[PH038] 話し上手・聞き上手に至る発達の予測的知見(5)
児童の話す・聞く能力と授業観との関連から
キーワード:話し上手・聞き上手, 授業観, 発言・再生得点
【問題と目的】
阿彦・梶井(2012)および梶井(2012)では,話し上手・聞き上手になるためには,聞き上手になることが第1要件であることが示唆された。しかし,両研究においては,話し上手下手×聞き上手下手の各スタイルに属する児童の授業観については検討していない。
そこで,本研究の目的は,各スタイルに代表される児童の話し上手・聞き上手に至るまでの発達的変容の様相を,授業観と関連づけて考察することである。
【方法】
調査対象:都内公立小学校第3学年(男子19名,女子13名,計32名)および担任の田中教諭(仮名,30代女性)であった。
調査期間:2011年9月から12月に行った。
調査方法:質問紙調査および行動観察により行った。
質問紙調査:話したくなる授業・聞きたくなる授業とはどのような授業かを問うもの,またそれらの授業が実現するために必要なことを問うもの(廣野・梶井, 2013)(この2つの質問紙をまとめて授業観の質問紙とする)と,話すこと・聞くことの能力を測るもの(阿彦・梶井,2012)の3種類の質問紙を用意した。
行動観察:事前に,担任教師が,話し方・聞き方の観点から,4人の児童(各スタイルの児童に相当)を選出した。観察は,国語科の「話すこと・聞くこと」の単元を対象とした。児童による授業内での発言の重要度を明らかにするために,授業実施後,教師に授業内の発言の重要度評定をしてもらった(発言得点に関連)。また,児童が授業内での重要事項をどれだけ覚えているか明らかにするために,再生課題を行ってもらった(再生得点に関連)。
【結果と考察】
A児(話し上手・聞き上手)について A児は話し方・聞き方の能力を測る質問紙の教師評価と児童評価が1回目,2回目ともに「話し上手・聞き上手」で一致していた。これは,A児が自身のことをある程度客観的に捉えることができていることによると考えられる。1発言当たりの発言得点は,授業観察時3回とも学級平均より低かった。これはA児の発言数が,相対的に多かったことが一因と考えられる。授業観についての評価値は,高いものと低いものとが混在していた。これは,A児が項目評定を相対的に行う傾向が強かったことによると推察される。なお,再生得点については,他の観察児童に比べて高かった。今後,A児が興味をもつような,またA児に勝る能力をもつ児童がいる分野を扱うなどの工夫が求められる。
B児(話し上手・聞き下手)について B児は教師評価と児童評価の変化の仕方については一致していた。1発言当たりの発言得点は,授業観察時3回とも学級の平均より低かった。また,2回目は0点であった。これはB児の発言数が,相対的に多かったことが一因と考えられる。授業観については,他の観察児童に比べて評価値が高かった。これは,自身が参加する授業にある程度満足していることが理由の1つだと考えられる。なお,再生得点は,3回とも得点がなかった。観察時も,思ったことをすぐに口にしている場面があり,相手の発言を受け止めることができていないことが理由だと考えられる。今後,話す前に相手の発言を受け止め,解釈することを指導する必要がある。
C児(話し下手・聞き上手)について C児は,教師評価と児童評価は見立てが不一致だった。また,1発言当たりの発言得点は,話し下手と捉えられているものの,授業観察時3回とも学級の平均よりも高かった。これは,C児が進んで挙手はしないものの,教師ならびに他の児童の話をしっかりと聞くことができていたことから,当てられた時には理由をつけるなどして発言できたことが一因と考えられる。授業観については,他の観察児童に比べて評価値が高かった。なお,再生得点は,他の観察児童に比べて高かった。今後,C児が発言した際など,即時に声かけなどをし,自信をもたせる指導が求められる。
D児(話し下手・聞き下手)について 発言得点は3回目のみ学級平均より高かったものの,1回目,2回目は0点であった。授業観に対する評価値は他の観察児童に比べて低く,再生得点については3回とも得点がなかった。これは,満足のいく参加ができなかったことから,授業に興味をもつことができなかったことによると考えられる。今後,D児が興味をもてる授業内容を検討することが求められる。
