日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PH067] 幼児の「計算活動」の個人差に対する保育者の実践知

幼稚園教諭へのインタビューの事例から

田爪宏二1, 高垣マユミ2 (1.京都教育大学, 2.津田塾大学)

キーワード:実践知, 計算活動, 保育

近年注目されている状況学習アプローチでは,子どもの発達や学習,およびそれに対する支援に関して,遊びや生活といった文脈の中で捉える必要性が唱えられている。そこにおいては,教師や保育者の視点からみた子どもの姿を理解することが有効であると考えられるが,そのためには彼(女)らのもつ「実践知」の特徴を明らかにする必要がある。このような観点から,これまで,幼児の数や量の認知における個人差に対する保育者の認識とそこにおける援助の特徴について,幼稚園教諭へのインタビューを通した事例的検討を行ってきた(田爪・高垣, 2012, 2013など)。本稿ではこれに継続し,幼児の遊びや生活においてみられる「計算活動」に対する保育者の認知の特徴について検討する。
方 法
調査対象 同一の私立幼稚園に勤務する幼稚園教諭,A(同14年,女性),B(保育歴8年,男性),C(同6年,女性),D(同6年,女性)の事例を取り上げた。
質問紙・インタビュー調査 保育活動の中でみられる,子どもの「計算活動」に対する認知について,「計算活動がみられる場面や特徴」,「理解や認知の個人差に対する認識」,「援助における個人差への配慮」等について,自由記述および 1名あたり約30分の半構造化形式のインタビューを実施した。なお,対象者には研究の趣旨,目的を伝え,データの使用について同意を得た。
結果と考察
インタビューにおける発話プロトコルを分析し,特徴的な発話内容の事例をTable 1に示した。
計算活動がみられる場面や特徴 「お休み数え(出欠確認)」など,保育者のかかわりが大きい設定保育場面でみられるという意見(①:Table 1中の番号,以下同じ)が多く挙げられたが,自由遊びの場面においても「数える」活動に関連して計算する場面(②)が挙げられた。また,明確な計算は年長児に多くみられ,年少,年中児においては計算というよりもむしろ視覚的な情報に基づき「数える」という活動が主であると捉えられていた(③)。
理解や認知の個人差 内容に関する個人差(④)と共に,視覚的な情報に頼るか否か(⑤),実際に計算をしているか単にフレーズで理解しているのか(⑥)等,理解の個人差が挙げられた。また個人差の生じる要因としては,習い事による影響や,興味の個人差(⑦)が挙げられた。
援助における個人差への配慮 理解の個人差に配慮し,より生活場面に準じた表現に配慮する(⑧),個々に目標を設定する(⑨),また,計算活動は認めつつも,積極的にその能力を高めようとはしていない(⑩⑪)などの配慮が挙げられた。
まとめ いずれの保育者にも共通することとして,生活や遊びの中で生じる計算活動は認識しているものの,それを計算能力の獲得に関する教育につなげようとはせず,むしろ生活場面に埋め込まれた活動のひとつとして位置づけようとしていた。また,画一的な到達目標は設けず,あくまで個人の特徴を踏まえた支援を行おうとする傾向が窺われた。これらは,小学校における算数教育とは異なった,保育者の持つ視点の特徴であるといえよう。