日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PH034] 教師の過度な支援なく解法を対話検討することによる未来の学びへの接続

益川弘如1, 河崎美保2, 遠藤育男3 (1.静岡大学大学院, 2.追手門学院大学, 3.伊東市立対島中学校)

キーワード:知識構築, 学習科学, ジグソー法

問題と目的
Scardamaliaら(2012)は21世紀型スキルプロジェクトの白書の中で,知識基盤社会において重要なスキルは知識創造組織で他者と共に新たな知識を生み出し続けることだとし,そのようなスキルを育成するには,知識獲得の目標を教師が定め,それに向けてステップをデザインし,目標に向かわせる学習者中心の授業をするような「後向きアプローチ」ではなく,学習者自身が自発的に目標を設定,再設定しながら知識創造していく「前向きアプローチ」の授業の重要性を説いている。
またSchwartzら(1998)は「未来の学習への準備」を前提とした授業を提案しており,教えて考えさせるよりも考えさせて教える方が,包括的に解き方を考え,将来,未知の課題でも資料を頼りに自発的に解けるようになることを示している。また,自発的に解法を検討せず他者の解法を聞いただけでは獲得できないことや(河崎, 2013),グループ活動中の教師の過度な介入が自発的対話を阻害してしまうことも見えてきている(遠藤・益川,2013)。
本報告では上記の背景を踏まえた上で,第1著者と第2著者が,小学校6年生「全体を1とみて」の単元において,学習活動中の教師の過度な支援をなくす方向で,渡した資料のみで子どもたち同士の対話から「全体を1とみて解くこと」に気づかせることを目標にしたジグソー学習教材を開発し,第3著者が実践した。

方法
最終課題は「今日は縦割り活動で,第一音楽室のぞうきんがけをすることになりました。そこで,6年生のカズヒコさんと,3年生のケイコさんと,1年生のイクオさんがいっしょにぞうきんがけをします。3人ですると何分で終わるでしょうか?」で,エキスパート資料は,各学年ごとの1分間の仕事量を計算する内容だった。授業実践は2回行われ,初日のAクラス(図ありクラス)ではワークシートに教室を示す4cm×6cmの長方形の図を付記したが,実践結果から「この図のヒント自体が教師の意図がはいってしまっているのではないか」ということになり,2日目のBクラス(図なしクラス)では図を省いたエキスパート資料を用いて好きな図を自発的に書かせるようにした。加えて授業最後に教師が解説する活動をやめ,ジグソー活動後の対話時間を長くとり解答に到達させることを狙った。

結果と考察
図ありクラスと図なしクラスを比較した。結果,1か月後の転移課題(家から駅にはじめ走って途中で歩いて移動)において,正答人数には差が見られなかったが,解く過程に大きな違いが見られた。図なしクラスでは,自発的に解き方を構成しており,線分図を用いたり,加えて文章説明を加える子どもたちが多かった。一方図ありクラスでは計算式で簡潔に出そうとし,結果失敗していた子どもがいた。また,図なしクラスでは白紙解答がおらず解答途中まではプロセスとして正しい人もいたが,図ありクラスでは白紙解答が多かった。
これより,自律的な学習活動を可能な限り保証することによって,転移課題に対して解こうとする活動や態度の保証にも繋がる可能性がある。
今後,授業中の発話データ等を分析し,個人ごとの詳細を追うことで,ワークシートに教師の意図(ヒント)の有無や教師の解説によって,学習者の自力解決の程度が,転移課題の解くプロセスにどう繋がっていたかを見ていきたい。