<付記>本研究は,第2著者の指導のもと,新見拓馬が,平成24年度に東京学芸大学教育学部教育心理学講座に提出した卒業論文の一部を加筆修正したものである。
阿彦・梶井(2012)および梶井(2012)では,話し上手・聞き上手になるためには,聞き上手になることが第1要件であることが示唆された。しかし,両研究においては,話し上手下手×聞き上手下手の各スタイルに属する児童の授業観については検討していない。
そこで,本研究の目的は,各スタイルに代表される児童の話し上手・聞き上手に至るまでの発達的変容の様相を,授業観と関連づけて考察することである。
【方法】
調査対象:都内公立小学校第3学年(男子19名,女子13名,計32名)および担任の田中教諭(仮名,30代女性)であった。
調査期間:2011年9月から12月に行った。
調査方法:質問紙調査および行動観察により行った。
質問紙調査:話したくなる授業・聞きたくなる授業とはどのような授業かを問うもの,またそれらの授業が実現するために必要なことを問うもの(廣野・梶井, 2013)(この2つの質問紙をまとめて授業観の質問紙とする)と,話すこと・聞くことの能力を測るもの(阿彦・梶井,2012)の3種類の質問紙を用意した。
行動観察:事前に,担任教師が,話し方・聞き方の観点から,4人の児童(各スタイルの児童に相当)を選出した。観察は,国語科の「話すこと・聞くこと」の単元を対象とした。児童による授業内での発言の重要度を明らかにするために,授業実施後,教師に授業内の発言の重要度評定をしてもらった(発言得点に関連)。また,児童が授業内での重要事項をどれだけ覚えているか明らかにするために,再生課題を行ってもらった(再生得点に関連)。
【結果と考察】
A児(話し上手・聞き上手)について A児は話し方・聞き方の能力を測る質問紙の教師評価と児童評価が1回目,2回目ともに「話し上手・聞き上手」で一致していた。これは,A児が自身のことをある程度客観的に捉えることができていることによると考えられる。1発言当たりの発言得点は,授業観察時3回とも学級平均より低かった。これはA児の発言数が,相対的に多かったことが一因と考えられる。授業観についての評価値は,高いものと低いものとが混在していた。これは,A児が項目評定を相対的に行う傾向が強かったことによると推察される。なお,再生得点については,他の観察児童に比べて高かった。今後,A児が興味をもつような,またA児に勝る能力をもつ児童がいる分野を扱うなどの工夫が求められる。
B児(話し上手・聞き下手)について B児は教師評価と児童評価の変化の仕方については一致していた。1発言当たりの発言得点は,授業観察時3回とも学級の平均より低かった。また,2回目は0点であった。これはB児の発言数が,相対的に多かったことが一因と考えられる。授業観については,他の観察児童に比べて評価値が高かった。これは,自身が参加する授業にある程度満足していることが理由の1つだと考えられる。なお,再生得点は,3回とも得点がなかった。観察時も,思ったことをすぐに口にしている場面があり,相手の発言を受け止めることができていないことが理由だと考えられる。今後,話す前に相手の発言を受け止め,解釈することを指導する必要がある。
C児(話し下手・聞き上手)について C児は,教師評価と児童評価は見立てが不一致だった。また,1発言当たりの発言得点は,話し下手と捉えられているものの,授業観察時3回とも学級の平均よりも高かった。これは,C児が進んで挙手はしないものの,教師ならびに他の児童の話をしっかりと聞くことができていたことから,当てられた時には理由をつけるなどして発言できたことが一因と考えられる。授業観については,他の観察児童に比べて評価値が高かった。なお,再生得点は,他の観察児童に比べて高かった。今後,C児が発言した際など,即時に声かけなどをし,自信をもたせる指導が求められる。
D児(話し下手・聞き下手)について 発言得点は3回目のみ学級平均より高かったものの,1回目,2回目は0点であった。授業観に対する評価値は他の観察児童に比べて低く,再生得点については3回とも得点がなかった。これは,満足のいく参加ができなかったことから,授業に興味をもつことができなかったことによると考えられる。今後,D児が興味をもてる授業内容を検討することが求められる。
<付記>本研究は,第2著者の指導のもと,新見拓馬が,平成24年度に東京学芸大学教育学部教育心理学講座に提出した卒業論文の一部を加筆修正したものである。