α ,W_β)?_k のどちらかが含まれる問いの数))×1/?"n" C?_2 } )
n:問いに含まれる概念数,m:問いに含まれる概念の組み合わせ数
独創性(希少性)は,各講義テーマごとに,2010年(30名),2011年(42名),2012年(48名)の受講生が生成した全問いを元に算出した(今回は2012年の28名,6講義テーマについての結果)。
結果と考察
各講義テーマごとに概念数と独創性(希少性)の平均を示したものが図1と図2である。1要因の分散分析の結果,講義テーマ間で問いの独創性に有意な違い(p<.001)のあることが示された(概念数には有意差なし)。講義回を経るごとに,問いの詳しさ・多様性,独創性が高まるといった傾向はなく,テーマの違いが独創性に大きく影響することが示唆された。問い内容の詳しさ・多様性にはほとんど違いがないにも関わらず,動機づけと学習指導法の回では他のテーマに比べ,独創性が低下した。この2テーマは,「やる気を高めるには」「より良く学習させるには」といった価値の方向性が比較的強くでており,それが問いを考える範囲を制約したのかもしれない。価値と問題発見との関係については今後さらに検討する必要があるだろう。