13:30 〜 15:30
[JH04] 学級集団の理解と集団の成熟度支援と子どもの育ち
教育社会心理学研究のこれから
キーワード:学級集団, 集団成熟度, 個の育ち
【企画趣旨】
学級集団育成が学力向上や個々の子どもの良い育ちにつながることは,学校教育関係者であれば十分理解していると考えられる。他方,どのようにしてそのような学級づくりを進めていくかについては,さまざまな方法が考えられ,現在模索の途上にあると言える。
このシンポジウムでは,学級集団構造の理解とその成熟度支援研究にアプローチしている先生方に話題提供していただき,かつ,そのような学級での個々の子どもの育ちについてもエビデンスベーストで言及していただき,いくつかの方向性を検討していただくことが,本シンポジウムの目的である。
指定討論では,教育社会心理学研究の立場からコメントをいただき,討論のきっかけをご提供いただく予定である。
【教師の指導行動と学級集団構造と個の育ち】
越 良子
学級という集団は,集団であるがゆえに子どもたちに不適応を引き起こしうる。しかしまた,集団であるからこそ,その集団機能が子どもたちを育てるという一側面もある。学級集団は,集団としての機能が十全に発揮されるならば,子どもたちが自律的に相互影響を与え合い,協同的に学習を成立させ,一人ひとりの心理社会的な発達を可能にする教育機能をもっている。教師の指導行動としては,学級の集団機能をいかに肯定的な形で発揮させるかがひとつの重要な課題となると考えられる。
この観点から,ここでは「学級活動」の機能を取り上げる。学級活動の実施は,教師の意図的・計画的な学級経営の一環といえる。特に係活動や班活動などの学級活動は,学級内に自然に発生したインフォーマルな友人関係の他に,フォーマルな関係を強制的に導入し,協同をおこなわせるものである。こうした活動が学級づくりにおいて有意義であることは,現場の教師の誰もが自明のこととして首肯するであろう。ただし,この学級活動が子どもたちに及ぼす影響についての理論的考察と実証的検討は,いまだ十分ではないように思われる。
堀井(2014),堀井・越(2015)(ともに教心学会総会発表論文集)は,中学校の学級での班活動について,それが機能することで,学級内人間関係が影響を受け,向社会的行動の生起が影響を受けることを明らかにした。すなわち,班活動での相互依存と相互尊重の経験によって,班を超えた学級集団に対する意識と自己への認識が変化したことが示された。そしてこの結果については,社会的アイデンティティ論やネットワーク論の観点からの理解が可能である。この他の関連研究なども参照しながら,学級をマネジメントする教師の学級経営と,子どもたちの個と集団の発達を促す機制について検討したい。
【学級集団成熟度支援の実践と個の育ち】
折笠国康
学級集団が成熟した状態のヴィジョンを持つことが,その支援のスタートになるとの思いがある。教師,特に担任は学級経営や指導の際に多様な選択や判断を求められるが,理想とする学級の明確なヴィジョンをもつことで,常に選択や判断に一貫性を持つことが可能になると考えられる。学級経営や学級指導の際に,とかく学級全体の秩序や外からの見た目に視点が当てられやすいという傾向が,教師にはあるのではないだろうか。個の生徒がそれぞれ主体的に活躍でき,その活躍できる個の生徒の集合体としての相互作用の結果として,学級全体がますます個の生徒のためになっていくといった視点がより重要なものであるとの思いがある。なぜならば,それが学級の真の成熟した姿であると捉えるからである。
抽象的な表現である“学級集団が成熟した状態”とはどのような姿なのだろうか。上記の視点に沿って捉えたとき,一人ひとりが精神的健康のもとに,困難を克服していく活力を持ち,級友と協力しながら生活する姿勢を持つ生徒の集団とすることができると考えられる。このような状態で学級が機能したならば,昨今の学校現場で起きている多くの問題は解決の方向に向かうのではないであろうか。何よりも,生徒指導上の諸問題の予防的な機能を果たし,さらに,これからの激動の時代をたくましく生きていく上での精神的な土台を培うことに貢献するとも考えられる。
今回の話題提供では,2年次のQ-Uによるアセスメントにおいて“荒れ始め型学級”(河村, 2007)であった学級の,その後の1年間の変容を題材にすることを予定している。3年次から担任が変わり,SGE等の導入は一切なく,教師の日常のかかわり方の工夫による生徒達の気づきや,教師の言動によるモデル学習の結果としての学級全体の変容例である。3年次に実施したQ-Uや各種アンケート結果が示すように,生徒の適応的な状態のよさが際立った学級となり,この学級が他の学級と質的に違った特徴的な何かが存在すると考えることの妥当性が示されている。新3年担任の“管理型”でも“なれあい型”(河村, 2007)でもない,今までにない民主的なリーダーシップの価値観と手法である“勇気づけ”(Dinkmeyer & Mckay, 1976)をもとに生徒との関係性を築いたという特別な背景を有していたことが,大きな特徴として各種アンケートの得点差に表れたものと考えられる。
【学級集団機能と集団成熟度および個の育ち】
松﨑 学
