[PH092] 乳幼児の自己調整行動を誘導する方略の試み
母親の「言葉かけ」を通して
キーワード:言葉かけ, 方略, 自己調整
1.目的
乳幼児の探索行動や情動に対し適切な対応ができないという悩みをもつ母親が少なくない。母親(養育者)は乳幼児を危機に遭遇させないよう、また、躾のため、乳幼児の行動を制限する必要性にかられ、“言葉かけ”を行う。そこには母親と乳幼児の情動的関与がみられ、その目的達成を遂げにくくしている。そこで、本研究では母親の“言葉かけ”に着目し、乳幼児の自主的行動による自己調整を誘導する“してみようか戦略”を紹介し、その結果を述べることとする。
2.調査方法および内容
〔方法〕母親による乳幼児の探索行動や情動を調整させるための子どもへの通常の“言葉かけ”を2週間調査、その後、同じ母親に本研究者の“してみようか戦略”を2週間、家庭にて実践してもらった。その後、乳幼児が行動を自己調整したかどうかを、母親たちが自由に記述。補充のため聞き取り調査を行った。
[期間] 2014年4月7日~4月28日。
[場所] 港区と松戸市の二つの母子支援教室。
[対象] 親子10組(1グループ2~4組、子ども:1歳2か月~3歳1か月)。
〔してみようか戦略の内容〕 ()内は通常の言葉
①【危険なものを危なくない状態にして触らせる】「あっちいよ。さわってみる?」(待って!危ない!)②【本来の使用法を伝える】「(椅子は)座るものだよね。“たっち”するものかな」(危ないから下りなさい)③【抱っこしても泣いていたら、下す】「泣き止んだら“だっこ”できるのにな」(泣かないのよ)④【誤った行動をした時は、子ども自体を叱るのではなく、体の部分を指摘する】「このお手々が、ポイってしたかったんだね。でも、もうしないでねって、この手々に言ってね」(投げちゃダメ)⑤【乱暴に扱うときは、人差し指で触らせる】「さわりたかったの?それじゃ、1のお指(人差し指)でさわってみようか。そうっとそうっとね」(さわっちゃダメ)
3.結果
母親による通常の“言葉かけ”は制止・禁止・命令で、母親のネガティブな“言葉かけ”とは反対に、容認及び回避的な対応がみられた。結果的に乳幼児の情動はさらに高まった。同じ母親でも“方略”実施後は、養育者の“言葉かけ”と“行動”に一貫性がみられ、乳幼児に対し、自らの情動を養育者に向けることを容認しないという姿勢が“言葉かけ”と“行動”によってみられた。
グレーゾーンの子どもの母親を含む参加者達は“方略”実践後、これまでの“言葉かけ”では得られなかった子ども自身による行動の調整をあげ、その有効性を記していた。また、短期間での効果に対する驚きや喜びの声、また、自らの変容を期待する声も聞く事ができた。
4.効果と課題
“してみようか戦略”とは、乳幼児にとって人的環境である母親による教育的な援助のことであり、乳幼児が自ら『してみようか』と思えるような母親の“言葉かけ”のことである。
本研究では、乳幼児の年齢や性別、母親の年齢やパーソナリティが異なっても、“言葉かけ”により乳幼児の行動の自己調整がみられるという結果を得た。「①モノの理解②モノの概念化③人との関わり④自分の身体のコントロールの仕方⑤壊れやすいモノの触れ方」等の母親による教育的援助内容の関与により、乳幼児の変容がみられた。このことにより、低いと指摘されている現代の母親の「親役割肯定感」を高めることも期待でき、この方略実践は子育て支援の意義もあると考える。
本研究者は長年に亘り母子支援に携わっているが、その他の専門家が“方略”を伝授した場合でも母親による実践が成功するのか、また、どのような乳幼児に対しても“してみようか戦略”が有効なのか等を検証していく必要がある。また、新たな“方略”を発見、整理するという課題もあることから、今後も、人的環境としての養育者の“言葉かけ”に着目し、乳幼児の発達に係る養育者の子育てについて調査、研究していきたい。
