[PH055] 青年期における仮想的有能感と自他への攻撃性の関連
キーワード:青年期, 仮想的有能感, 自他への攻撃性
問題と目的
速水(2006)は現代青年の心性の背後にあるものとして「仮想的有能感」という概念を提唱している。これは「自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚」と定義されており,偽りの有能さの感覚であると考えられている。これに対し,速水は真の有能感にあたるものを自尊感情と考え,自尊感情と仮想的有能感の得点の高低差によって有能感を「全能型」,「自尊型」,「仮想型」.「萎縮型」の4つに分類し,様々な概念との検討がなされている。仮想的有能感と怒りの強さやその対処法については既に検討が行われているが(速水他,2004)、有能感の類型を用いた検討は未だ行われていない。そこで本研究では上述の有能感の類型を用いて,攻撃性との関連を検討を目的とする。攻撃性の定義については安立(2001)の考えにもとづき,攻撃性の向く方向性は他者と自己の双方であると捉える。また,怒りを生起させるような不快な場面に対して,仮想的有能感の持ち主がどのような対処を試みているかについても併せて検討を行う。
方法
調査対象 東京都の大学生及び大学院生269名であり, その内欠損を含むものを除外した計263名(男性81名,女性182名;平均年齢21.25歳,SD =2.606)を分析対象とした。
質問紙の構成 (1)他者軽視尺度:Hayamizu,Kino,Takagi,& Tan(2004)によって作成された仮想的有能感尺度(version.2)の翻訳版(速水,2005)を用いた。11項目,5件法。(2)自尊感情尺度:Rosenberg(1965)によって作成された自尊感情尺度の日本語版(山本・松井・山成,1982)を用いた。全10項目,5件法。(3)攻撃性質問紙:安立(2001)が作成した攻撃性尺度を用いた。全33項目,6件法。(4)3次元モデルにもとづく対処方略尺度:神村・海老原・佐藤・戸々崎・坂野(1995)によって作成された尺度を用いた。計24項,5件法。
結果と考察
有能感の類型化 各尺度の評定値の合計を算出し,これを尺度得点とした。他者軽視尺度と自尊感情尺度のそれぞれの平均値を基準に高群と低群とに分け,有能感の類型化を行った。
攻撃性尺度との関連 有能感類型間の差異を検討するため,因子分析結果から得られた「対象攻撃行動」,「積極的行動」,「自責感」,「猜疑心」の4下位尺度を従属変数とした一要因分散分析を行ったところ,全ての得点で類型感の差が有意であった(「積極的行動」:F(3,259)=11.95,p<.01,「対象攻撃行動」:F(3,259)=13.57,p<.01,「自責感」:F(3,259)=38.28,p<.01,「猜疑心」:F(3,259)=9.44,p<.01)。仮想型に注目すると,仮想的有能感の高い人物は他者に対して攻撃的である一方で,自責的でもあるという結果が得られ,アンビバレントな心性の存在が示されたと言える。また,男性よりも女性のほうが自責感を感じる傾向にあった(t(261)= 3.39,p<.01)。仮想型の人物は他者に対する不信感も高く,先行研究の報告と一致する結果であった。
3次元モデルにもとづく対処法略尺度との関連 神村他(1995)の因子構造に倣い,「カタルシス」,「放棄・諦め」,「情報収集」,「気晴らし」,「回避的思考」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「責任転嫁」を下位尺度とし,有能感類型間を独立変数,これら因子を従属変数とした2要因の分散分析を行ったところ,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「責任転嫁」の4因子について主効果が認められた。一要因分散分析の結果,全ての得点間で類型間の差が認められた。(「放棄・諦め」:F(3,259)=3.46,p<.05,「肯定的解釈」:F(3,259)=3.80,p<.05,「計画立案」:F(3,259)=5.641,p<.001,「責任転嫁」:F(3,259)=4.08,p<.01)。仮想型に注目すると,ネガティブな出来事に遭遇した際に状況を悲観的に捉える傾向があること,自分には対処できない問題であると放棄し解決を諦める傾向にあること、その責任を他者へと求める傾向にあることが示された。