力動的な学級集団機能を把握するために,学級機能尺度作成と,その因子の働きについて検討してきた(松﨑, 2006ほか)。小学校では,「子どもの主体性を尊重した教師のかかわり(以下,教師のかかわり)」因子が「有能感・貢献感」因子と「集団凝集性」因子に影響する構造が見出された。特に,Q-U満足群出現率80-100%の学級では,「教師のかかわり」因子が後二者にある程度高いパスを示した。他方,同80%未満の学級では,「教師のかかわり」因子の「有能感・貢献感」因子へのパスは十分高いものの,「凝集性」因子のパスは大いに低かった。つまり,集団成熟度の高い学級担任は,日常的なことばかけにおいて,「有能感・貢献感」と「凝集性」の両方を満足させるコミュニケーションがとられているものと推察された。
一方,それら学級機能3因子が「本来感」に及ぼす影響では,「教師のかかわり」が「有能感・貢献感」を経由して「本来感」に強い間接効果を示した。しかし,満足群出現率の高い学級でも,一部に「教師のかかわり」から「本来感」に負のパスが見出された(松﨑, 2013)。
あらためて,クラスター分析によって再分類すると,個々の子どもの育ち(「本来感」・自主性因子の「問題場面での主体性」および「自己肯定感」)が優れていて,かつ,SDも小さい一群の学級集団が存在することがわかった(松﨑, 2014)。
それらの学級担任は,親学習プログラムSTEP(Systematic Training for Effective Parenting ; Dinkmeyer & McKay, 1976)を通して,“ほめる・叱る”に替わって“勇気づけ・I-メッセージ”などを活用して子どもとの間に相互尊重の関係性を築くことができている可能性が示唆された。
かつ,SDの小ささは,それによって,発達障害児も低学年から中学年にかけて二次障害を創出されることなく,上学年に上がり,そこでは十分適応的に過ごすことができていることが示唆された。
激動の21世紀を生き抜く力をどの子にも育てるためにも,相互尊重の民主的な関係性を,子ども時代に経験させることのできる教師のかかわりが求められていると言える。インクルーシヴ教育を含めて,公教育がその責任を果たすことのできる選択を迫られている。
引用・参考文献(一部)
Dinkmeyer, D. & Mckay, G. D.(1976).Systematic training for effective parenting: Parent's handbook. Circle Pines, Minnesota: American Guidance Service, Inc.(柳平彬(訳) 1982 子どもを伸ばす勇気づけセミナー:STEPハンドブック1・2 発心社)
学級集団育成が学力向上や個々の子どもの良い育ちにつながることは,学校教育関係者であれば十分理解していると考えられる。他方,どのようにしてそのような学級づくりを進めていくかについては,さまざまな方法が考えられ,現在模索の途上にあると言える。
このシンポジウムでは,学級集団構造の理解とその成熟度支援研究にアプローチしている先生方に話題提供していただき,かつ,そのような学級での個々の子どもの育ちについてもエビデンスベーストで言及していただき,いくつかの方向性を検討していただくことが,本シンポジウムの目的である。
指定討論では,教育社会心理学研究の立場からコメントをいただき,討論のきっかけをご提供いただく予定である。
【教師の指導行動と学級集団構造と個の育ち】
越 良子
学級という集団は,集団であるがゆえに子どもたちに不適応を引き起こしうる。しかしまた,集団であるからこそ,その集団機能が子どもたちを育てるという一側面もある。学級集団は,集団としての機能が十全に発揮されるならば,子どもたちが自律的に相互影響を与え合い,協同的に学習を成立させ,一人ひとりの心理社会的な発達を可能にする教育機能をもっている。教師の指導行動としては,学級の集団機能をいかに肯定的な形で発揮させるかがひとつの重要な課題となると考えられる。
この観点から,ここでは「学級活動」の機能を取り上げる。学級活動の実施は,教師の意図的・計画的な学級経営の一環といえる。特に係活動や班活動などの学級活動は,学級内に自然に発生したインフォーマルな友人関係の他に,フォーマルな関係を強制的に導入し,協同をおこなわせるものである。こうした活動が学級づくりにおいて有意義であることは,現場の教師の誰もが自明のこととして首肯するであろう。ただし,この学級活動が子どもたちに及ぼす影響についての理論的考察と実証的検討は,いまだ十分ではないように思われる。
堀井(2014),堀井・越(2015)(ともに教心学会総会発表論文集)は,中学校の学級での班活動について,それが機能することで,学級内人間関係が影響を受け,向社会的行動の生起が影響を受けることを明らかにした。すなわち,班活動での相互依存と相互尊重の経験によって,班を超えた学級集団に対する意識と自己への認識が変化したことが示された。そしてこの結果については,社会的アイデンティティ論やネットワーク論の観点からの理解が可能である。この他の関連研究なども参照しながら,学級をマネジメントする教師の学級経営と,子どもたちの個と集団の発達を促す機制について検討したい。
