[PH076] 幼児期の発達障害特性による就学後6年間の心理社会的不適応の縦断的予測
キーワード:発達障害, 心理社会的不適応, 縦断研究
問題と目的
近年,発達障害に関する研究の進展により,かつて考えられていたよりも,はるかに多くの人々が何らかの発達障害の特性を有することが明らかになってきた。対人社会性の問題を中核とする自閉症スペクトラム障害(ASD),不注意や多動・衝動性を中核とする注意欠如多動性障害(ADHD),不器用さを中核とする発達性協調運動障害(DCD)などの発達障害特性は,児童期以降の心理社会的不適応の中心的なリスク要因となることが指摘されている。しかし,国内では,発達障害特性と心理社会的不適応の関連について縦断的な検討がほとんどなされていない。また,海外の研究も,単一の発達特性を個別的に取り上げた研究が大部分で,複数の発達特性の影響を包括的に検討した研究は少ない。
そこで本研究では,幼児期に保育士によって評価された複数の発達特性(ASD特性,ADHD特性,DCD特性)が就学後6年間の心理社会的不適応をどのように予測するかについて,大規模縦断研究により検討を行った。
方法
対象者 調査対象市の全ての公立保育所(14園)および公立小学校(9校)で,2007年度から2013年度の7年間にわたり調査を実施して得られた6つの学年コホートの計1,600名(男子821名,女子779名)のデータを分析に使用した。
尺度 幼児期の発達評価には,中島他(2010),伊藤他(2013)によって開発されたNDSC-Rを使用した。9下位尺度(落ち着き,注意力,社会性,順応性,コミュニケーション,好奇心,身辺自立,微細運動,粗大運動),計94項目について,担任保育士に評定を求めた。
小学校での外在化問題および内在化問題の測定には,心理社会的不適応の測定尺度として国内外で広く利用されているSDQ日本語版教師評定フォーム(Goodman, 1997)を使用した。小学校での学業成績の評価には,教研式全国標準学力検査NRT(集団基準準拠検査; 辰野・石田・服部・筑波大学附属小各科教官, 2002)の得点を使用した。
結果と考察
下表にNDSC-Rの各下位尺度を独立変数,就学後の心理社会的適応を従属変数とする重回帰分析の結果を示す。“外在化問題”に対しては,NDSC-Rの“落ち着き”と“注意力”が有意な効果を示した。“落ち着き”と“注意力”は,いずれもADHDに関連する特性であり,年長時にADHD特性を示していた子どもは,就学後に外在化問題を生じやすいことが示唆された。“内在化問題”に対しては,“社会性”,“順応性”,“コミュニケーション”,“粗大運動”が有意な効果を示した。このうち,“社会性”,“順応性”,“コミュニケーション”はASD,“粗大運動”はDCDと関連する特性であり,内在化問題にはASD特性とDCD特性が関与することが示唆された。“学業成績”に対しては,“注意力”,“コミュニケーション”,“微細運動”が有意な効果を示した。このうち,“注意力”はADHD,“コミュニケーション”はASD,“微細運動”はDCD特性に関連する特性であり,学業への適応には,広範な発達障害特性が影響することが示唆された。
近年,発達障害に関する研究の進展により,かつて考えられていたよりも,はるかに多くの人々が何らかの発達障害の特性を有することが明らかになってきた。対人社会性の問題を中核とする自閉症スペクトラム障害(ASD),不注意や多動・衝動性を中核とする注意欠如多動性障害(ADHD),不器用さを中核とする発達性協調運動障害(DCD)などの発達障害特性は,児童期以降の心理社会的不適応の中心的なリスク要因となることが指摘されている。しかし,国内では,発達障害特性と心理社会的不適応の関連について縦断的な検討がほとんどなされていない。また,海外の研究も,単一の発達特性を個別的に取り上げた研究が大部分で,複数の発達特性の影響を包括的に検討した研究は少ない。
そこで本研究では,幼児期に保育士によって評価された複数の発達特性(ASD特性,ADHD特性,DCD特性)が就学後6年間の心理社会的不適応をどのように予測するかについて,大規模縦断研究により検討を行った。
方法
対象者 調査対象市の全ての公立保育所(14園)および公立小学校(9校)で,2007年度から2013年度の7年間にわたり調査を実施して得られた6つの学年コホートの計1,600名(男子821名,女子779名)のデータを分析に使用した。
尺度 幼児期の発達評価には,中島他(2010),伊藤他(2013)によって開発されたNDSC-Rを使用した。9下位尺度(落ち着き,注意力,社会性,順応性,コミュニケーション,好奇心,身辺自立,微細運動,粗大運動),計94項目について,担任保育士に評定を求めた。
小学校での外在化問題および内在化問題の測定には,心理社会的不適応の測定尺度として国内外で広く利用されているSDQ日本語版教師評定フォーム(Goodman, 1997)を使用した。小学校での学業成績の評価には,教研式全国標準学力検査NRT(集団基準準拠検査; 辰野・石田・服部・筑波大学附属小各科教官, 2002)の得点を使用した。
結果と考察
下表にNDSC-Rの各下位尺度を独立変数,就学後の心理社会的適応を従属変数とする重回帰分析の結果を示す。“外在化問題”に対しては,NDSC-Rの“落ち着き”と“注意力”が有意な効果を示した。“落ち着き”と“注意力”は,いずれもADHDに関連する特性であり,年長時にADHD特性を示していた子どもは,就学後に外在化問題を生じやすいことが示唆された。“内在化問題”に対しては,“社会性”,“順応性”,“コミュニケーション”,“粗大運動”が有意な効果を示した。このうち,“社会性”,“順応性”,“コミュニケーション”はASD,“粗大運動”はDCDと関連する特性であり,内在化問題にはASD特性とDCD特性が関与することが示唆された。“学業成績”に対しては,“注意力”,“コミュニケーション”,“微細運動”が有意な効果を示した。このうち,“注意力”はADHD,“コミュニケーション”はASD,“微細運動”はDCD特性に関連する特性であり,学業への適応には,広範な発達障害特性が影響することが示唆された。