速水(2006)は現代青年の心性の背後にあるものとして「仮想的有能感」という概念を提唱している。これは「自己の直接的なポジティブ経験に関係なく,他者の能力を批判的に評価・軽視する傾向に付随して習慣的に生じる有能さの感覚」と定義されており,偽りの有能さの感覚であると考えられている。これに対し,速水は真の有能感にあたるものを自尊感情と考え,自尊感情と仮想的有能感の得点の高低差によって有能感を「全能型」,「自尊型」,「仮想型」.「萎縮型」の4つに分類し,様々な概念との検討がなされている。仮想的有能感と怒りの強さやその対処法については既に検討が行われているが(速水他,2004)、有能感の類型を用いた検討は未だ行われていない。そこで本研究では上述の有能感の類型を用いて,攻撃性との関連を検討を目的とする。攻撃性の定義については安立(2001)の考えにもとづき,攻撃性の向く方向性は他者と自己の双方であると捉える。また,怒りを生起させるような不快な場面に対して,仮想的有能感の持ち主がどのような対処を試みているかについても併せて検討を行う。
方法
調査対象 東京都の大学生及び大学院生269名であり, その内欠損を含むものを除外した計263名(男性81名,女性182名;平均年齢21.25歳,SD =2.606)を分析対象とした。
質問紙の構成 (1)他者軽視尺度:Hayamizu,Kino,Takagi,& Tan(2004)によって作成された仮想的有能感尺度(version.2)の翻訳版(速水,2005)を用いた。11項目,5件法。(2)自尊感情尺度:Rosenberg(1965)によって作成された自尊感情尺度の日本語版(山本・松井・山成,1982)を用いた。全10項目,5件法。(3)攻撃性質問紙:安立(2001)が作成した攻撃性尺度を用いた。全33項目,6件法。(4)3次元モデルにもとづく対処方略尺度:神村・海老原・佐藤・戸々崎・坂野(1995)によって作成された尺度を用いた。計24項,5件法。
結果と考察
有能感の類型化 各尺度の評定値の合計を算出し,これを尺度得点とした。他者軽視尺度と自尊感情尺度のそれぞれの平均値を基準に高群と低群とに分け,有能感の類型化を行った。
攻撃性尺度との関連 有能感類型間の差異を検討するため,因子分析結果から得られた「対象攻撃行動」,「積極的行動」,「自責感」,「猜疑心」の4下位尺度を従属変数とした一要因分散分析を行ったところ,全ての得点で類型感の差が有意であった(「積極的行動」:F(3,259)=11.95,p<.01,「対象攻撃行動」:F(3,259)=13.57,p<.01,「自責感」:F(3,259)=38.28,p<.01,「猜疑心」:F(3,259)=9.44,p<.01)。仮想型に注目すると,仮想的有能感の高い人物は他者に対して攻撃的である一方で,自責的でもあるという結果が得られ,アンビバレントな心性の存在が示されたと言える。また,男性よりも女性のほうが自責感を感じる傾向にあった(t(261)= 3.39,p<.01)。仮想型の人物は他者に対する不信感も高く,先行研究の報告と一致する結果であった。
3次元モデルにもとづく対処法略尺度との関連 神村他(1995)の因子構造に倣い,「カタルシス」,「放棄・諦め」,「情報収集」,「気晴らし」,「回避的思考」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「責任転嫁」を下位尺度とし,有能感類型間を独立変数,これら因子を従属変数とした2要因の分散分析を行ったところ,「放棄・諦め」,「肯定的解釈」,「計画立案」,「責任転嫁」の4因子について主効果が認められた。一要因分散分析の結果,全ての得点間で類型間の差が認められた。(「放棄・諦め」:F(3,259)=3.46,p<.05,「肯定的解釈」:F(3,259)=3.80,p<.05,「計画立案」:F(3,259)=5.641,p<.001,「責任転嫁」:F(3,259)=4.08,p<.01)。仮想型に注目すると,ネガティブな出来事に遭遇した際に状況を悲観的に捉える傾向があること,自分には対処できない問題であると放棄し解決を諦める傾向にあること、その責任を他者へと求める傾向にあることが示された。