【学級集団成熟度支援の実践と個の育ち】
折笠国康
学級集団が成熟した状態のヴィジョンを持つことが,その支援のスタートになるとの思いがある。教師,特に担任は学級経営や指導の際に多様な選択や判断を求められるが,理想とする学級の明確なヴィジョンをもつことで,常に選択や判断に一貫性を持つことが可能になると考えられる。学級経営や学級指導の際に,とかく学級全体の秩序や外からの見た目に視点が当てられやすいという傾向が,教師にはあるのではないだろうか。個の生徒がそれぞれ主体的に活躍でき,その活躍できる個の生徒の集合体としての相互作用の結果として,学級全体がますます個の生徒のためになっていくといった視点がより重要なものであるとの思いがある。なぜならば,それが学級の真の成熟した姿であると捉えるからである。
抽象的な表現である“学級集団が成熟した状態”とはどのような姿なのだろうか。上記の視点に沿って捉えたとき,一人ひとりが精神的健康のもとに,困難を克服していく活力を持ち,級友と協力しながら生活する姿勢を持つ生徒の集団とすることができると考えられる。このような状態で学級が機能したならば,昨今の学校現場で起きている多くの問題は解決の方向に向かうのではないであろうか。何よりも,生徒指導上の諸問題の予防的な機能を果たし,さらに,これからの激動の時代をたくましく生きていく上での精神的な土台を培うことに貢献するとも考えられる。
今回の話題提供では,2年次のQ-Uによるアセスメントにおいて“荒れ始め型学級”(河村, 2007)であった学級の,その後の1年間の変容を題材にすることを予定している。3年次から担任が変わり,SGE等の導入は一切なく,教師の日常のかかわり方の工夫による生徒達の気づきや,教師の言動によるモデル学習の結果としての学級全体の変容例である。3年次に実施したQ-Uや各種アンケート結果が示すように,生徒の適応的な状態のよさが際立った学級となり,この学級が他の学級と質的に違った特徴的な何かが存在すると考えることの妥当性が示されている。新3年担任の“管理型”でも“なれあい型”(河村, 2007)でもない,今までにない民主的なリーダーシップの価値観と手法である“勇気づけ”(Dinkmeyer & Mckay, 1976)をもとに生徒との関係性を築いたという特別な背景を有していたことが,大きな特徴として各種アンケートの得点差に表れたものと考えられる。
【学級集団機能と集団成熟度および個の育ち】
松﨑 学
力動的な学級集団機能を把握するために,学級機能尺度作成と,その因子の働きについて検討してきた(松﨑, 2006ほか)。小学校では,「子どもの主体性を尊重した教師のかかわり(以下,教師のかかわり)」因子が「有能感・貢献感」因子と「集団凝集性」因子に影響する構造が見出された。特に,Q-U満足群出現率80-100%の学級では,「教師のかかわり」因子が後二者にある程度高いパスを示した。他方,同80%未満の学級では,「教師のかかわり」因子の「有能感・貢献感」因子へのパスは十分高いものの,「凝集性」因子のパスは大いに低かった。つまり,集団成熟度の高い学級担任は,日常的なことばかけにおいて,「有能感・貢献感」と「凝集性」の両方を満足させるコミュニケーションがとられているものと推察された。
一方,それら学級機能3因子が「本来感」に及ぼす影響では,「教師のかかわり」が「有能感・貢献感」を経由して「本来感」に強い間接効果を示した。しかし,満足群出現率の高い学級でも,一部に「教師のかかわり」から「本来感」に負のパスが見出された(松﨑, 2013)。
あらためて,クラスター分析によって再分類すると,個々の子どもの育ち(「本来感」・自主性因子の「問題場面での主体性」および「自己肯定感」)が優れていて,かつ,SDも小さい一群の学級集団が存在することがわかった(松﨑, 2014)。
それらの学級担任は,親学習プログラムSTEP(Systematic Training for Effective Parenting ; Dinkmeyer & McKay, 1976)を通して,“ほめる・叱る”に替わって“勇気づけ・I-メッセージ”などを活用して子どもとの間に相互尊重の関係性を築くことができている可能性が示唆された。
かつ,SDの小ささは,それによって,発達障害児も低学年から中学年にかけて二次障害を創出されることなく,上学年に上がり,そこでは十分適応的に過ごすことができていることが示唆された。
激動の21世紀を生き抜く力をどの子にも育てるためにも,相互尊重の民主的な関係性を,子ども時代に経験させることのできる教師のかかわりが求められていると言える。インクルーシヴ教育を含めて,公教育がその責任を果たすことのできる選択を迫られている。
引用・参考文献(一部)
Dinkmeyer, D. & Mckay, G. D.(1976).Systematic training for effective parenting: Parent's handbook. Circle Pines, Minnesota: American Guidance Service, Inc.(柳平彬(訳) 1982 子どもを伸ばす勇気づけセミナー:STEPハンドブック1・2 発心社)