乳幼児の探索行動や情動に対し適切な対応ができないという悩みをもつ母親が少なくない。母親(養育者)は乳幼児を危機に遭遇させないよう、また、躾のため、乳幼児の行動を制限する必要性にかられ、“言葉かけ”を行う。そこには母親と乳幼児の情動的関与がみられ、その目的達成を遂げにくくしている。そこで、本研究では母親の“言葉かけ”に着目し、乳幼児の自主的行動による自己調整を誘導する“してみようか戦略”を紹介し、その結果を述べることとする。
2.調査方法および内容
〔方法〕母親による乳幼児の探索行動や情動を調整させるための子どもへの通常の“言葉かけ”を2週間調査、その後、同じ母親に本研究者の“してみようか戦略”を2週間、家庭にて実践してもらった。その後、乳幼児が行動を自己調整したかどうかを、母親たちが自由に記述。補充のため聞き取り調査を行った。
[期間] 2014年4月7日~4月28日。
[場所] 港区と松戸市の二つの母子支援教室。
[対象] 親子10組(1グループ2~4組、子ども:1歳2か月~3歳1か月)。
〔してみようか戦略の内容〕 ()内は通常の言葉
①【危険なものを危なくない状態にして触らせる】「あっちいよ。さわってみる?」(待って!危ない!)②【本来の使用法を伝える】「(椅子は)座るものだよね。“たっち”するものかな」(危ないから下りなさい)③【抱っこしても泣いていたら、下す】「泣き止んだら“だっこ”できるのにな」(泣かないのよ)④【誤った行動をした時は、子ども自体を叱るのではなく、体の部分を指摘する】「このお手々が、ポイってしたかったんだね。でも、もうしないでねって、この手々に言ってね」(投げちゃダメ)⑤【乱暴に扱うときは、人差し指で触らせる】「さわりたかったの?それじゃ、1のお指(人差し指)でさわってみようか。そうっとそうっとね」(さわっちゃダメ)
3.結果
母親による通常の“言葉かけ”は制止・禁止・命令で、母親のネガティブな“言葉かけ”とは反対に、容認及び回避的な対応がみられた。結果的に乳幼児の情動はさらに高まった。同じ母親でも“方略”実施後は、養育者の“言葉かけ”と“行動”に一貫性がみられ、乳幼児に対し、自らの情動を養育者に向けることを容認しないという姿勢が“言葉かけ”と“行動”によってみられた。
グレーゾーンの子どもの母親を含む参加者達は“方略”実践後、これまでの“言葉かけ”では得られなかった子ども自身による行動の調整をあげ、その有効性を記していた。また、短期間での効果に対する驚きや喜びの声、また、自らの変容を期待する声も聞く事ができた。
4.効果と課題
“してみようか戦略”とは、乳幼児にとって人的環境である母親による教育的な援助のことであり、乳幼児が自ら『してみようか』と思えるような母親の“言葉かけ”のことである。
本研究では、乳幼児の年齢や性別、母親の年齢やパーソナリティが異なっても、“言葉かけ”により乳幼児の行動の自己調整がみられるという結果を得た。「①モノの理解②モノの概念化③人との関わり④自分の身体のコントロールの仕方⑤壊れやすいモノの触れ方」等の母親による教育的援助内容の関与により、乳幼児の変容がみられた。このことにより、低いと指摘されている現代の母親の「親役割肯定感」を高めることも期待でき、この方略実践は子育て支援の意義もあると考える。
本研究者は長年に亘り母子支援に携わっているが、その他の専門家が“方略”を伝授した場合でも母親による実践が成功するのか、また、どのような乳幼児に対しても“してみようか戦略”が有効なのか等を検証していく必要がある。また、新たな“方略”を発見、整理するという課題もあることから、今後も、人的環境としての養育者の“言葉かけ”に着目し、乳幼児の発達に係る養育者の子育てについて調査、研究していきたい。