日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PH022] 美術科教員の職業適応(2)

若手教員のポジティブ・ネガティブイベント分析

荷方邦夫 (金沢美術工芸大学)

キーワード:職業適応, 若手教員

目 的
既報(荷方,2012)では,中学校,高等学校の美術科教員を対象として,5~20年程度の長期的な職業適応プロセスについてインタビュー調査を行った。対象者は特に美術系大学から採用された教員を対象である。教員になることへの方向づけが当初から強くなく,また芸術家として独特のマインドをもつと考えられる対象者らについて,教員としての適応プロセス,学校教育に対する姿勢の変化などを幅広く検討する。本研究ではその中でも,教員になって1~4年程度の若手を対象として,職業適応をサポートするようなイベントや環境,あるいは適応のハードルとなるようなイベントや環境がどのようになっているかについて検討を行うものとする。
方 法
【調査参加者】6名の美術科・図工専科教員が調査に参加した。それぞれのプロフィールは,(1)中学校教諭,20代,女性,採用4年目 (2)小学校教諭,20代,女性,採用4年目 (3)高校教諭,20代,女性,採用4年目 (4)高校教諭,20代,女性,採用4年目 (5)中学校教諭,20代,女性,採用2年目 (6)中学校教諭,20代,男性,採用1年目である。6人の教員はすべて国公立の美術系学部の出身である。
【調査方法】調査は半構造化面接を行い,調査者が参加者に対して用意した質問項目に自由に回答する形で行われた。
【質問項目】質問項目は主として(1)教員として大変だと感じること (2)美術家教員としての現在の仕事内容,やりがい,ポリシーである。また,参考となるエピソードとして教員を志望した動機や大学時代の学生生活,美術系学部から教員になったことについての所感などを聴取している。

結果と考察
今回の分析は,教員をする中で直面するイベント・環境の中で,それらに対するポジティブ・ネガティブな評価によってどのような影響を受けるかについて絞って分析をした。
特に多くの教員が言及したのは「生徒指導に関する問題」であった。ネガディブな評価のイベントは生徒指導の事案の発生や,日常の生徒指導の活動の負担の大きさによって,かなりのストレスを感じることが示された。
同様に,校種にかかわらず,絶対的な時間的拘束,作業量の多さについてもネガティブな環境として認識されている。特に独居・育児など,生活にかかるコストがかかる場合,そのストレスは更に大きなものとなる。
ポジティブなサポートとして評価されているのは,美術科教員としてのやりがいについてであり,児童・生徒らが表現活動を通して,その喜びや発見の場に居合わせられること。あるいは自己の表現活動が授業や自身の制作の中で実感できていることを指摘している。
また,尊敬できる教員の存在,一緒に情報を交換したり話したりすることの出来る同僚の先生や家族などの存在が得られる場合も,適応にとって大きなサポートなることが示された。一般に,学校に一人しか教員がいない美術科にとって,これは重要な点であることが示唆される。
まとめると,若手教員の適応を支えるものとして,自身の生活・活動全般に対する社会的・物理的サポートの存在が不可欠であるように思われる。