日本教育心理学会第57回総会

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ポスター発表

ポスター発表 PA

2015年8月26日(水) 10:00 〜 12:00 メインホールA (2階)

[PA042] 高校生における「先哲の思想形成過程」の理解困難性と支援可能性(1)

支援は読解過程を通じて有効か?

山本博樹1, 織田涼2 (1.立命館大学, 2.立命館大学)

キーワード:高校生, 公民科「倫理」, 理解支援

目的
高校公民科「倫理」では人生観・世界観の構築を目的に「先哲の思想形成過程」の理解が重要になる。ところが,高1では「先哲の思想形成過程」を理解する際に,構造同定で困難性がみられ,これを促すために情報的支援(標識化)を提供しても逆に低下してしまう(山・織田, 2014)。これは,基礎にある構造同定方略の未発達のためであり,同方略の使用傾向の高い高1には支援が有効でも,低い高1では無効なためと考えられる。ならば前者では構造同定方略の持続的な使用が仮定できるから,進行する読解過程を通じて情報的支援もより有効であり続けると考えられる。本研究はこの仮説を検証した。
方法
材料と参加者:山本・織田(2014)を参照。「絶対他力思想」の思想形成過程の順序型概説文を材料に,高1と大学生の各120人を構造同定方略の使用傾向より低使用群と高使用群に割り振った。
手続き:文配列課題の後に再生課題等を実施した。
結果と考察
1)高1の構造同定におよぼす効果
読解過程の序盤・中盤・終盤ごとに,各段落内に適切に文が配列された割合(構造同定率)を求め,情報的支援(以下支援)×方略使用×年齢の分散分析で有意だったのは中盤と終盤であった。
まず,中盤は支援の主効果が有意で,方略使用と年齢の交互作用が有意傾向となった (F (1,232)=2.94, p<.10)。単純主効果の分析から,高1は中盤で支援の効果は低使用群にも高使用群にも認められた(Figure 1)。
次に,終盤では2次交互作用が有意であった (F (1,232)=9.60, p<.01)。年齢ごとでは,高1と大学生とで支援と方略使用の交互作用が有意で(F (1,116)=5.56, p<.05; F (1,116)=4.07, p<.05),単純主効果の分析から,高1に支援を提供すると低使用群には構造同定率の低下をまねいたが,高使用群には効果がみられた(Figure 1)。一方で,大学生では低使用群には効果がおよんだ。
2)高1の構造同定過程におよぼす効果
まず,山本・織田(2013)を参考に読解過程で出現する段落内修正数と段落間修正数を序盤・中盤・終盤に分けて求めて,高1と大学生に分けて,支援×方略使用×修正の分散分析を行った。支援の効果は高1の中盤と終盤,大学生の終盤で見られた。特に高1の中盤では2次交互作用が有意だった(F (1,116)=5.10, p<.05)。段落内修正数について支援×方略使用の分散分析を行なうと,交互作用が有意となった(F (1,116)=5.11, p<.05)。単純主効果の分析から,高使用群で支援により段落内修正数が増大した。
次に,高1について支援が段落内修正数を介して構造同定率を促す効果を時系列でモデル化し,低使用群と高使用群について多母集団同時分析を行った。分析ツールにAMOS 21.0を用い,係数の推定には最尤法を用いた。モデルの適合度指標は,χ2 (12)=128.41, p=.06, GFI=.941, AGFI =.815, RMSEA=.070,となり,適合度は高いと判断した。Figure 2から,高1の高使用群は支援により中盤で段落内修正を高めたために,中盤以降で構造同定率が高まることが示された。
3)総合的考察
構造同定方略の使用傾向の高い高1に情報的支援を提供すると,同方略の使用傾向が低い高1とは異なり,進行する読解過程を通じて有効性がより及ぶことが示された。今後は後者で支援が無効化するメカニズムを検討することが課題である。
付記 科研費(基盤(C):23530877)の助成を受けた。